第一章 少女と新たな生活
1章 その1
チュンチュン、という小鳥の鳴き声でリュミエールは目を覚ました。彼女はいつの間にかベッドの上に寝かされていて、朝になっていた。
リュミエールは上半身を起こした。部屋の様子がよく見える。四角い部屋で、一人用のベッドはその隅に置かれており、彼女から見て右側と後ろ側は壁で、正面側には洋服箪笥と本棚が、左側には机と椅子が置かれ、斜め前、部屋の対角のあたりには扉があった。
彼女はベッドから降りた。床は木でできており、足で踏むとギッとわずかに
部屋を出ると右手に階段があり、そこを下ると居間に出た。そこでは父が朝食を用意して待っていた。
「おや、起きたのかい、リュミエール。おはよう」
父は彼女の気配に気づき、ニッコリと微笑みながら片手を上げて挨拶した。
「おはよう、お父さん。ねえ、ここはどこ?」
リュミエールは父に挨拶と同時に疑問をぶつけた。ここは彼女にとって見覚えのない場所だ。
父は笑顔を崩さずに答えた。
「リュミエールは馬車に戻った後、ずっと眠っていたからね。知らないのも無理はない。さ、教える前にまずは朝食をお食べ。早く食べないと冷めてしまうよ」
よく見ると、テーブルの上にはできたての朝食と、ハーブティーが置いてあった。リュミエールは席に着き、最初にハーブティーを一口飲んだ。
「あら、おいしい……。この香りは、ローズマリー?」
「そうだ、正解! 流石は僕の娘だね、薬草の区別もちゃんとつけられる」
「もう、まるであたしが優秀なのは自分のおかげだ、みたいに言わないでよ。でも、このハーブティー、いつもよりおいしい気がする」
「それはそうだ、今日は僕ではなくてこの人が淹れてくれたからね。使用人のベルさんだ。彼女はお茶を淹れるプロだよ」
父がキッチンの方に手をやると、奥からゴシックな服を着た女性が現れた。
「しようにん? 使用人……って、えーっ、メイドさん!?」
リュミエールは驚いた。今までメイドなどいたことがなく、母が死んでからはリュミエールと父で手分けして家事をしていた。それだけに、突然代わりに家事をしてくれる使用人が現れたことに驚いた。
「はじめまして、ベルと申します。以後お見知りおきを」
メイドのベルは静かにお辞儀をした。キャップの端から覗く明るい金髪とは裏腹に、落ち着いた感じの大人の女性という印象だった。
「ど、どうも……」
リュミエールは驚きが消えないまま、おずおずとお辞儀を返した。
「料理を作ってくれたのも彼女さ。リュミエール、彼女と彼女を雇ってくれたオランドさんに感謝しなさい」
「オランドさん?」
「この前言っただろう? オランドさんは僕の友人だ。これからしばらくお世話になる。この家も、オランドさんが貸してくれた家だ」
ああ、そういえばそんなことも言っていたな、とリュミエールは思い出した。ここにやってきたのも、たしか父の友人の誘いであると言っていた。
「そうだった。ということは、ここはオランドさんのお家なの?」
リュミエールは周囲を見回しながら父に訊ねた。
「ああ。昔使っていて、今は使ってない家だそうだ。わざわざ綺麗に掃除してから貸してくれたよ」
「そうなんだ。それにしても、オランドさんって人は随分お金持ちなんだね。こんな立派な家をポンと貸してくれるなんて」
リュミエールは、自分が寝ていた部屋もそうだったが、以前村にいたときに住んでいた家よりずいぶん広いように感じていた。見える範囲だけでも、昔の家はこの家と比べると小屋も同然だった。
「ハハ、僕もまさかここまで広い家だとは思わなかったよ。さらに使用人までつけてくれるなんて、待遇が厚すぎて、逆に不安になるね」
父は微妙に困ったような顔をして言った。
「旦那様、あまりお時間がありませんので、そろそろお食事を」
ベルは二人の横から口を出して二人を急かした。
「ああ、そうだったね。リュミエール、食事が済んだら、オランドさんのところに挨拶に行くよ。昨日は夜遅くになってしまったから、今日の朝、改めて伺うことにしたんだ。彼も忙しいから、できるだけ待たせないようにしなくちゃいけない。さあ、急いで朝食をお食べ。くれぐれも喉には詰まらせないように注意して」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます