バハムート

中世イスラムの、世界構造の概念的な見方の一つ、


世界鯨。




それがベヒモス、バハムートの本来の姿である。


イスラム宇宙史文献には、


神が、荒ぶる大地を天使に背負わせたが、定まらず、天使の足下に岩盤を、そしてその岩盤を支える世界牛を置き、さらにその牛を乗せる世界魚を配置したとしている。


これにより、世界はようやく安定を得たとされる。



バハムートの巨躯は、全世界の海洋をその鼻孔に入れても、砂漠に置かれた芥子粒ほどしかならないと比喩されるほど。


そして、その巨躯を支えるのは辺り一面の水であるとされる。


その水域の下には暗闇が広がっていて、その深淵は何があるか、人には知ることができないとされている。


世界。


つまりはこの地球を背負って泳ぐ魚がバハムートなのだ。


そしてバハムートを支えるとされる『水』。


深淵はのぞけないほど深く広がる暗闇。



それはまさしく『宇宙』を意味している。



(なるほどな……)


ラーは、暗闇に包まれた水中で静かに頷く。



(いくら俺の力が太陽だとしても、この無限に広がる宇宙の中ではちっぽけなもの。これは俺の力を打ち消した、というよりは、周囲の力の規模を拡大することで、俺の力の影響を宇宙の中の太陽程度にした。というところか……)




宇宙の波にのまれ、みるみる小さくなっていくラーの力。


宇宙の膨大な広さの中では、いくら太陽といえど、小さく燃える点程度にしかならないのだ。


このままでは、ラーは溺死してしまう。


(ここまでか……)


ギチギチと、

宇宙の圧力が、ラーの体を、押しつぶそうとしめつけていく。


まさか、ただの獣と侮っていた敵が、宇宙をぶん投げてくる化け物だったとは。


あきらめ、目を閉じてしまうラー。



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