初戦開始‼︎

ブォォォォォォン‼︎



何処からか、重々しい笛の音が聞こえてきた。


イマイチ状況がつかめないが、目の前に殺気を放つ化け物がいて、それらしいフィールドにいることから、大体の事情は察することができた。


「グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ‼︎」


化け物は、笛の音が合図とばかりに凄まじい咆哮を上げると、地面を蹴り、猛スピードで突進してきた。


大気をも揺るがす、破壊的な威力の咆哮だ。




そこから繰り出される、何の変哲も無いただのまっすぐな突進。


距離も100メートルはあり、避けようと思えばたやすく避けられる。


が、


「……反則だろ」


思わず口に出してしまった。


さっきの咆哮、


あれには聞いたものを恐怖に捕らわれ、動けなくする力があったみたいだ。


おまけに凄まじいプレッシャー、


大地を蹴るたび、地震のように足元が揺れ、立っていることもできないくらい足腰がガタガタになる。



ここへ入ってきたばかりに見た時は、せいぜい4、5メートルほどだと思っていた体長が、今は何倍にも大きくなっているように感じる。


これは物理的なものではない。


生物としての本能が、目の前にいる化け物はヤバイと、この身体に訴えかけてきているのだ。


気をぬくと泣いて逃げ出したくなるレベル。




――だが、


「ゥゥゥゥォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオァァァァァァァァァァァァァァァー‼︎」


こんなところで簡単に死ぬ気は毛頭ない。


負けじと腹の底から声を出して、身体中を震えさせる。


バギィィィ‼︎


身体中の筋肉が悲鳴をあげる。



だが、身体が何とか動くようになった。


「獣風情が‼︎この"ラー"を舐めるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」


敵の頭が射程内に入ったのを狙って、手に持つロッドを全力でフルスイングする。


狙いは、目とツノの間。


おそらく脳を揺らすことができるであろう的確な狙いだ。


ガキィィィン‼︎



だがさすがは化け物。



見事にこちらの攻撃に合わせて動いてきた。



渾身の力でスイングしたロッドは、奴のツノにあたり、鈍い音が辺りに響く。



ジィィィィィィィィン……



手が痺れて感覚がなくなった。


想定以上のダメージに身動きが完全に止まる。


「ヴゥゥン‼︎」


今度は相手がこちらに狙いを定めてツノを突きつけてきた。


下から振り上げる形だ。


「のわぁぁぁぁぁ‼︎」


腹に突き刺さるのをロッドを構えてなんとか避けたが、凄まじいパワーの突きの勢いを殺しきれず、弾き飛ばされる。




「――ぐわぁっ‼︎」


そのまま背中からコロシアムの端に叩きつけられる。


その威力は壁を蜘蛛の巣状に破壊するほど。


体がめり込んで抜け出すのもやっとだ。


「グォォオオオオオオオオ‼︎」


奴はそのままこちらを壁で挟んで潰しに来た。



再びあの咆哮と、地震を纏った突進だ。


身体中が限界を超えたダメージによってビリビリ痺れている。


このままではまともに食らってペシャンコだ。



だから、



「……仕方ない‼︎」


本気を出すことにした。



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