平和な世界

『緊急出動。緊急出動。○○にて火災発生。直ちに1番隊から3番隊まで出動来て下さい。

繰り返します。・・・・』

部屋のスピーカーからは、サイレンと出動命令が繰り返し放送されている。

でも、僕には相変わらずの要請なし。

通常火災では、僕は過剰戦力らしい。無暗矢鱈に破壊した事なんてないのに。


「ねぇ、僕の出動は?仕事は?」

誰も居ない部屋で、独り言の様に言うと


『お昼からの防災フェスタです。そこで、子供達への犯罪へ巻き込まれない為の啓発活動をしていただきます。

その後は、テレビ出演にて犯罪抑止キャンペーンのアピールをお願いします。』

と僕の耳元で声が聞こえた。

スピーカーで、コントロールルームからの声が届けられただけ。


「また、アイドル活動か。」

アイドルって、偶像、崇拝される対象って意味らしい。

世界を救ったヒーローなんだし、アイドル活動はピッタリだよな。


平和を望んでは、いたよ。

だから、ツラくても闘ってた。身体も心も傷だらけになっても、それでも手に入れたかった日常。

でも・・・

無意識に触れたのは、左手首のバングル。



・・・・・・・



「やぁ、みんなっ!

僕の事は、知っているか?」

そう問い掛けると、口を合わせた様に


『『『エレメント・ナイト!!』』』

子供達の声が響く。


「そうっ!僕が・・・」

言いながら、ショーアップの為のポーズを取りバングルへ触れる。


「装着っ!」

僕の声に反応して耳元で


【承認。アーマーを転送します。転送完了。装着確認。】

電子的な声が聴こえて直後には、銀の戦士に姿を変えていた。


『エレメント・ナイトっ!』

『すげぇ、カッコいいっ!!』

『きゃぁぁぁ、こっち向いてぇぇ。』

熱狂的な声が、僕に投げ掛けられている。

その声に応えながらも


「悪は、何処にでも現れるんだ。みんなは、よく分かっているだろう?

怪しい人には、着いて行かない。

人が居ない場所には、無暗に行かない。

危険な場所へは立ち寄らない。

分かるな?」

啓発活動での決まり文句を述べていく。

本物の変身ヒーローなんだし、効果は絶大で、子供が犯罪へ巻き込まれる件数が数割減ったそうだ。

喜ばしい事だな。



・・・・・・・



毎日が啓発活動と犯罪抑止へのアピールの繰り返し。

この平和な世界は、待ち望んで手に入れたのに、僕の居場所ではない気がしてる。

エレメント・ナイト汎用機が複数いて、災害救助や犯罪、暴力への対応に僕は必要ない。

だから、アイドル活動のみが僕の仕事に変わってしまった。


僕は、この世界に居てもいいのだろうか?

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