第27話 トレジャー・キーパー討伐
俺は街にある外壁の上で眼前の敵を睨む。
森から出て丘に進出してきた巨大な敵――トレジャー・キーパー。
森から出ると隠れていた胴体が露わになり一層大きく見えるその敵はこのファルス王国目がけて大きな足音と共に向かった来る。
「どうするの? ゆーくん」
「策はあるさ。まずはフェリスに目くらましをしてもらう。なんせ目が外殻で覆われているとはいえ見えてない訳じゃない。その後はまーちゃんが杖で頭頂部を殴る。そして俺が下から切りかかるって戦法だ」
「大雑把すぎない?」
「大丈夫だよ、きっと――」
そう、下にいる兵士と冒険者達がちゃんと働いてくれたらな――俺はそう思いながらチラリと下にいるリスティやクリス、その他大勢の群衆を見る。
今もまだ俺に向かって剣を掲げ「
数分してトレジャー・キーパーが丘から街側に迫ってくる。
丘にいた時よりも威圧感が凄まじくそして大きい。
トレジャー・キーパーが一歩、また一歩と歩く度にドスンという音と共に地響きが伝わってくる。
まさに歩く要塞とでも言えよう――
「それじゃ、そろそろ準備をしますか」
俺の言葉にまーちゃんは屈伸をしだす。
フェリスもこちらを向き杖を両手に力強く持つ。
「あ――あの、勝てますよね? 勝てますよね?」
執拗に受付嬢が聞いてくる。
「ああ、もちろんさ」と答えると安堵の顔に変わる。
「それにしてもあなた方が王に仕える「
「あれは全部嘘だよ」
「へ?」
受付嬢はまるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。
当然だろう、あんなに堂々と王に仕える「
だが下にいる兵士と冒険者達には決して言わない、というより知られてはならない。
もし知られれば目の前にいるトレジャー・キーパーに恐怖し、パニック状態になるのは明白だ。
俺は受付嬢にその事を釘刺し、準備をする。
トレジャー・キーパーが外壁から二百、いや三百メートルはあるか? という距離まで近づいてきた。
そろそろか――という距離だ。
「準備はいいか? まーちゃん、フェリス」
「誰に物言ってるのよ」
「もちろんなのん」
「よし」
左手に持った拡声器を口元に運びスイッチを押す。
「これより我等「
右手で聖剣を抜き空に掲げる。
その瞬間、下から「おおおぉぉぉ」と雄たけびがこだまする。
俺はまーちゃん、そしてフェリスに目線を合わしコクリと頷く。
二人も同じく頷くのが見える。
「よし! フェリス、やれ」
「はいなのん! <
言うと同時にトレジャー・キーパーに向けられたフェリスの杖が太陽の様に白く大きく光る。
俺は咄嗟に目を腕で隠す。
トレジャー・キーパーをチラリとみると一歩後退し、腕で顔を隠している。
どうやら成功らしい。
次の作戦は――
「まーちゃん、行け!」
「わかってるっつうの!」
まーちゃんを見るとすでに宙を飛んでいた。
やはり魔族の身体能力は反則級だ――外壁からトレジャー・キーパーまではまだ多少距離はあるにも関わらず、放物線を描いて一度も着地しないままトレジャー・キーパーの頭まで飛んでいく勢いだ。
いや、恐らく届くだろう……。
まーちゃんと戦った俺だからこそわかる。
まーちゃんが怯んでいるトレジャー・キーパーの頭の上まで到着し、大声で「おりゃー!」と言いながら両手に持った杖で殴打する。
トレジャー・キーパーはガクンと膝を折り地面に片手を付ける。
俺はそれを見て拡声器を受付嬢に放り投げ外壁から飛び降りる。
もちろんフェリスの目くらましの後に自分への肉体強化の魔法は済んでいる。
あとはスキル<
トレジャー・キーパーの真下まで来た俺は聖剣を強く握りしめる。
そして上空に向けて――
「<
もちろん手加減はしている。
手加減なしに俺の持っている全ての力を使ってしまうと外殻ごと首を斬り落としてしまうからだ。
俺の<
ひれ伏させると言ったのに後ろに倒してしまった――まぁいいか。
後ろから「おおおぉぉぉ」と感嘆の声が聞こえてくる。
それを聞き俺は聖剣を天高く掲げる。
同時に兵士や冒険者達が走ってくる音が地響きの様に俺の耳に入る。
まーちゃんが少し離れた所で立っていたので俺はそこまで歩いて行く。
「やるじゃない」
「まーちゃんもな」
「それで? 倒せると思う?」
「どうだろうな、数は多いから何とかなりそうな気もするが――」
「よっし! それじゃ帰って飲みましょう! 今日は街を挙げての宴会よ!」
「お前、それフラグじゃねぇか!」
トレジャー・キーパーを囲み弱点を攻撃している兵士の中からも聞きたくない声が聞こえる。
「俺――これが終わったら結婚するんだ!」
「ここは俺に任せろ!」
「ちょっと陣営まで弓兵の様子を見に行ってくる。なに、すぐ戻るさ」
「俺はここから動くのは反対だ、行くなら一人で勝手に行け!」
更には冒険者達からも聞きたくない声が聞こえてくる。
「今回の報酬でまとまった金が手に入るんだ!」
「なんだか今日は調子がいいぜ!」
「おい、さっき転んでただろ大丈夫か?」
「大丈夫、ちょっと休めばすぐ元気になるさ」
全部フラグじゃねぇか、こいつら……。
かつて俺自身もフラグという物を知らずに使ってしまった経験がある。
フラグという存在を知ったのは元の世界で爺さんの家に厄介になり、子供の「まんが」や「あにめ」という代物を目にしてからだ――
そのせいかこの大量のフラグを俺は無視できない。
何かが起こる、何かが――
ゴゴゴという地鳴りと共にトレジャー・キーパーが上半身を起こす。
ああ、やっぱりか――そんな事を考えつつ俺は兵士や冒険者達に向けて避難を呼びかける。
これ以上、兵士や冒険者達がいても邪魔なだけだからだ。
「さて、どうするか――」
俺の横で慌てているまーちゃんを無視し聖剣を地面に差し腕を組む。
目の前のトレジャー・キーパーはすでに立ち上がり何やら興奮しているのか、体が震えている。
次の瞬間、俺は耳を塞ぎ驚愕で口が塞がらなくなる。
金属と金属をぶつけたような音が数倍、いや数十倍の大きさで鳴り響く――
トレジャー・キーパーを見ると外殻がない。
どうやら外殻を
どんな体の構造をしてるんだお前――と問いたくなるが、
どうやら頭の部分の外殻が飛んでいったのだろう。
外殻がなくなったトレジャー・キーパーはモンスターらしくなっていた。
片手に持っていた大きな斧を投げ捨て息を荒げ片足を前後に振っている。
そして腰を下げる――動物でいう所のタックルをする前動作だ。
俺は慌ててまーちゃんに魔法を撃ってもらおうと一瞬目線を向けるが、まーちゃんも開いた口が塞がらないようで、頼りにならないと見切りをつける。
「やらせるか!」
俺はすぐさまスキル<
俺が上空に飛ぶのと同時にトレジャー・キーパーは外壁へとタックルで向かっていく。
「間に合え! <
今度はかなりの魔力を込めて打ち出す。
放たれた魔力の斬撃は上からの重力の分も乗り、そのままトレジャー・キーパーの首を斬り落とす。
斬り落とされた首は地面へ、そして体はそのままの速度を保ち崩れる。
トレジャー・キーパーの体が止まったのは外壁から数メートルの距離、兵士の陣営は無茶苦茶になっている。
数秒の沈黙の後、色々な所から勝利の雄たけびが上がる。
「やったぞ! やったぞ!」
「俺達は生きてる!」
「ざまぁみろ! トレジャー・キーパーめ!」
様々な雄たけびを聞きながら俺はスキル<
すると受付嬢が涙を流しながら俺の腰に纏わりついてくる。
「うわぁぁぁ、勇者様ぁぁぁ」
「ちょ、ちょっと――やめてくれ」
引き剥がそうとするが中々剥がれない。
そんな中フェリスが近づいてきて俺の腹をポスンと軽く握った拳で叩いてくる。
そして笑顔を浮かべる。
「ゆーくんかっこよかったのん」
「お、おお。まぁな」
俺は頭をボリボリと掻きながら聖剣を鞘に収める。
丁度まーちゃんもジャンプをし俺達の所に到着する。
「まさか外殻を
「お前達のフラグのせいなんだが?」
俺は受付嬢を引き剥がし、渡していた拡声器を左腕で持ち上げ最後の演説を行う。
「勇敢なる者達よ! 我々の勝利だ!」
右腕で聖剣を掲げる。
それと同時に下からは「おおおぉぉぉ」と感嘆の声がより一層大きく大地を震えさせた。
「この国にいる限り我等が共にある! 安心せよ! 何かあれば共に戦おうぞ!」
下を見ると、その言葉に泣き出している人もちらほらといる――あれ? リスティが号泣しながら俺に対して何やら祈ってる? もしかして神への感謝の言葉でも口にしているんだろうか……。
もちろん共に戦うとか嘘なんだけどな――もうこんな事、二度と御免だ。
それにこんな街の危機がそうそう起こるとは思えないしな……。
俺達は戦後処理を兵士や冒険者達に任せて外壁上部から下に行き、冒険者組合へ戻ろうとする。
「ああ、さっさと脱ぎたい」
「ゆーくんなかなか似合ってるわよ?」
「そのままでいいのん」
「やっぱり軽装が一番だ……」
そんな事を言いながら螺旋階段を降り、街道を歩く。
街人はまだせわしなく、トレジャー・キーパーが討伐された事を知らないのだろうか?
「とにかく着替えて休憩しよう」
「そうね、飲みましょう!」
「コカ肉なのん」
冒険者組合に到着し自分たちの部屋で着替えをする。
そして着替えた服を受付嬢の所へと持っていく。
「これ、返すよ」
「え? 本当に?」
「当り前だろ。なんなら捨てとけよ」
「ですが、また何かあれば共に戦うと言ってたんじゃ――」
「あれは嘘だ」
「えええぇぇぇ」
俺は受付嬢に服を渡し絶叫する受付嬢の声を後ろに聞きながらまーちゃん達が座っているテーブルへと進む。
「コカ肉山盛りとリンゴ酒大量で!」
「コカ肉とリンゴジュースなのん!」
もう注文を始めているまーちゃん達のテーブルに座り俺も「コカ唐揚げとリンゴ酒で」と注文をする。
すぐに運ばれてきた料理とリンゴ酒を煽りながら俺はいつも通り左にいるフェリスの頭を撫でる。
まーちゃんはひたすらに食らい浴びるようにリンゴ酒を飲んでいる。
今日の夜は街を上げて戦勝祝いでもするんだろうな――と考えながら一つの不安がよぎる。
その不安とは明日から行われるであろう「
確実に街をあげて探そうとするに違いない。
あの英雄的な演出は少しやりすぎたな――と少し後悔しつつ俺は今日の疲れをリンゴ酒で洗い流す。
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