第5話0100

魔導歴506年


現界レイストル、トーラ王国は白亜の石造りを基調とした美しい街並みが象徴的な巨大都市でもある。


波紋の様に幾重にも防壁があり、その防壁と防壁の間に民家や施設が建ち並ぶ。


そんな美しい王国の中央にひときわ目立つ白亜の城。その中では銀翼の騎士団にトーラの王が命令を下していた。



「最近帝国は、いよいよ本腰をあげて魔導飛空船を量産してると報告があがった」


「はっ!」


「故に、いつ帝国と戦争になるかかわからん緊迫した状況が続いておる。しかも帝国は新兵器である“魔導機兵”を導入したしたとの報告が上がったのだ!これは実に由々しき事態である」


現在トーラ王国は反対側の大陸にあるイザベラ帝国と休戦状態である。


しかし帝国は新兵器である魔導機兵の開発に成功し、パワーバランスが崩れる恐れが出てきた。

勿論、王国が黙ってこれを見過ごすはずはない。そこで国王の第4王妃の娘である、ノノラが指揮している銀翼の騎士団に対してこの問題に対する白羽の矢が立ったのだ。


「これより王命を下す。我が娘が率いる白翼の騎士団は帝国北部にある研究施設を強襲、および新兵器である魔導機兵の情報を持ち帰る事を命ずる!」


「やってくれるな?我が愛しい娘よ」


「はっ!王の命ずるままに」


この任務は非常に危険であった。実質死んでこいと言ってるのと同義である。がしかしそんな事は騎士団全員が知っていた。


万が一、帝国との全面戦争となった場合の兵力は国に常駐させておかねばならず、偵察部隊も今は数が足りていない。


そんな状況だからこそ自分達に役割が回って来た。ただそれだけの事だ。


皆一様に国の為なら仕方ない。そう思うしかなかった。


「では本日の夕刻より作戦を決行する!」


「はっ!」



しばらくして、銀翼の騎士団の面々は各々身支度をしていた。


「お考え下さい!ノノラ様!」


声を張り上げているのは、ノノラ直近の護衛であるライルである。


「だめだ!これは王命であるぞ!たとえ意志がなくともやらねばならないのだ…。それに今の現状は、お前も分かっているだろう」


「しかし急過ぎます!明らかにこれは姫様を良く思っていない大臣達の策でしょう!」


「仮にそうだとしても私達は王国を守る指名があるのだ。今動けるのはどのみち私達しかいない、わかってくれライル」


「ならば私が共に行きましょう!」


「だから駄目だと言っている!お前は王国を代表する魔剣士なんだ、私と共に来て死んでしまったら王国近衛兵の指揮は誰がやるのだ!」


「くっ…しかし深くお考えください姫様。騎士団は確かに精鋭揃いですが絶対的数が足りません。今のままでは、帝国に向かえばあっという間に潰されるでしょう。行くのは王命ゆえいたしかたない、しかし生きて帰る事を最優先に考え下さい」


コン、コン


その時部屋の扉がノックされた。


「ストレイン大臣がライル様をお呼びだ!直ちに近衛空挺部隊修練場に来られよ!」


「ッチ、もう手が回って来たか。姫様どうか先程の言葉、お忘れ無きようお願いします。貴女もこの国の貴重な戦力であり民の旗なのだから」


そう言ってライルは部屋を後にした。


「ああ、ライルそのつもりだ。私達はやり遂げて見せる。それが多くの民の希望になる」


そう一人でノノラは呟いた。



そして時は過ぎて行き、夕刻。空はこの先の未来への不安を表している様に曇天だった。


いつもは、銀色に眩しく輝く騎士団の魔導飛行船もその輝きを失い、錆びれた様に見えるのは曇り空のせいだけではないだろう。


「均衡の魔結晶の補充、完了しました。いつでも出発できます」


「ありがとう、ルーシャ。それとすまない…この様な任務を引き受けてくれて」


ルーシャと呼ばれた金髪童顔の少女はニコリと微笑みながら言う。


「ノノラ様はいつも私達の光です!そんなノノラ様だけ危険な戦場へは行かせません!もしもの場合は私達が盾となり、お守りします!」


はっきり言って自分よりルーシャの方が女性から見ても可愛い。自分と比べ、将来はもっと広いはずなのだ。いい旦那様を見つけ、将来ずっと安泰で過ごせただろう。


「本当にありがとう。っふ、ルーシャにはいつも世話になりっぱなしだな。任務が達成した暁には私の部屋でお茶会でもしようか」


「いいんですか!わぁ!みんなでお茶会、いいですねー!楽しみです」


カーン、カーン

出立の鐘が鳴る


各々が自らの役割に沿った魔導飛行船に乗り込んで行く。次の瞬間には口笛を高らかに鳴らした様な魔導制御炉の音が響いた。


中央の王旗船でノノラは必ず任務を成功させ、再び祖国へ戻ってくる事を心に誓った。

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