第17話 魔王エルディア襲来
巨獣の檻にあったルーキス様の隠れ家を出て数時間。
ルーキス様達が乗る
僕が初めて製作した鳥型騎甲――【クルール】。
ミハエルさん、ランディスさんが名前が無いと不便だし格好がつかないと言出したので、仕方なく僕は鳥型騎甲にクルールと正式ではなく、仮として名を付けた。
理由として、今はそんな事考える時間がないし、後でちゃんとしたものに作り変える予定だから。
クルールって言うのは、僕が鳥型騎甲を何となく見てたら、頭の中にその言葉がフッと浮かんだのでそれをそのまま付けたのだ。
あとで知った事だけど、クルールとはフランス語で色を意味するらしい。
その意味の通り、クルールは様々な”色”を持っている。
いずれ機会があれば披露しようと思う。
なお、試作した飛船には名前は無い。
あれは使い捨てのつもりで作った脱出用の船なので、ワザワザ名前を付ける必要性を感じなかったのだ。
そして現在、僕達は巨獣の檻を抜けてサンドリオン帝国の領内を移動中。
僕達が出発したしばらく後、魔王軍が隠れ家に踏み込んで来たとルーキス様が教えてくれた。
ルーキス様が隠れ家に設置していた防犯センサーの魔具が作動したのをルーキス様が感知したらしい。
ギリギリのタイミングだったよ!
だけどそれ以降、魔王の追って来る気配は無かった。
諦めた――というわけではないだろう。
何せルーキス様をしつこく追い掛けていた奴だ。
気を抜かずに行こう。
僕達の飛んでいる眼下には木が生い茂る広大な森が広がっている。
その中を地面が剥き出しの細い道が通っていた。
あの道がサンドリオン帝国とヘリッジ皇国を繋ぐ街道だそうだ。
魔王もまさか僕達が空を飛んで移動しているとは考えないだろう。
僕達はトイレと食事休憩を交代で船内で済ませながら飛行する。
クルールから降りて休憩する時、その間は他のメンバーがビットウェポンで空輸している。
そうして生い茂る緑の木々を眼下に長時間飛んでいるとやがて前方に背の高い木々を押しのけて立つ灰色っぽい大きな塊が見えてきた。
あれがレッドさん達が事前に話していたヘリッジ皇国の国境沿いの砦だろう。
あともう少しで、ヘリッジ皇国に辿り着く。
もう少しで――
そこで森に異変が起きた。
「何だ?」
突然、森から鳥ではない何かの大群が飛び立つ。
それは鷲頭で翼が背に生え、獅子や馬の体をした生物、それにワニの頭に長い首、強靭な足とコウモリ羽を持つ全身を鱗で覆われた巨大生物……もしかして、あれがグリフォンとかワイバーンというヤツか?
地球上で目にする事のない幻想の生物。
そしてその背に跨り、僕達の行く手を阻む者達が突如現れた。
『グリフォンにヒポグリフ、それにワイバーンまで!?』
『魔国の飛行機動隊がどうしてここに!?』
レッドさん、リュネットさんが驚きの声を上げる。
騎甲飛船と僕達が搭乗するクルールには一応通信機能を付与してある。
トランシーバーみたいに対応距離は短いが、無いよりはマシだし今回は密集しての行動なので問題ない。
「そんなの、待ち伏せしていたからに決まっているであろうが!!」
胴体が異様に長い、蛇のような生物の頭の上に乗る巨漢の大男が喜色満面の顔でそう叫んだ。
『ナーガだと!!』
『だとすると、あれが――』
『魔王エルディア!!』
『こっちの行動を読まれてたのかよっ!!』
ミハエルさん、ランディスさんが悲鳴に近い叫び声を上げる。
クソッ!! 魔王もいるのか!! 最悪じゃないか!!
「逃げ場所を一つ。 わざと残して追い詰めたのだ。 後は逃げた先で獲物が来るのを待っていれば良いだけ。 お前達は朕の策略に見事嵌ってくれたと言う訳だ!」
自慢げにそんな話をしている間にも内に胴体が異様に長い、蛇のような生物――ナーガが僕の乗るクルールにあっと言う間に接近する。
「しまった!? 避けろタダ!!」
ダニエルさんが逸早くそれに気付き、僕に警告を発してくれたがそれより先にナーガの長い尻尾が頭上から僕の乗るクルールに向かって振るわれた。
「朕が龍神王様より賜った、ナーガの一撃を受けよ!!」
反射的にビットウェポンで受け止めようとするも、それよりも早く尻尾が振るわれビットウェポンの防御をすり抜ける。
運良く直撃は免れたものの、それでも鞭のように良くしなるナーガの尻尾の威力は強烈で、掠っただけの衝撃でクルールが錐揉み状態となり、そのまま森に向かって墜落してゆく。
「うわあぁぁぁーーーーーーっ!!!!????」
☆
「ルーキス様! タダ様が!!」
『判っています。 彼にはここから【
リュネットが外を見れば、レッド達が魔王軍が操る騎獣達とドッグファイトを行っている。
クルールの股の間に懸下された魔銃の銃口から吐き出される弾が曳光を引きながら敵に向かって行く。
連鎖式ならば一発でも弾が命中すれば周囲を飛んでいる敵にも弾が命中し、当たった端から魔獣や魔族の体を貫き四散させて斃していくのだが。
『クソッ!! 弾が当て難い!!』
『うわっ!! 僕に当てないでよ!!』
『すまん!!』
大半の弾は標的から逸れてしまう。
しかもレッド達は飛行する乗物において銃砲での
ただでさえドッグファイトでの射撃は的に狙いが定まらず、止まっている的ですら当たり難いのにさらに的も飛んで移動しているのでなおさら当て辛い。
ルーキスが施した安全措置が功を奏しているが、これがなければ同士討ちで瞬く間に全滅していただろう。
比較的扱いやすいビットウエポンで対処しているが、なにぶん相手の数が多すぎてビットウエポンでは対処しきれない。
『……仕方ありません。 こうなれば、この船に取り付けたアレを使います』
ルーキスは魔王の軍隊と応戦しているレッド達、それにこの飛船の操縦を担当しているヒルデにリュネットを通じて指示を出す。
レッド達には魔王や魔王軍の意識をできうる限り反らす事。
ヒルデにはミサイル使用の説明を。
『船体の両脇に固定したミサイルを使います。 先程も説明しましたが、照準器に魔王エルディアの姿を映しながらその操縦桿の頭にある二つの発射ボタンを押すだけ。 後はミサイルが魔王に向かって飛んで行きます。 ミサイルは二発――チャンスは二回です』
「はっ、はい!!」
緊張のあまり操縦桿を持つ手が震える。
『何も難しい事ではありません』
ヒルデは照準器に魔王の姿を捉えながら、震える右手の親指をミサイルの発射ボタンの上にそっとのせた。
☆
「助かった……」
ホッと一息付くと僕は現状を把握するのに務める。
僕の乗るクルールは魔王エルディアの駆るナーガの尻尾に叩き落された。
錐揉み状態で落下していたのだが、森の樹の先端から十数メートルくらい上で落下が止まるとそのままゆっくり地面に着地した。
多分、アレはルーキス様の御力によるものだろう。
そのお陰で助かったのだ。
あとでお礼を言うのを忘れないでおこう。
それよりも今はゆっくりしている暇はない。
上を見上げれば、樹々の隙間から上空でレッドさん達が魔王や魔軍相手にドッグファイトを仕掛けている。
でも慣れない空中戦でかなり苦戦しているようだ。
あ、ランディスさんとミハエルさんが同士討ちしてる!
危ないなぁ! ルーキス様が施してくれた安全装置が無ければお互い木っ端微塵であの世に逝ってるよ!
早く戦線に復帰しなければ。
でも魔王エルディアの操るあの長大なナーガ相手にクルールでは対抗できない。
クルールの製作者である僕には分かる。
そもそも、あんなの相手にするなんて想定してないよ!
それに魔王エルディア自身がどれだけ強いか判らない。
「……【
正直、劉武は思い付きで作った、なんちゃって騎甲鎧だ。
騎甲鎧の何たるかを知らず、付け焼き刃で作った、上手く動くか分からない代物。
だが今はこれに掛けるしかない!
「よいしょっと……」
先ずはクルールを着地した地面の上に二本足で立たせて少し股を開かせ魔銃を切り離す。
すると、ガコンと音がなり股下に懸下されていた魔銃が切り離されて地面に落下。
そして操縦席内を埋め尽し僕の体を固定・保護してくれてる白い肉塊が僕の意思に反応して隙間を開けて、臨時で設置したカードスロットを僕の手元に伸ばしてくる。
この肉塊、クッションには十分だけど身動きが取りづらいや……後でどうにかしよう」
今度はスキルカードを僕の内から取り出し、カードスロットに差し込む。
このカードスロットはクルールの操縦席から外に出る事なくスキルカードから物を出し入れするための仕組みだ。
僕のスキルカードの中に入っているあるモノをカードスロット経由で外に出す。
すると、竜を人型にしたような騎甲鎧が地面に膝をついた状態で姿を表した。
これが【
その劉武の背中には大きな穴が空いている。
その穴はクルールを収納して合体するための穴だ。
僕はクルールを少し浮かせ、騎甲鎧の背中のその穴にクルールの頭と足を突っ込み、クルールの足の指に中の固定具を握らせて固定して劉武とのドッキング《合体》が完了。
ちなみにクルールの翼と尻尾は外に出ている。
てか、尻尾は長過ぎてスペース的に収納は無理だし、翼が無いと飛べなくなるからね。
それは流石に勿体ない。
時間に余裕が出来たら上半身と下半身を完全に独立させて変形・合体させたりと色々イジってみたいところだよ。
「上手く動けばいいけど……」
クルールの各感覚機能や操作・制御系統を劉武と同調させる。
クルールが劉武の背中に収まった為、視界が遮られて外の景色が見えなくなったけど、操縦席を満たす肉塊が仄かに発する緑色の光が照らし出す。
操縦席の中の光の色は初め紫色だったのを緑色に変更した。
操縦者が念じれば光の色が変えられるのだ。
僕は目に優しい緑色を選択した。
操縦席の中の様子しか視えなかったのが、同調した途端に劉武の双眸が捉えた外の景色をクルールを通して僕の瞳に映し出す。
「視えた!」
僕はちゃんとクルールの操作・制御系統が連動しているか劉を膝立ちの状態から立たせてみる。
「ちゃんと動いた!」
その場で軽く跳躍させたり、腕やての指を動かしてみる。
「思ってたより軽快に動くな。 それに劉武の感覚と僕自身の感覚が同調してるみたいで変な感じがする――けど悪くない感じだ。 あと、魔銃は誰かに拾われないようスキルカードに回収しよう」
僕はカードスロットに刺してあるスキルカードのストレージ機能を魔銃に向かって発動してみる。
「……良かった。 ちゃんと入った」
ついでに劉武専用の武器――二本の刀剣――大刀の【
コレもまだまだ未完成品なのだが武器が無いよりマシだ。
「急ごう!」
劉武は翼を広げて飛び立ち、レッドさん達の下に向かった。
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