第6話

あっという間に整理してしまったレイを驚いた目で見つめればレイは笑って照れ臭そうに椅子をルカのそばに持ってきて座り直した。空になった段ボールにまとめたファイルを積めて軽々と持ち上げる。ルカも慌ててファイルを持ち立ち上がった。



「レイがこんなに整理上手だとは思わなかった。結構大変なんだよ」



「そうですか?これでも几帳面らしいです。部屋もめちゃくちゃ綺麗だって言われます。俺はそう思わないんですが」



尊敬を込めた目でキラキラと見つめるルカにレイは照れを越えて恥ずかしくなり少し早足で机へと戻った。親や友人からも気持ち悪い、顔に似合わないと言われ、からかわれ続けた自分の特徴をここではまた褒めてもらう。真っ直ぐに褒められる経験があまりないため、ルカの素直さは心臓に悪いが、正直とても嬉しい。にやける顔を見られないように隠しながらレイは机の横へ段ボールを置いた。



「改めて見ると、すごい量だね。これで何か発見できなかったら。。。レイの労力が無駄になってしまう」



「へ?なんですか?それ」



照れ隠しのため顔を見られないように背中を向けていたレイが勢いよくルカの方を向く。段ボールの中にあるファイルをぼんやりと見つめながら無意識に出た言葉をレイはしっかりキャッチしたらしい。まさか反応が返ってくるとは思っていなかったルカは驚きながらも、ごめんねと静かに謝った。



「え?全然いいですよ。てか、この資料整理って俺がサボったわけですし。それに無駄になっても、それはそれでいいじゃないですか」



「そうかなぁ」



「そうですよ。一生懸命やったからって全部が結果に繋がるわけじゃないですけど。俺が罪滅ぼしのためにやったのもあるし」



レイはまとめたファイルを一冊取りパラパラと捲って何かを思い出すように優しい目をした。報告書が日付順に並んでいることを確認してルカへ手渡す。ルカは受け取って不安げにレイを見つめた。



「それに、俺、この頃仕事が楽しいんですよね。さっきも言いましたが、こうやって働くのすんごく楽しいんですよ」



「そうなの?」



「はい。ふて腐れて掃除をしていた時はかなりしんどかったのに。自分でもコロコロ変わって恥ずかしいんですが。ルカさんが言ってたように自分に素直になったからかな」



新しいファイルを出して綺麗に並べられているのを確認している。大量にあったバラバラの報告書はあっという間に見やすいファイルになっていた。感情がすぐ顔に出るレイがとても明るい顔をしているので、ルカも少しずつ不安が小さくなりほっと息を吐く。



「そっか。。。よかった。コウからも同じ事を言われたよ。気にせずとことん調べてって」



「ははは!そうですか。じゃあ、しっかり調べないと。まず、特定の3人の報告書を探してみましょうか?」



レイは自分の机から付箋を取り出してルカの机に置いた。3人を色で分けて見つけたらペタペタと貼っていく。低迷期の7月から11月の報告書を二人で手分けして見直しながら3人の報告書に一通り目印をつけた。



「なんか、少ないね。それに3人とも似たような商品を売り上げてる。相手先の会社はどう?」



「どれも同じグループ会社ですよ。4ヶ月間もあるのに報告書がこれだけって変です。俺だったら、先輩たちから怒られています」



付箋を貼った報告書を数えてみても明らかに数が少ない。チーム内で指摘されなかったこともおかしい。また疑惑が増えてしまった。



「営業部って1ヶ月のノルマがあるんですが、3人ともギリギリでクリアしてます。しかも、無駄なくピッタリに。これも変ですよ」



「報告書の書き方も単調で必死で書いてる様子はないね。ほら、レイの先輩の報告書。とても綺麗に書かれている」



「本当だ。先輩はいつも書き直しが多かったから、こんな報告書初めて見ました」



11月分のファイルを閉じてレイは大きくため息をついた。なんとなく先輩が関わっているかもしれないと疑っていたが、だんだん確証に変わりやるせない気持ちが溢れてくる。ライバルだと思っていた若い社員も裏で通じていたのなら、とても残念だ。営業部にいた頃は劣等感でいっぱいだったが今は純粋にがんばってほしいと応援する気持ちが芽生えていた。



「アルさんのプレゼンが負け続けたのも、この3人が情報を流していたのかもしれない。その見返りに商品を売り上げていたとしたら」



「でも、証拠がありません。あくまでも推測です。偶然だって開き直られたら何も言えないですよ」



ルカもファイルを閉じてフル回転していた頭を休ませるように天井を見上げた。文字は書き手の心情をそのまま訴えてくる。感情を圧し殺したような報告書にルカも気持ちが重くなって思わず息を吐いた。



「レイ、今度は12月から2月分の報告書を見てみよう。書き方が単調なのはわかったけど、もう一つ気になるのは、この報告書を見た上層部の反応が何もないことだよ。売上が上がっても下がっても指示がないなんて、おかしい」



「確かに。。。まるで黙認しているみたいです。3人の報告書を見た役員はそれぞれ違いますが、ヨシザワ部長の印鑑があるのに何も書いていないのも引っ掛かります」



人を褒めたり叱ったり、部下想いのヨシザワが特定の3人に指示をしなかったのもおかしい。クレームや得意先回りで忙しいヨシザワだが、部下の報告書に目を通した時には何かしら赤ペンで手紙のように簡単なメッセージを残していた。レイもヨシザワから時々赤ペンでメッセージをもらっている。励まされたり突っ込まれたり。次の営業に繋がるヒントもたくさんあった。



「ヨシザワ部長って全部の報告書に目を通すの?」



「いいえ。数が多いですからね。部長の他に役員が確認して捺印します。全部見たいっておっしゃってましたが、それじゃあ、毎日机から離れられませんよ」



「そっか。だから、ヨシザワ部長の印鑑があるのとないのとあったんだ。印鑑が押してあるなら、目を通してるってことだよね」



偶然なのか3人の報告書にはヨシザワの印鑑が押されていた。赤ペンでメッセージが書かれてある報告書に押された印鑑と同じで、別の印鑑を使われた形跡はない。確実にヨシザワの持つ印鑑が押されている。それでもレイは首を傾げて納得いかない顔をした。



「忙しくても手書きで言葉を書いてくれるんですけどね。おかしいなぁ」



スッキリしないまま売上が劇的に上がった1月分を見てみる。ほとんどの社員が売上の成果を喜ぶようにぎっしり文字が書かれていた。売り上げた商品は消耗品から最新型の器具と様々で、中にはずっと交渉し続けた成果を誇らしげに書いているものもあった。



「売り上げた相手先の会社を見ると、見慣れない名前も出てきたね。書き出して隊長に見てもらおう」



「はい。ルカさんが言ってた通り3人の取引先、すべて同じグループ会社ですよ。入れ替わっていますが、他の取引先が見当たらない。2月分はどうでしょう?」



今度は二人で一番売上高がある2月分の報告書を見直してみた。金額が大きい取引ほど同じ会社名が出てくる。ルカとレイは顔を見合せ、やっぱりと頷き合った。



「営業部が低迷していた時も劇的に売り上げた時も、上層部は黙認していて取引先も同じグループ会社ばかり。変だよね」



「はい。プレゼンの資料も臨場感がなく淡々としていました。まるで選ばれるのがわかっているみたいに。でも、証拠にはなりません。どうやって突き詰めるんですか?」



レイの問いかけにルカは難しい顔をして苦しそうに唸った。不審な点があるのものの報告書としては何ら問題はない。純粋に商品を売り上げ上層部からも認められている。



「隊長に報告して指示をもらおう。レイ、急に売り上げた取引先のメモ取った?」



「はい。あの、印鑑って簡単に同じものを作れるものなんでしょうか?」



レイはまだヨシザワが印鑑を押しているのに赤ペンでメッセージを書いていないことが気になっているらしい。ルカは念のためヨシザワの印鑑が押されていて、メッセージが書いてあるものと書かれてないものの報告書をファイルから取り出した。



「これも隊長に見てもらおっか。そうだ!隊長の机からルーペも一緒に持っていかなくっちゃ」



「。。。。」



ルカはリュウガの机の引き出しから銀色の丸く分厚いレンズを取り出し二枚の報告書の上に置いた。レイは何とも言えない顔でじっとルカの動きを見守っている。不思議そうに見上げたルカに、どうでもいいがずっと気になっていたことを告げた。



「隊長の引き出しって、どうなってるんですか?なんか、前、見たこともない工具がガシャガシャ出てきたんですけど」



「ああ」



リュウガの引き出しは異様に広く深く作られていた。後ろの棚にも様々なものが綺麗に収納されている。リュウガ自身いろんなものを作るのが大好きで、道具も使いやすいように改造しているらしい。



「隊長の引き出しってなんでもあるんだよ。足りなかったらパンフレット見て頼んだりしてる。この件が解決したら、見せてもらうといいよ」



「はぁ。。。隊長って自由ですし、ほんと謎ですよ。まあ、今さらですけど」



リュウガの過去や経歴が全くわからない。持ってきたレンズも本格的なもので、どうしてそんなものを持っているのか検討もつかない。聞いてみたいが聞くのも怖い気がする。



「頼りになるってことだけはわかるんですけど。俺には深すぎます」



「ははは!」



整理したファイルを段ボールに戻し、ルカとレイは中央の寛ぎスペースへと歩いていく。こたつの上で何やらパソコンを操作しているリュウガに新しく記したメモと二枚の報告書、レンズを渡し、気になったことを報告した。



ルカとレイの報告を聞きながらリュウガはうんうんと頷き、簡単な質問を繰り返す。問いかけられたシンプルで何気ない言葉に、考えながら答えていくともやもやと霧に包まれていた頭がスッキリと晴れていくのを感じる。疑惑は疑惑として無理に結論付けなくていい。リュウガの軽やかでふわっとした口調から暗くて重い気持ちが少しずつ軽くなっていく気がした。



「なるほどなぁ。それは落ち込むだろうね。レイ、大丈夫?このまま深く調べても辛くない?」



「はぁ、まあ。。。落ち込みはしますが、どうしてもはっきりとした事実が知りたいです。あいつや先輩が不正の売上を上げていたとしたら、その理由っていうか」



「正々堂々が好きだもんね~~、レイは」



あっけらかんとした声で的確に心情を指摘されて恨めしい気持ちもあるが、ここは素直に頷いておく。自分には知らない裏側があるのなら知っておきたい。そう考えると胸の辺りがどんよりと重くなったが、そばには軽やかで優しい書籍部の仲間がいる。できる限りどこまでも調べてみたい。



「中途半端に暴いても傷が深くなるだけだし。。。隊長、どうしますか?」



二枚の報告書とレンズ、メモ紙をパソコンのそばに置いてルカは静かにリュウガを見た。リュウガは動かしていたマウスを止めると、画面上を画像を何やら拡大し、見てごらんと二人に優しく促した。



「これ、インクですか?」



「そうそう。アルの資料にあった7人の筆跡とインクをね、調べてみたんだよ」



「細か!!てか、この繊維、紙ですか?」



拡大された黒のねばっとしたものと羽のように細い糸のような物質が画面上に広がる。リュウガが隣にあるカラフルなボタンをポチッと押すと、黒の線が赤や橙色に変わり何やら小さな数値も一緒に表示された。



「なんですか?これ。赤から紫まで。色が徐々に変わって、レインボーだ」



「あ!隊長、これってもしかして。使われているインクの量で文字の筆圧を表してるんですか?」



「ピンポーン!」



ルカの指摘にリュウガは人差し指を立てて正解とばかりに明るく笑った。ルカは驚いたまま画面上のカラフルな線を見つめる。数値はインクが使われた微細な量を示しているらしい。いつの間にこんなものを作ったのかレイは何も言えないままリュウガに視線を送った。



「ふふふ。もう、二人とも!そんなに褒めたら照れるじゃないか!!いやー、初めは俺のロマンを叶えようってメガネくんに打ち明けたんだけど」



「。。。褒めてませんよ。。。なんですか、そのロマンって」



「ふふふ!自分だけのオリジナルインクをさー!!ブレンドして作ってみたくなって!んで、俺の書き方にピッタリのインクを探そうとにやにやしてたのさ」



オリジナルのインク!自分には全く思い付かない発想だ。何だか興味を引かれてレイは相づちをうち、体をリュウガの方に向けた。面白いと顔に書いてあるレイにリュウガはますます嬉しそうに笑い口を開く。ルカは楽しそうな二人を見守りながら優しく笑い、また真剣な表情で画面を見た。



「人って書き方に癖があるだろ?俺の癖に合わせたピッタリのインクを作りたい!って前々から思ってたのさ~~。メガネくんも万年筆好きだし」



「俺も好きです!カッコいいですよねー!あのインクのかすれ具合や継ぎ足して使った時のにじみとか!」



レイの明るい声にリュウガは顔を綻ばせて、うんうんと深く何度も頷く。万年筆好きの仲間が増えて二人して楽しそうに笑った。



「レイの歓迎プレゼント、どうしようか迷ってたんだけどさー、もう万年筆で決まりだね。金ぴかの万年筆にしようかなぁ」



「え!?そんな、俺、まだ何も役に立ってないし。そんなプレゼントなんて、もらえませんよ」



「ふふふ」



全力で拒否するレイをリュウガが何か企んでいるような顔でまた違った含み笑いをした。この事件が解決したらお祝いしないとと小さく呟いてにやけた顔を引き締めるように自分の頬を軽くつついた。



「さてさて、それじゃあ証拠品を見てみようか」



「証拠ってほどでもないですけど。。。ヨシザワ部長の印鑑が気になって。隊長のレンズも一緒に持ってきました」



真剣な表情で見つめていたルカに話しかけると、画面から視線を外し調べてほしいと伝える。リュウガは分厚いレンズを目に当ててこたつに持ってきていたスタンドの光を強に切り替えた。二枚の報告書に押印してあるヨシザワの印鑑を丹念に見つめた。



「どうですか?」



「うーん、これ、同じ印鑑で押されてるよ。だって、ヨシザワ部長の印鑑、俺が壊したしね」



「へ?そうなんですか?」



レンズを外し何かを考えるように上を見ながらリュウガは何気ない口調で気になることを言った。不思議そうに話の先を待つルカとぎょっとした目で固まっているレイに過去の行いをしみじみ思い出しながらのんびりと口を開いた。



「ヨシザワ部長。いつも印鑑を引き出しに入れて持ち歩かないからさぁ。不正に使われたら大変だろ?全く同じの新しい印鑑作られても困るし。だから、真似できないような傷をつけたのさー」



「ええ!?マジですか!?」



「わぁ。。。」



不正防止のためとは言えそこまでやっていたとは。二人とも驚きながらもリュウガに持ってきた報告書の印鑑をもう一度見直す。丸い外枠の部分に小さな空白があり、所々特徴的な線も入っていた。



「これなら、新しく印鑑を作られてもわかるだろ?部長を説得すんの、疲れたわー」



「そうだったんですか。人を疑うのを毛嫌いする人ですからね。。。じゃあ、二つの報告書に押された印鑑は同じもので間違いないと?」



「うん」



リュウガは口元をきゅっと引き締めて二つの報告書を見比べた。ルカが気になった赤いペンでメッセージが書いていない方を注意深くレンズで見る。一枚だけではわからない。レイにヨシザワの印鑑が押された報告書をできるだけ多く持ってくるよう指示した。



「朱肉のつけ具合もこの装置で見てみようか。肉眼ではわからないものも数値化してくれる。気になるんだよね?」



「はい」



ルカはマウスを動かしてリュウガが見ていた7人の筆跡と筆圧をじっと見ている。リュウガは嬉しそうに小さく笑って、装置の使い方を教えた。この装置はルカ専用になるだろう。開発部の同期はさぞかし飛び跳ねて喜ぶに違いない。



「その前に、この7人の筆跡と筆圧を覚えておきたいです。こうして色で示されると、とてもわかりやすいですね」



「うん。不思議だよね。人って顔だけじゃなくて、文字も書き方や力の入れ方で個性が出る。無意識に心を表してるんだから」



操作を教えるとすぐに使いこなし、夢中で画像を見つめるルカをリュウガは優しく見守り穏やかに目を細めた。プレゼンの資料はパソコンで打ち出して印刷されている。しかし報告書は想いを込める、自分の営業活動を見直すという理由で手書きで書くことが義務づけられている。そこには不正を防ぐという意味も含まれていた。



「持ってきましたよ!ヨシザワ部長の印鑑が押されている報告書。これでどうですか?」



「お!ありがとう。じゃあ、ルカ。スキャンしてみて」



報告書の中で印鑑の部分だけを綺麗にスキャンする。画面上にスキャンした印鑑の朱肉量を示した数値と色の変化がゆっくりと映し出された。驚いたのは見事に赤ペンでメッセージが書かれてあるものと書かれていないものでは朱肉の量が違っていた。詳しく見てみると、メッセージが書いてあるものは均一にほぼ同じ数値が表されているのに対して、メッセージがないものは朱肉量を示す数値がバラバラで統一されていなかった。



「メッセージが書いてあるものは、ヨシザワ部長が押していて、他のものは別の人が印鑑を押している。。。」



「ってことですよね。ヨシザワ部長の印鑑ってどこにあるんでしょう?」



「おそらく、部長のことだから引き出しなんじゃない?鍵はかけてるだろうけど」



リュウガは明るくしょうがないと肩をすくめ、出てきた解析結果をじっと見つめた。印鑑の押し方にも癖が出るらしく、もっと突き詰めれば誰が印鑑を押したのかおぼろげながらもわかりそうだ。しかしそれには地道で膨大な労力が必要になる。報告書に押されている役員や社員の印鑑部分をスキャンし、それぞれの朱肉量の特徴がわかるまで何度も同じ作業を続けることになるからだ。



「ヨシザワ部長が押印していない報告書があるってわかっただけでも大きな手がかりだよ。プレゼンの資料だって、部長が確認しないまま作成されてるものもこれでわかるわけだし」



「そうですね。ルカさん。今度はプレゼン資料に押印された部長の印鑑を調べてみましょう。印鑑だけでヨシザワ部長不在のまま行われたプレゼンもあるかもしれませんし」



「。。。。そうだね」



調べるなら徹底的に調べたいと悔しそうな目をしているルカをリュウガとレイはやんわり止めて、再びプレゼン資料を引っ張り出した。ヨシザワからもらった資料はアルからの資料より数が多い。資料すべての印鑑をスキャンするのも大変な作業だ。真剣な目の光は衰えないものの、少し疲れた色が見え始めたルカに、リュウガとレイはそっと休むよう顔を覗きこんだ。



ルカの顔に疲労の色が出てきた。そういえばルカは夕方まで寝ると言っていなかったか。一昨日から営業部の報告書が多く、夜通しデータを入力していた。休ませた方がいい。プレゼンの資料から印鑑部分をスキャンしようとしたルカの頭を優しく撫でて、机の横に敷いてある布団を指差した。



「不本意だろうけどさー。少し休んでよ、ルカ。コウからもメールで休ませるように言われたし。寝てないんだろう?」



「そうですよ、ルカさん。横になってください。あ、俺、綺麗にしてきます」



レイも同意しすぐにこたつから出てルカの布団を整え始めた。やっと何かはっきりしたものが見えてきたのに中断して休むのは悔しい。そんなルカの想いをなだめるようにリュウガは頭を撫でて、歯磨きしないとねと朗らかに笑った。



「結果はちゃんと報告するよ。働いてくれた体に感謝して、しっかり休んであげて。あ、よかったら夜食のおでん食べて寝る?」



「。。。わかりました。ちょっとお腹も空いてきたし、食べて寝ます」



体を休ませることに関してはリュウガもコウも厳しかった。ここで駄々をこねて作業をしようとしても二人は許してくれないだろう。温かいおでんを取りに行こうと体を動かせば、リュウガはこのままゆっくり寛ぐよう促した。



「なに食べたい?大根にこんにゃく、まるてんに餃子天、卵とかー。大鍋に作っちゃった」



「ふふふ、いっぱいありますね。じゃあ、大根二つと餃子天と、タコありますか?」



リュウガは嬉しそうに、あるよー!と言って立ち上がりキッチンの方へそくささと走っていった。何も走らなくてもいいのにと風のように消えた背中を見送って、もう一度画面上にある解析結果を見つめる。朱肉の量がわかりやすく色で表示されて、印鑑の押し方にも違いがあることがわかった。ヨシザワの印鑑を使って不正に押した人物を特定したい。役に立つ立たないよりも、どこまでも調べたい衝動に駆られた。



「お待ちどう~~。ルカ、たんとお食べ」



「わぁ!ありがとうございます。大根、大きいです。タコも肉厚だ」



綺麗な器に盛られた大根と餃子天、タコがルカの前に置かれる。箸置きと箸もすばやく用意され、なんだかくすぐったいなと思いながら美味しそうな大根を半分に崩した。



「味が染みてます。。。もうそんなに時間が経っていたんですか?」



「うん、18時だよ。1時間おきに休憩させたかったんだけどさー、二人とも真剣に一生懸命やってたから。俺も一緒にやってみることにした」



リュウガは自分の分もちゃっかり持ってきて、最近好きになったというお気に入りの具材、牛スジを味わうように口に入れた。



「コウから抗議のメールが来たよー。休ませなさい!隊長も休みなさい!って。いい仲間を持ったわぁ」



「ははは!」



一口大根を頬張れば本当はかなり空腹だったことに気づいた。大きな大根をあっという間に食べ終えて、二つ目もするりと腹の中へ入っていく。柔らかいタコを味わって、残った餃子天にかぶりつけば、天ぷらに包まれた餃子の肉汁が口の中にじゅわっと広がった。



「ルカさん、準備できました。冷えるかもですから、湯タンポ作りましょうか?」



「えっと、いいのかな。なんかしてもらうばっかりで」



美味しそうに食べている二人へレイが声をかけ近づいてくる。朝御飯を作った時に冷え性だと話したことを思い出し、ルカは遠慮がちに呟いた。



「気にしないでくださいよ。俺もおでん食べたいんでキッチンに行きますし。隊長、何でも食べていいんですか?」



「いいよー!コウにもメールで伝えてあるし、好きな具材買ってくるって」



おでんの汁を一気に飲み干してレイに向かって皿を突き出し、丸てん、こんにゃく、餃子天、大根と元気よく言った。



「持ってこいってことじゃないですか!全く、そんな小さな皿には入りません。片付けますよ。ルカさん、湯タンポって棚に入ってましたよね」



呆れたように言い返しながらも、どこか楽しそうなレイはルカに湯タンポの置場所を確認してキッチンへと歩いていった。小さくなった餃子天を口にして食べ終えると、体がぽかぽか温かくなってくる。それと同時に急激な睡魔がやってきてルカは瞬きを何度か繰り返した。



「疲れが出てきたみたいだなー。ルカ、歯磨きして、そのままお休み。大丈夫?立てる?」



心配そうに覗きこむリュウガにルカは大丈夫だと頷いて足に力を入れた。何とか立ち上がり洗面台の方へ歩く。眠気を振り払うように背伸びをして、置いてある自分の歯ブラシを取った。洗面台の大きな鏡を見ると、眠そうな自分の顔が写っていて顔色も悪い。これでは心配をかけてしまうなと少し反省した。



「疲れが顔に出ている。。。きつそうだなぁ」



思わず笑っていると鏡の前の自分も笑っている。もう少し自分を大切にしないとなと苦笑して、鏡の前の自分を静かに見つめた。



歯磨きを終えて洗面台から戻るとレイが布団の中に湯タンポを仕込んでいた。枕に可愛いタオルをのせて綺麗にシワを伸ばしている。甲斐甲斐しく世話をするレイは妙に様になっていて、その上楽しそうだからなんだか遠慮する気になれなかった。



「ルカさん、もうすぐコウさんが帰ってくるそうです。早く寝てください!休ませてなかったら、俺と隊長が大変なことになります」



「え?そうなの?」



「はい。ほら、隊長の慌てた様子を見てくださいよ!こっちを見てそわそわして、何か言いたげな顔を全力で表現しています」



コウから新しいメールが届いたらしい。スマホを見て顔をしかめた後、キョロキョロと辺りを見回し、訴えるような切実な目をルカに向けた。これは相当ヤバイようだ。



「すぐに寝るよ。前から休んでいたことにしておいて。コウにはバレちゃうかもしれないけど」



「ぜひ!あ、目の上にこのアイマスクをつけて下さい。表情も隠れますし、ぐっすり眠れます」



ルカはすばやく布団の中に体を入れるとレイから受け取ったアイマスクを目にセットした。ほんのり温かいアイマスクが目元を優しく包み込んでくれる。静かに息を吐くと追い払ったはずの睡魔がどこからともなくやってくる。急に動かなくなった体を感じていると、ふわっとした布団の感触が肩まで覆ってきた。



「おやすみなさい、ルカさん。何かあったら言ってくださいね。あ、騒がしくても言ってください」



「ふふふ!全然気にならないよ。いつも通り話をしていて」



そばにあった気配がゆっくりと遠ざかって部屋の中央部分で何かを話し合っている声がする。足元にある温かい湯タンポを心地よい場所へ足で器用に動かすとルカはやってきた睡魔に意識を手放した。



ルカが布団に横になってゆっくり休んだのを確認すると、リュウガとレイは無意識のうちに安堵の息を吐いた。レイはコウとまだ連絡先を交換していないが、リュウガの慌てようからとんでもなく怖い気配を感じて思わず二人で頷きあった。凄まじい怒りの嵐は無事避けられたのだ。



「隊長、安心しておでんを食べましょう。今さらですが、いただきます」



「おうおう。良くやってくれた、レイ。たんとお食べ」



おでんと一緒に持ってきた抹茶入りのお茶を急須から湯飲みに注いで、満足げに飲んでいる。二人が心底ほっとした瞬間、書籍部の扉が開いた。ゆったりとした長身の影が靴を棚に置き、リラックスした雰囲気で二人に近づいてくる。レイは何事もなかったかのように必死で大根を頬張り、リュウガは動揺を抑えながら湯飲みでさりげなく口元を隠した。



「ただいま~~!お、ルカ、休んでるね。良かった~~。冷えピタなくなってたから買ってきたよ」



「お、おうおう」



「それと、おでんの具材に新しいスルメがあったから、買ってきた。ボウちゃんは何が好物なの?わからなかったから、とりあえず唐揚げ買ってきたけど」



「あ、ありがとうございます!!!」



ホカホカの唐揚げを受け取って中身を開けると、美味しそうな香りが鼻をくすぐる。リュウガもスルメと聞いて一気に飛びついた。コウにココアをリクエストされて、レイは立ち上がりキッチンへと歩いていく。冷えた体を迎えるようにこたつを開けば、コウは明るく笑って堀こたつの中に足を突っ込んだ。



「あったか~~い!やっぱり、ここは良いね。落ち着く」



ゆっくりと足を伸ばし寒さで縮こまっていた体を思いっきり大きく伸ばす。本拠地に帰って来た、仲間の元に帰って来たという安心感がとても心地よい。嬉しそうに背伸びするコウをリュウガは目を細めて微笑ましく見つめた。



「隊長ー、僕の好奇心を許してくれてありがとう。転職した社員の様子、聞いてきたよ」



気持ちさそうに和んでいた顔を少し引き締めてコウはリュウガを見た。コウの表情からあまり明るい話ではないなとリュウガも大好きなスルメを一旦こたつの上に置く。思ったより暗い顔をしているので、まずはおでんを食べてから話すようコウに伝えた。



「隊長、ありがとう。なんか、いろいろ考えちゃった。僕さー、ほんと、一緒に働く上司や同僚や後輩に恵まれてるなって心底思った。あ、それぞれ一人しかいないんだけど」



「おうおう」



こたつの温かさを楽しむように手も中に入れてコウは天井をおもむろに見上げる。今日会った人物や聞いた話を思い返し、物思いに耽っていると、キッチンからレイがココアや皿と共にやってきた。鍋敷きも一緒にぶら下げているから、おでんは大鍋ごと持ってくるようだ。



「コウさん、お疲れさまです。ゆっくりされてください。あ、買い物してきた具材、冷蔵庫に入れましょうか?」



「。。。うん、ありがとう、ボウちゃん」



ずいぶん気が利く。というかココアを持ってくる姿が様になっている。具材を手渡すと嬉しそうに受け取ってキッチンへと消えていった。



「ボウちゃんってあんなにイキイキしてたっけ?すんごく自然なんだけど」



「うーん。もしかして、レイって家事好きの世話好き?」



コウから言われてリュウガもキッチンの方を見る。なんにせよ、本人が楽しそうだから良かったなぁとリュウガはのんびり呟いた。



リュウガが作ったおでんが美味しい。昆布やら鰹やらわからないが、出汁の旨味が溶け込んだ汁に具材の柔らかさが引き立つ。短時間で作ったから冷蔵庫のどこかに長時間煮込んでしっかり作った出汁を隠していたに違いない。レイはルカおすすめのタコを食べながら、尊敬の眼差しをリュウガに向けた。部下のためにここまでしているなんて。しかも、影でこっそり。キラキラと輝くレイの光に気づいてリュウガは、ふふふと意味深な笑みを浮かべた。



「レイ、この世には、おでんの元という至高の技術と欲望の末に生まれた神秘の粉があるのさ。おでん好きにはありがたい、素晴らしい価格で堂々とスーパーに鎮座している。。。」



「は?何ですか?それ」



そういえばレイは御曹司だったなとリュウガは思い返した。小宮シティ副社長となれば豪華な別荘をいくつも持ち、お手伝いさんも多数いると聞いたことがある。小さな頃から世話をやかれスーパーなど行ったことがないのかもしれない。明日の夜は女装ついでにスーパーに連れていこうかなと壮大な計画を立てて口元をにんまり緩ませた。



「。。。隊長、また良からぬことを考えてるでしょ。。すんげえ顔に出てますよ。。。」



「気のせい気のせい。レイ、もうちょっとおおらかにど~~んとしててよ」



口元をわざとらしく引き締めてにやける顔を無理やり無表情にもっていく。どう見ても不自然で怪しい。自分の防御本能は当たっているとリュウガを軽く睨んで柔らかい大根をまた一口食べた。



「なーんか、いいなぁ。和やかで。はぁ、僕、書籍部でよかった」



「?」



自分の皿にあったおでんをあっという間に食べたリュウガが大鍋から食べたい具材をいそいそと注いでいる。ちくわ、ごぼう天、タコ、卵、まだまだ食べる気だなとコウは笑った。



「どうしたんですか?あ、熱すぎて食べれないとか。コウさん、猫舌ですっけ?」



「ううん、違うよ。ありがとう、レイ」



こたつの上に置かれたおでんをゆっくりと味わってコウはまた感慨深げに息を吐く。勢いよく元気に食べるリュウガに、報告するねと前置きをしてゆっくり口を開いた。



「転職した社員のことを聞きに行ったんだけどさぁ。みんなリストラ対象なの。しかも、職場の人たちから陰口たたかれてた」



「え?コウさんの会いたい人たちって転職した社員だったんですか?」



「うーん」



レイの問いかけに、ちょっと違うかなと視線を落としてまた息を吐く。転職した社員の様子を偶然知り合いから聞いたらしい。興味を引かれて詳しく聞くと、来客を装って実際会社に来ればいいと提案されたようだ。



「もう、ショウちゃんってば意地悪なんだから。ショウちゃんって僕が営業部の頃、プレゼンで競い合ったライバルなんだけど」



「へー!」



他社のライバルだった人と今でも交流があるのか!レイは驚きと羨ましさでコウを見た。コウの凄いところは人との繋がりをこんな風に自然に、しかも長く続けられることだ。コウが営業部から書籍部へ配属になってもう10年以上経っている。レイの驚きをよそにコウは浮かない顔のままゆっくりと口を開いた。



「ショウちゃんから、転職した社員のこと聞いてたのね。まあ、小宮シティの内部情報を流してるかもっていうことも。それより僕が気になったのは、転職した社員がみんなリストラ対象になってるってことだよ」



リストラ対象?転職してまだ半年しか経っていない。相手先の会社にぜひ!と言われて転職したのではなかったか。聞いた話と違うなとリュウガも首を傾げる。転職した社員にはコウの同期だった人もいて、一緒に働いた日々を思い出し悲しそうに先を続けた。



「情報ってどんどん新しくなるでしょ?初めは小宮シティの情報を流して珍重されてたらしいんだ。でも、それが通用するのはせいぜい1ヶ月くらい。そこからまた実績をあげないと」



「これまで積み上げてきた信頼や信用を使えばいいんじゃないですか?付き合いのある会社やお客様を回れば。。。」



営業はどの会社に行っても基本的に変わらない。自分で人に会い信用を積み上げ商品と人を繋ぐ。会社というより人と人との繋がりだ。そう思っていたレイは、まさかと眉をひそめた。



「小宮シティっていうバックボーンがあったから、お客様は転職した先輩たちを信用してたってことですか?会社が変わったら、態度が変わったんじゃ。。。」



「うん」



コウは悲しい顔をさらに曇らせて小さく息を吐いた。転職した理由が小宮シティの情報を相手先に教えるためだと相手先に伝わっているため、さらに信用をなくし相手にされなくなっているそうだ。



「結局ね。ヘッドハンティングの理由だって、小宮シティの情報が欲しいから、だったらしいよ。ショウちゃん、そういうやり方に反対してたんだけど、あそこも内部で分裂してるから」



「あそこって、大手の古河商事ですか?すごいなぁ、コウさん」



古河商事といえば売上を伸ばし続け、学生や社会人の間で人気の高い大きな会社だ。小宮シティ営業部でもプレゼンのライバルとしてたびたび競い合い、憧れを持つ社員もいる。自由な社風で制服やスーツという縛りもなく、好きなときに好きなだけ仕事をし、結果を出すことを重視している会社だ。



「古河商事が影でそんなことをしているとはなー。見た目ほど業績が良くないのかもね」



「そう思う?隊長。実は、ショウちゃんも言ってた。ショウちゃん、重要なこと簡単に言っちゃうから。営業がね、育たないんだって」



コウは注いでもらった大根を小さく割ってゆっくりと口に入れた。堀こたつの温かさとおでんの熱さで体が優しく解れていく。中まで染みた大根を味わい、満足げに息を吐く。たいぶリラックスしてきたコウを見てリュウガとレイは安心したように優しく笑った。



「良かった。コウさんが暗い顔してるって落ち着きません。気になったんですけど、営業が育たないってどういうことですか?」



「あー、うん。ふふふ。美味しいね。えっとね、なんか同じ会社ばかり回るようになったんだって。古河商事って言えば商品が自然と売れるから」



「おー」



コウはライバルであるショウが言っていたことをそのまま二人に話した。古河商事という大きな看板に何もしなくても客はやってきて、最近は営業どころか接待を受けることも多くなってきたらしい。



「よくわからないけど商品の説明をしなくても相手先はどんどん買ってくれるし、プレゼンも形式的なものだけで。。。だから、営業部全体の空気も変になったって言ってた」



「。。。。」



「なんか、怖いですね」



営業部の頃いろんな工夫をして客に商品を買ってもらえた時とても嬉しかったし、営業成績が上がれば上がるほど自分の価値も上がっていくような気がしていた。結果に執着して劣等感や競争心も激しくなったが、それもいい経験だったと少しずつ思えるようになっていた。



「新人は異様に態度が悪いし、相手先の役員の親族がいきなり中途採用されてきたり。営業どころじゃないんだって」



「完全に癒着してるんじゃ。。。それで、ショウくんはどうするって言ってた?」



「うん、もう見切りをつけて辞めるみたい。それで、お金が貯まったから世界中を旅行して見てみるって言ってた」



コウからショウの話を聞いてリュウガは安心したように優しく笑った。ショウくんらしいなぁとしみじみ呟く。穏やかな目をしている二人をレイは良いなぁとのんびり見つめた。



「ショウちゃん辞める前にきっちりけじめつけたいって、不正の証拠を探してるんだって。僕にも協力してほしいって言われた」



「おお!心強いな!んじゃ、今日の報告、コウにも話そうか」



「はい」



沈んでいた顔を上げてコウはレイを見る。ヨシザワの印鑑やプレゼン資料の疑惑などを話すとコウは興味津々に目を輝かせた。



「よくそこまで調べたね!そうなんだ。じゃあ、ヨシザワ部長の知らないところで報告書が作られて役員まで回されてる」



「はい、印鑑の押し方が明らかに違いました。次はプレゼン資料の印鑑を調べてみようってしてたんです」



「すごい!」



コウはキラキラと輝く目で二人を見る。褒められたレイは照れ臭そうに笑って、リュウガは受け止めるように大きく頷いた。



「まずはゆっくりおでんでも食べてね。プレゼン資料を調べよう。長丁場になるから、しっかり休むように」



「ふふふ、はい、隊長」



上司らしくコウに指示したリュウガを嬉しそうに笑ってちくわを一口食べる。深く染みた柔らかい味と優しい堀こたつの温かさにコウはほっとしたような明るい表情を浮かべた。



温かいおでんに癒された後、かろうじて少し具材が残っている大鍋を片付けてキッチンへ持っていく。お皿も箸も下げて綺麗に机を拭き、ヨシザワからのプレゼン資料を画面上に出した。



「プレゼン資料、たくさんある。。。アルからの資料にもぽっちゃり部長の印鑑があるでしょ?それも調べないの?」



「アルのパソコン、異様にセキュリティがしっかりしてるからなぁ。パスワードを解読するだけで一週間はかかるぞ」



「え?そうなの?僕、気軽に見せてもらってたよ」



コウが心底驚いた顔でリュウガを見つめる。何とも言えないような渋い顔をしてリュウガは素早く印鑑部分をスキャンした。マウスの操作が速い。あっという間に画面上に出された印鑑の解析結果が次々と出来上がっていった。



「それはコウだからだよ。。。俺、一度アルのパソコンに面白い画像を入れてやろうって操作したことあるもん。そんときの大変さと言ったら。。。」



「。。。隊長、そんなことしてたんですか?営業ちゃんとやってたんでしょうね?」



リュウガとコウが営業部だったのはもう10年以上も前のことだからまだ入社して5年目のレイは全く知らない。話にも上がらないので当時二人の成績も聞いたことがなかった。



「えー、俺やってたよ、営業。メガネくんの商品とかめちゃくちゃ売ったもん。お客さんにさ、リュウガくん、今日はどんな面白いものを持ってきたんだね?ってにやにやしながら言われてたし」



「類友ですか!お客さんも類友ですか!」



「隊長って全く売れない商品ばかりバンバン売ってたもんねー。救世主とか、宇宙から来た使者だとか言われてた」



コウは楽しげに笑ってリュウガの手元を見る。いつもの通り軽口を叩いているがマウスを動かす手は止まらない。解析結果を印刷するためリュウガの机にあるプリンターを取りに行こうと体を動かすと、それを察したのかレイが素早くこたつから立ち上がった。



「俺、持ってきます。あと、必要なものはありますか?」



「ボウちゃん、ほんと機敏になったねー。僕もデータを欲しいから、引き出しにあるUSBも取ってきてくれる?」



行動が速いレイに感心しながらも、ついでにと自分の机を指差して頼む。レイは嬉しそうに頷いて机の方へ歩いていった。画面上に出された結果を見てもコウにはよくわからない。印鑑部分に沿っていろんな色が数値と共に表れているだけだった。



「すごーい!こんなにはっきり数字が出るんだ!でも、ぽっちゃり部長が押したのかそうでないかってわかるの?どれも特徴がいまいちわからないんだけど」



「うん、ヨシザワ部長の押し方はさー、こう、上のほうにぎゅっと力が入ってて、下が抜けてる感じ。これかなー」



朱肉の量を示す数値が高い部分が印鑑の上の部分を占めている解析結果があった。数値にばらつきがあるものの、押し方の癖としては半数くらい似ているものがある。戻ってきたレイがパソコンとプリンターを繋ぎ、コピー用紙をセットしてリュウガの隣から画面を覗きこんだ。



「わぁ、見事に出ましたね。数値は違っても押し方がそっくりだ。あ、隊長、ヨシザワ部長が押した印鑑の解析結果。コウさんにも見せましょうよ」



「ん、そうだね。コウ、これが報告書からスキャンしたヨシザワ部長の印鑑の解析結果だよ。わかりやすいように印刷しようか」



印刷のボタンをポチっと押せば、プリンターから渋い音と共にカラーの大きな印鑑部分が印刷されてくる。用紙を取ってコウに見せるとコウは真剣に見つめながら、うんと軽く頷いた。



「次は、これね。ヨシザワ部長の赤ペンメッセージがなかった時の解析結果。印鑑の両側に朱肉が多かったり、下の部分に多かったりしてる」



「あ!ほんとだ!おもしろーい!そっか!肉眼だとわからないもんね。じゃあ、さっきの印鑑はぽっちゃり部長以外の人が押したってこと?」



「おそらく」



報告書の印鑑の解析結果をコウに渡した後、プレゼン資料に押された印鑑の解析結果を次々と印刷していく。ほとんどがヨシザワの押し方に似ていたものの、いつくかの資料の印鑑はヨシザワのものとは明らかに違うものがあった。押し方が違う資料を集めてみると、やはりと言うべきか10人の社員が作成に関わっている。そして購入した相手先の会社は驚異的な売上を上げた12月から2月に次々と商品を購入した会社だった。



「うーん、これだけわかりやすいとある意味ほっとするよー。これで、ぽっちゃり部長の知らないところでプレゼン資料が作られて疑惑の会社に買い取られたってことじゃない。よかったー」



「そうですね。突っ込まれてもこの解析結果を見せれば。あの素晴らしい売上が純粋な実力じゃないってことは悲しいですけど。。。ヨシザワ部長の疑惑は晴れるんじゃないですか?」



「。。。そうかなぁ」



明るい顔で安心したように話す二人に対してリュウガは面白くなさそうな心配そうな顔でぼそりと呟く。印刷した解析結果を綺麗にまとめて口をとがらせながら言った。



「まず、印鑑の保管方法について怒られるだろうね。自分以外の人間が押せる状況を作ったからっていって」



「あ。。。」



「それとプレゼン資料だけど、それなりの大きな金額なのに部長が不在だったのも怒られるだろうし。部下の指導や不始末の責任もとらされるだろうし」



リュウガは大きく息を吐いて、表沙汰になるとヤバイねーと目を細めつまらなそうな顔をした。それを聞いて明るかった二人も眉をひそめ口を閉ざす。三人が黙りこみ、いつも賑やかな寛ぎスペースはシンと静まり返った。静かな空間にリュウガがお気に入りの時計が軽やかで優しい音楽を奏で21時がやってきたことを伝える。



「でもさー、それだったらどう転んでもぽっちゃり部長は責められるじゃない。それってずるくない?相手の思うツボじゃん」



21時の優しい音楽が終わるのを待って、コウは悔しそうに口を開いた。レイもそうだと頷いてリュウガを見る。リュウガは部下二人の視線を受けて、そうだよねぇとぼんやり呟いた。



「ここまで調べてもらって考えたんだけどさぁ。これってヨシザワ部長をよく知らないとできないことだよね。印鑑にしたってプレゼン資料にしたって。まあ、アルはセキュリティが激しすぎるから仕掛けられなかったんだろうけど」



「。。。アルさんのパソコンって何が入ってるんですか?」



「あれはもう、迷宮だね。気持ち悪いほどの。ハッカーも真っ青のドン引きだよ。マニアックっていう言葉がものすごく便利だなぁ!!って実感するくらい想像を越えてるよ。向き合ったら疲れてぐったりするから」



「ちょっと!!アルを変人みたいに言わないでくれる?営業には必要なの!!」



思い出したのかリュウガはどっと疲れた顔をして大きなため息をついた。遊びやいたずらには嬉々としてどんなことにも立ち向かうリュウガがこんなに疲れている。アルのパソコンには極力触れないようにしようとレイは固く心に決めた。



「それでね、話を戻すけどさー。なんかヨシザワ部長の良さを逆手に取るようなやり方なんだよな。そこが嫌なわけ。人の良さにつけこんで、みたいな」



「うん」



「で、解決方法としては犯人を特定するんだけど。表沙汰にしたくないからさ、じわりじわりと犯人の心を攻めたいわけ。メガネくんのメッセージも伝えなきゃだし」



リュウガはきゅっと口元を締めると印刷した解析結果をクリップで留めた。証拠を集めて仕掛けた犯人に内密に会って話をつけたい、犯人の心に届くようなものを集めたい。両側にいる二人の部下を交互に見て自分の気持ちを伝えた。



「犯人もかなりのリスクを侵してやってるでしょ。表に引っ張り出してバシバシやりたい気持ちもわかるけどさ、どうしてこんなことをやったのか、犯人の心が知りたいわけ」



「動機みたいなもの?僕、許せない気持ちでいっぱいなんだけど。でも、表沙汰にするのはぽっちゃり部長が責められるから嫌だなー。あー!!ほんと腹立つ!!」



「俺も本音は嫌です。自分でやったことの責任は自分でちゃんと取ってほしいですし。危ない橋を渡ったんたら、それなりに痛手を負ってほしいです」



レイは納得いかないブスッとした顔をリュウガに見せる。リュウガは久しぶりに見たなぁとのんびり笑った。



「でも、隊長の言うことも良いなぁって思いますよ、俺。メガネさんも真剣に相手を心配してましたし。あ、すみません、やっぱムカムカします」



「ふふふ」



穏やかに言おうとしたレイが口元を抑えて怒りに満ちた目を下に向けた。コウも怒っているようで、ムカつくーと口をとがらせた。



「なーんか、ぽっちゃり部長を盾にしてる感じがさー。でも、わかった。隊長がそう言うなら。ムカつくことをした犯人の心を見てやろうじゃない。どんな心理ならそんなことができるんだろー」



「切り替え早っ!俺、そんな無理ですよ。ムカムカします。隊長、徹底的に掃除していいですか?キッチン磨いてきますから」



「いやぁ、レイ。働き者だなぁ!明日の女装、奮発して超豪華なドレスをレンタルしてあげる。ヨーロッパ貴族のさー、最高級品があるんだって。アルがメールで送ってくれた」



立ち上がってキッチンへ行こうとしたレイの肩を励ますように軽く叩き、リュウガは自分のスマホをずいっとレイの前に持ってきた。美しくゴージャスな赤色のドレスで所々に金色の刺繍が施されている。写真の下にアルから、店長に薦められましたとメッセージが書かれてあった。



「いやー、お目が高いよね。27才の若い逸材が見つかったって送ったら、店長がぜひ!!って言ってくれたんだって。アルの紹介だから特別料金で貸してくれるってさー」



「。。。。心を込めて証拠探しをやらせて頂きます!!憎しみや怒りはなるべく捨てようと思います!!」



「。。。えー。。。」



悲しそうに顔を歪めるリュウガにレイはさっさとスマホを引っ込めるよう懇願する。キッチンを綺麗にするよりもおとなしくリュウガの手伝いをした方が良さそうだ。心底残念そうなリュウガを追いたてて次は何を調べるのか激しく催促した。



レイから必死のお願いを受けリュウガはうーんと天井を見上げて唸った。プレゼン資料からヨシザワが押していない印鑑を見つけたが、この証拠だけで陥れようとしている犯人を誘き出すのは難しい。犯人の心に届く何かを手に入れなくては。そのためには犯人のことを深く知る必要があった。



「わからない犯人を知る、理解しようとするってことですか?そんな、雲を掴むような話。。。」



「だって、脅して恐怖を与えて呼び出すって嫌じゃない。向こうだって警戒しちゃうよ」



「。。。。」



そこまで相手のことを考えなくてもいいだろうとレイは不満げにリュウガを睨み付けた。売上を不正に上げその罪をヨシザワやアルに擦り付けようとしている人物だ。決定的な証拠をいくつも突きつけて正体をあぶり出してもいいじゃないか。心の中にある声は口に出さなくてもリュウガに伝わったようで、リュウガはにんまりと口元を緩めた。むしゃくしゃした想いを言葉としてわかりやすく伝える必要もなく、レイは初めて自分の感情が顔に出る特性を良いもんだなと頭の片隅で思う。



「レイの気持ちもわかるんだけどねぇ。やられたらやり返せ、んじゃ遺恨を残しちゃうでしょ。それじゃあ、相手だって幸せになれないよ」



「なんで向こうの幸せを考えるんですか。それなりのことをしたんですから、辛くなっても仕方がないでしょう」



「そうなんだけどさー。そんなやり方じゃあ、ヨシザワ部長は悲しむよねぇ」



レイはあ!っと小さな声を上げ難しい顔をして押し黙った。例え相手が自分を陥れようとしていてもヨシザワは部下想いで何も言わず自分を責めるだろう。売上の不正を気づけなかったこと、他社との癒着をしてまで利益を上げさせてしまったこと、部下を精神的に追い込んでしまったと人知れず苦しみ続けるかもしれない。



「それにアルも悲しむだろうね。他にやり方がなかったか、またいろいろと研究し出すだろうし」



「アルさんもですか?」



「うん。。。アルって人を幸せにすることにすごくこだわるから。異様に執念深いんだもん。幸せとか、人の笑顔とか。どこまでも追求するの。怖いくらいに」



コウも考え込むようにじっと手元を見つめた。気のせいなのか辺りがぐっと暗くなったような不思議な気配を感じた。コウから発せられる無言の威圧感にレイはピタリと動きを止める。無意識に背筋が伸びて胸の辺りがドキドキしてきた。体が思ったように動かず頭もピリピリとして落ち着かない。緊張してきた空気を払いのけるようにコウの頭の上でリュウガはブラブラと手を動かした。



「。。。何してるの?隊長。虫なんていないじゃない」



「ん?いるよー、虫が。ほら、どよ~~ん虫。たまにコウの頭に乗っかってきてさー、どよ~~ん、どよ~~ん、鳴くの。で、レイがどよ~~ん光線にやられるっていうね」



「もうー!!何それー!!」



頭の上を何度も往復するリュウガの手をコウは叩くように追いかける。パチンと軽く痛そうな音が目の前で弾けてレイは目が覚めたように瞬きを繰り返した。



「凄いだろう?コウのどよ~~ん虫。レイも殺虫剤を持っておかないと。あ、レイは大丈夫か。いろいろと鈍感。。。」



「隊長。。。口を手で隠しても聞こえています」



しまった!言い過ぎた!と目で訴えてくるリュウガにレイは横目で恨めしそうに答えた。助けを求めるようにコウを見ると、鈍感くらいがちょうどいいよ、と優しく笑っている。先ほどの暗い威圧感がなくなり、いつもの穏やかな微笑みに戻っている。レイは安心したような、救われた気持ちになって心が少し軽くなった。



「いいわぁ、レイ。立ち直りが早いわぁ。からかい甲斐がある。。。っと、まずは犯人を知らないとね」



「急に真面目な顔をしないでくださいよ!隊長の真剣な顔って違和感ありすぎて逆に怖いです」



「ホラーだよねぇ。嫌な予感しかしないの。で、どうするの?ある程度特定できてる?」



誰かもわからない人の心を理解することができるのだろうか。リュウガは静かに下を向いた後、提案だけどと珍しく鋭く目を光らせた。



「そもそも不正を働いた原因は、営業成績が落ちたことからの焦りと不安だと思うんだ。営業成績が良くて、お客様からも慕われてたんなら仕事が面白くてしかたがないだろうし」



「うん。信頼されて商品を選んでいただける。愛されて次に繋がっていく。営業の醍醐味だよね」



「やりがいもありますしね。そうだったら」



リュウガの言葉に二人も頷く。営業という仕事はうまくいけばいくほど面白い。営業に限らず他の仕事もそうかもしれないが、営業の仕事はプレゼンした商品を選んでもらった時の嬉しさや高揚感をその場でダイレクトに感じることができる。自分の上げた利益がそのまま会社の利益になり、わかりやすく数字で評価されるのだ。



「原因になった、営業成績が落ちた理由を知りたい。特に気になった三人の社員がいたよね?」



「あ、はい。俺の同期と先輩と。。。アルさんのパソコンを触っていた先輩です」



「アルのパソコンを、かー。アルのことだから、トラップをかけてるかもね。こんな大がかりな不正だもの。随分前から準備されてたんじゃないかな」



リュウガはまた思考を整理するかのように上を向き、眉をひそめる。ほんの半年前まで先輩や同期のライバルと肩を並べて仕事をしていたレイは営業成績についてどうだったかなとなんとか記憶を辿っていく。自分のことでいっぱいいっぱいだった半年前の自分を叱ってやりたい。なぜもう少し周りに気を配らなかったのだろう。もしかしたら重要な、ふと疑問に思う行動を身近だった二人がとっていたかもしれないのに。



「営業成績が落ちたって、かなり空回りしてたってことだよね。それか、誘われて魔が差したって感じ?」



「あいつがそんなことするなんて。。。でも、思い返してみると、あいつ、かなり無理して外回りしてましたよ。1日に10社とか。どうやってアポ取れんだ!?って劣等感に苛まれてましたけど」



「いいねー!レイの嫉妬に満ちた悪魔の形相、見てみたかったわー」



「隊長!!にやにやしないでくださいよ!!」



嬉しそうに笑うリュウガにレイは堪らず脇腹を突いて精一杯抗議する。体をよじらせて逃げるリュウガを恨めしそうに見て次の攻撃を仕掛けようとしていると、静かに考えていたコウが一呼吸置いて考えをまとめるように口を開いた。



「じゃあ、営業成績が落ちてきた時期の報告書を見直せばいいってことだよね。そうだ!ぽっちゃり部長のデータに個別の営業成績って保存されてないのかな?」



「うーん。そうだなぁ。アルからの資料には個人の成績がデータ化されてたけど、最近のものだしね。部長なら義務として保管してるかもだけど、部長だからなぁ」



「そうだよねぇ。。。」



ヨシザワは仕事のできる面倒見のいい人物だが、細かい整理などには向いていない。よく言えばおおらかで、悪く言えば大雑把。データよりも自分の感を信じ、過去のことなど気にしない性格だ。過去の営業成績のデータなど保管していないだろう。整理すらしていないかもしれない。



「ルカさんが三人の報告書の書き方が変わったのは、5月頃だって言ってました。架空の売上から淡々としたものになったって。その前の営業成績はどうだったんでしょうか」



「何かあったんだよね。その何かがわかれば。三人の心に近づけるかもしれないね」



コウは目を細めて、5月か。。と小さく呟いた。ここは手分けした方がいい。営業成績が落ちた原因を探るべくリュウガは二人を見ながら口を開いた。



「報告書を見るのはルカに任せた方がいい。レイはルカが見やすいように三人の報告書を探して整理して。コウは三人の過去を知る人たちにどうだったか話を聞いてきてほしい」



「三人の身近な人に?取引先の会社にも行っていい?」



「おう、任せる。なるべく三人と直に接していた人がいいな。書類に表れない情報が欲しいんだ」



「了解」



コウは自分のスマホを取り出し電話帳から何人かの人物を選び出した。指をスライドさせてメールを作成しているようだ。レイは資料室から運んできた報告書を見て大きく頷いた。



「俺は三人の営業成績のデータを探してみるよ。まあ、監査辺りに保管してあると思うんだけど」



「へ?隊長。。。探すってなんですか?監査って?」



「うん、そうだねー。役員の中にはデータを見たいっていう人がたくさんいるからねー」



「。。。は?どういうことですか?」



よくわかっていないレイにコウは明るく笑うと、報告書を整理するよう促した。二人の会話の意味を全く理解できなかったが、まあ自分は知らなくてもいいことなんだろうと頭を切り替える。報告書を整理する前に休んでいるルカの様子をも見ようとレイは寛ぎスペースのこたつから足を出して立ち上がった。

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