出逢い
今日は、朝から雨が降っている。この窓枠
この辺りは海洋性気候で、同市北部、
傘を差して庭へ出てみた。暖かな雨の糸に操られるように、ゆっくり芝生を踏んだ。私の吐息も、巡らす視線も、忽ち一面の
私は目線を下げると、我が家のほぼ真下に建つ、つづら折りの坂沿いのひとつ手前の家の前庭で、私と同じように、傘の中から見渡していると
私の市川の実家の両親と、同年代の夫婦と、やはり私と年齢のそう変わらない姉妹の、四人家族が、南向きのその庭で、仲よく楽しそうに食事を摂っていたり、ペットの
その紺色の傘の花が、私の目の
「誰だろう?……」
私は、傘のその人を知りたくなっていた。もう、傘を持つ手も多少
そして、私の家より高度はない分、眺望は限られるであろう、にもせよ高見家最高の開放指定席に佇むその人が、家の中からの声に応えるように、微笑みながら私の方へも屋根越しに、
「あっ、あの
私の隣人への心配は、一瞬にして、私の
先日、初めての岬からの帰り道、駅方向の森の隆盛を引き連れ、緑の噴水のような、されど暖かな対流に乗ったあの女性が、大人に成長した、高見家のあの姉妹と重なるまで、時間を要しなかった。姉か妹か、どちらかはわからない。その熱伝導、拡散は、私の中の二十年という歳月を沸騰させ、図らずも回答を見せらた感覚が、私を黙らせた。私の中の少年は、岬の海のように、最早ここでも、現実路線を歩まざるを得ない時が、緩やかな凪の
この雨が、あの
きっと、私の記憶などないだろう。実際に会話を交わした事もなければ、顔すらわからないだろう。毎年の夏と年末年始に、坂のひとつ上の家の明かりが、夜になると灯る事ぐらいしか、印象に遺っていないだろうと想えた。私の家族は高見家を屋根ごと見下ろし、先方は見上げる事もないはずだ。双方が庭へ出ていても、こみらを見ているような風情さえなかった。私達はしあわせ振りを眺めるだけの、
少年と女性は
……彼女は、家の中へ消えた。がらんとしたその庭の芝生には、所々水溜まりが浮かび、人跡を拒むかのように、雨の糸さえ、ギターの弦の強い意思を想わせる降り方に変わった。自然の奏でるその和音に合わせる、街の佇まいが、
私も屋内に戻り、ソファーのテーブルに置いてある、ノートパソコンを起動させた。最近、気になるサイトを見つけている。初めてアクセスした時、その団体の所在地は、鎌倉裏駅近くとあり、申し込む前に確認の意味で、一度、場所だけでも下見に行きたいと考えていた。私も、行動せねばならない。やはり、世間の目が、怖い。そして、もう若さという拠り所にも、限界を感じていた。どうにかしたい焦りは、梅雨の走りものの
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