第20話 妖精教の大司教

 ――と、いう訳で、やって来ました皇都ヘリッジ!


 皇都は――と言うより、国中がお祭り騒ぎだ。


 そりゃ、行方不明になっていた自分達が信仰する女神様が見つかったんだ。

 喜ぶのは当然だね。


 ヘリッジ皇国はファンタジーものに登場するエルフやドワーフと言った妖精族の国だ。

 一応、人族も暮らしている。

 昔は人族との差別があったらしいけど、今ではそれもほとんどなくり、仲良く暮らしているらしい。


「ところで、どこに降りたらいいんです?」


『一度、妖精教の教団本部の神殿に向かって下さい。 場所は中央にあるヘリッジ城の東側にある大きな建物です。 その敷地内に降りてくだい』


 ヘリッジ皇国は初めての場所。

 王都の地理を良く知るリュネットさんと通信機越しでやり取りしてナビしてもらう。


 今更だけど、クルールには通信機能があるみたいで、クルール同士は通信が繋がる。

 どういう仕組みか作った僕にもよく分からいけどね!

 だけど、騎甲飛船きこうひせんには通信機を積んでなかった。

 それは魔王が近くまで迫っていたので作る時間が無かったから仕方がない。

 だけどもう敵も居ないし、時間も出来たので、国境の砦でトランシーバーみたいなのを簡単に作って備え付けた。

 お陰で一々騎甲飛船に乗り込んで連絡のやり取りをしないで済む。

 まあ、飛船は脱出用に作ったモノだから、もう使わないだろうけどね。


 ヒルデさんが操縦する飛船を先頭に、指定された場所に向かい着陸する。

 すると、僕達に気付いた神官?の人達が大きな建物の中から慌てて僕達の居る場所までやって来た。

 青い法衣を身に纏う神官の人達に囲まれて、紫の法衣の老女が現れた。

 その老女が前に出て、リュネットさんに声を掛けた。


「聖女リュネット!」


「大司教様!」


 リュネットさんはおエライさんだと思われるその老女の元に駆けて行き、抱き合う。


「リュネット、良くぞ務めを果たしてくれましたな。 ありがとうな。 ヒルデもご苦労さまな」


「自分の務めを果たしただけで御座います」


 老女に対してペコリと頭を下げるヒルデさん。

 背中にルーキス様が張り付いているので礼がしづらそうだ。

 

 大司教と呼ばれた老女はリュネットさんから離れると、ヒルデさんの後ろに隠れているルーキス様に向かって話し掛ける。


「お久しぶりですな、女神ルーキス様。 ご無事で何よりですな。 心配しておりましたな」


『ユユ、貴女も元気そうで何よりです』


 隠れているヒルデさんの背中から顔をヒョッコリ出してロゼットと呼ばれる大司教さんと挨拶を交わすルーキス様。

 その顔は何処か嬉しそうだ。


「……コミュ障は相変わらずですな。 そんなだから、好きになった殿方を他の女神様達に取られるんですな」


『ほっといて下さい!』


 ”う”~”と唸りなが大司教さんを威嚇するルーキス様。

 ヒルデさんの後ろに隠れているその姿は威厳が全く無いです。


 そんなルーキス様を横目に大司教さんは僕達に正対する。

 レッドさん達は右腕を胸に当て騎士礼を、僕は頭を下げて礼をする。


「私はサンドリオン帝国親衛隊副隊長、レッドバルト・アーサー。 そして此方が異世界トゥーレシアより神々によって召喚された勇者の一人、タダ・コウ殿です」


 レッドさんが大司教さんに名乗り、僕の紹介もしてくれた。


「勇者様、サンドリオンの騎士様方、お初にお目に掛かりますな。 妖精教の大司教を務めておりますユユと申しますな。 連絡は受けておりますな。 女神ルーキス様、それにうちの娘達を魔王の魔手から助けて頂き感謝いたしますな」


 両手を胸の前で握り、ペコリと頭を下げる大司教さん。


「でも、国を挙げてのお祭りなんて、ルーキス様って凄く慕われてるんですね」


 周囲の人垣を見てそう言う。

 ルーキス様がこの場所に姿を見せてからというもの、秒単位で人が集まって来ているのだ。


『サンドリオン帝国が建国されてから数百年、私はヘリッジ皇国とは疎遠になっていました。 自分で言うのもなんですが、へリッジの民に慕われているなんて思えません』


 はて?と、首を傾げるルーキス様。

 その疑問に溜息を付きながら答える大司教さん。


「はぁ……ルーキス様、少しは御自身の立場を理解して下さいな。 ラーファン様、オア様、シェラザード様の三柱様が邪神大戦で御隠れになられた後、長きに渡りアルフェイムの長の座は空席のままでしたな。 ですが、ルーキス様が神として力を高められ、妖精族の神達――アルフェイムの神々に長として認められたのですな。 それを自覚してくださいな」


『そんなの私は承知していません! それに私は最高神なのに新参の魔王エルディアに力負けしたのですよ! 長としては実力不足です! 役不足です! アルフェイムの神々はただ面倒くさいから、能力的に丁度いい感じの私に押し付けただけです!』


 涙目で訴えるルーキス様から顔を逸らす大司教さん。


「……私に言われても仕方ないですな。 それにアルフェイムの面倒くさ――気難しい神々もルーキス様の言う事なら聞いてくださるのですな。 いい加減諦めるですな」


 大司教さん、ついに本音をぶっちゃけた! ま、まあ、大司教さんにも色々苦労があるんだろう……


 大司教さんは一つ咳払いすると、真面目な顔で話を続ける。、


「コホン、話がが逸れたですな。 確かにルーキス様の言う通りですな。 このお祭りはルーキス様の来臨を祝うものだけではありませんな。 へリッジに巣くう災いが取り除かれたのですな。 それは今回のルーキス様のトラブルにも繋がる話なのですな」







「裏でそんな企みが動いていたとは……」


 大司教さんの話を聞き終わったレッドさん達は愕然となる。


 僕が召喚される前に起こった出来事も混じっているので良く分からない所もあったけど、要約すると――


・ミリタリア王国のミリタリア王と魔国の魔王エルディアは同盟を組んでヘッリジ皇国への侵略を企てた。


・ミリタリア王と魔王は財物を司るタンミョウという強欲な下級神を金銀財宝で買収して、ヘリッジ国内を混乱させた。


・だがミリタリア王は欲張ってサンドリオン帝国にも手を出す。


・ミリタリア王はサンドリオン帝国の侵攻を容易よういにする為、サンドリオン帝国の地を守護するルーキス様や国際的な信用失墜と国力の低下を狙う。


・ルーキス様の誘拐はその計略の一貫だ。


・ルーキス様を捕えるのにミリタリア王は強欲の神タンミョウの知恵を借りた。


・そして捕らえたルーキス様をサンドリオンの皇太子に譲った。


・だが魔王は魔王で自身の持つ特殊スキル【純血喰らい】(能力は男性未経験の女性を性的に襲ってスキルやステータス《身体能力》を奪う)で自身を強化する為にルーキス様を狙っていた。


・その結果、ミリタリア王と魔王の間に不和が生じ同盟が消滅。


・ミリタリア王と魔王は自身の野望の為にタンミョウを利用し続けた。


・それがとある人物の活躍によりタンミョウは捕らえられ、ミリタリア王と魔王の企みが白日の下に晒された。


 ――と、言う事らしい。


「サンドリオン帝国の皇太子がルーキス様に懸想していたのを利用されたか……」


 ミハエルさんが苦虫を噛み潰したような顔で言う。


「ベケット隊長に良い土産話が出来たね!」


 ダニエルさんは明るく、物凄い笑顔でそんな事を言ったけど、目は笑っていない。

 背負う雰囲気もどことなく暗く、とても怖い感じがした。


『タンミョウが関わっていましたか……アレは一応アルフェイムに所属する神。 しかも我々を信仰する妖精族に対して、己の我欲の為に仇なしたのは許しがたい行為です。 タンミョウは今何処に?』


 ルーキス様の顔から表情がなくなり、瞳には剣呑な光が宿る。


「今はヘリッジ城の地下施設――封緘ふうかん領域にある牢に閉じ込めておりますな。 アルフェイムの神々も今回の件を重く受け止め、邪神封印に従事している神々以外はもうすぐここに降臨されますな」


『そうですか。 では、私はここで同胞の降臨を待ちましょう』


「では、僕達はヘリッジ城に向かいますね」


 僕はルーキス様に断りを入れてヘリッジ城に向かう事を伝える。


 そしてこの場所に劉武りゅうぶとクルールを置いて、僕とレッドさん達はヒルデさんの案内でヘリッジ城に向かう事にした。


 

『ちょっと待ちなさい、タダ』


「はい?」


 城に向かうとした僕をルーキス様に呼び止められる。


「ッ!?」


 僕が後ろを振り向くとルーキス様の顔が僕の顔の間近に迫っていて、それを認識した時には唇に何か柔らかいモノが触れた。

 それがルーキス様の唇だと気付いた時には僕の頭の中は真っ白になり、次に混乱が訪れた。


「んなっ!? 何でっ!?」


『おおおっ!?』


 その光景を目撃した周りの人達は驚きの声を上げ、ザワつく。

 大司教さんは目を丸くし、リュネットさんやヒルダさんは口を大きく開けて驚いている。


『……召喚された貴方だけ、神の加護がないとリュネットから聞きました。 ですので、今回の礼として貴方に私の加護を与えました。 きっと貴方の力になるでしょう』


「あ、ああっ、ありがとう、ごっ、ごじゃっまず!!」


 どもりながらルーキス様にお礼を言う僕。

 最後に噛んじゃったのは仕方ない。

 僕にとってはファーストキスなんだから。

 笑わば笑え!


 ジーーーッ


「ハッ!?」


 いつの間にか至近距離まで近寄っていた大司教さんが僕とルーキス様を見詰めていた。

 しかも顔がドアップだ!

 やめて! そのニヤついた顔でドアップは止めて!

 怖いよっ!

 周りにいる群衆の目もなんか生暖かいぞ!

 ……ただ、ミハエルさん、ランディスさんと群衆の一部の男達は嫉妬に駆られた視線で僕を見てる。


「キーッ! 羨ましいぞ、タダ!」


「クソッ!! ルーキス様から加護を……しかも、キスでだなんて!! 悔しいが……さすが勇者だぜ!!」 


 んな事言われても知らんがな……


「……ミハエル、ランディス、馬鹿なこと言ってないで早くへリッジ城に向かうぞ」


 レッドさんは二人を呆れた顔しながら僕達に城に行くことを促した。

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