第16話 逃走準備②

 僕達はあれから寝食を惜しんでせっせっと作業に勤しんでいた。


 ルーキス様はリュネットさん、ヒルデさんに手伝ってもらいながら、僕が特殊スキル【甲殻】で作った騎甲飛船きこうひせん艤装ぎそうを施すための武器を製作している。

 僕が話した地球の兵器を参考にルーキス様が作っているのだ。


 ちなみに、完成した飛船は近所の知り合いのおじさんが自作した、軽トラックのキャンピングカーを参考にして作った。


 しかも内装には、水が流れる水洗トイレ付き。

 ただし、その水が何処から来て、汚物と一緒に何処に流れて行くかは謎だ。


 その両側の装甲部分に武器をくっ付ける予定だと、ルーキス様がおっしゃっていた。


 一体、どんな武器を作るんだろう?


 おっと、いけないいけない! 余計な事を考えてる暇はないぞ! 作業に集中しなければ!


 僕は今、レッドさん、ミハエルさん、ダニエルさん、ランディーさんの四人それぞれに鳥型の騎甲――【クルール】の部品を作ってる。


 それを四人が自分で張り合わせて組み立てるのだ。


 四人はルーキス様から一時的にではあるが、僕の【甲殻】の一部をコピーしてもらい、張り合わせる事が出来るようになった。


 なんでも、僕の【甲殻】は色んなスキルが合わさって出来た複合的なモノで、しかもその一つ一つがとても強力らしい。


 だから能力スキルを司るルーキス様でも僕の【甲殻】をものにするのは一苦労で、完全にコピーするには年単位の時間が掛かるとか。


 なので、【甲殻】の一部の能力――くっ付ける・分離する・形を変えるの三つに限定した。

 一時的なのは、僕の【甲殻】は余りに強力過ぎて体に負担が大きく、長時間は耐えられないからだ。

 【甲殻】に限らず特殊スキルはそういうモノらしい。


 そしてクルールの武装も飛船と同じく、ルーキス様が武器を作製して施してくれる事に決まった。

 これも時間がないので仕方がない。

 でも四人はルーキス様手ずから作ってくれる武器をとても楽しみにしている。


 そんな四人のクルールは、それぞれ外観が違う。


『全部形が同じだと、見分けがつかないだろ?』


 そう言う四人だが、実際には今までになかった空を飛べる騎甲を持てる事が嬉しいみたいだ。

 この騒動が終わったら、改造・改良する事を約束させられた。


「――って、レッドさん、貴方もですか!?」


「済まない。 だが、空飛ぶ騎甲を持つ事は、私の夢だったんだ。 飛船のような大型のものではなく、騎甲鎧のように小型で一人乗りのもので」


 今、自分が組み立てているクルールを眺め、片手で撫でながらそんな事を言うレッドさん。


 夢、か……。


 僕は両親があんなだから、生きるのに必死で夢なんて持つ余裕なんてなかった。

 伯父さんの下に引き取られた後も捨てられないよう気を使っていた。

 まぁ、伯父さん達はとても良くしてくれて、今では逆に気を使わせていたのを申し訳なく思う。


 こんな僕にも夢と言うか、目標や生き甲斐みたいなものをこの先持てるだろうか?


 あ、でも、目標ならあるか。


 僕の人生を狂わせた小沢おざわ明笑あきえと言う人物に復習する事。

 そのためにはまず、目の前に差し迫る魔王と言う脅威を退け、生き残らなければ。







 奴等が巨獣の檻の奥、このルーキス様の隠れ家まで到達するのに時間がない。


「『皆さん、準備は良いですか!』と、ルーキス様がおっしゃっています!」


 リュネットさんがコミュ障の女神――ルーキス様の言葉を代弁して皆に伝える。


 ルーキス様、リュネットさん、ヒルデさんが騎甲飛船に乗り込む。

 飛船を操縦するのはヒルデさん。

 彼女は自分が所属する妖精教の所有の飛船で経験をつんだそうだ。


「タダ様のスキルで建造したコレは、私の思い通りに動いてくれるのでとても助かります!」


 普通はもっと難しく、操船室の機器や計器類も沢山あるらしいのだが、僕には良く分からない。

 なので、最低限の計器類――高度計・姿勢指示器・速度計・方位計の四つを付けておいた。


 僕を含め、レッドさん達は自分専用の鳥型騎甲のクルールに乗り込む。




 ルーキス様がクルール用に作ってくれた武装は魔獣・魔族以外は傷つけない連鎖・連射式の【魔銃】。


 自分が高速で移動してなおかつ、標的も動いていると当てるのは至難の業だ。

 たとえされが機関銃のように毎秒何百発という弾丸を吐き出せても。

 その弾丸がそれた場合、目標以外の構造物や生物に当たり、余計な被害を発生させる原因となる。


 それを未然に防ぐためだ。


 魔銃は連鎖・連射式という二つのモードを搭載。

 それをセレクトレーバーで切り替える。

 連射式は普通に連射するが、連鎖は標的に当たると半径10m以内にいる魔獣・魔族に対してその全てに貫通攻撃を仕掛ける。


 あと、”魔銃”は両足の付け根の間、股の部分に固定装着された。




 そして、もう一つ。


 マニュピレーターが付いた腕のような兵装――【ビットウェポン】。


 大きさは手を合わせて全長6m、直径が1m。


 クルールの頭部から尻尾までの長さと同じだ。


 通常はクルールに合せて飛び回り、クルールを守るよう防御行動を行うが、操縦者自身が操作する事も可能。

 その場合は思考制御――考えるだけで操作ができる。


 防御のためのシールドが備えられ、そのシールドは拳を覆ったり、剣のような形となって攻撃を行う事もできる。


 射撃武器も考えたらしいけど、時間がないから省いたそうだ。




 騎甲飛船に施した艤装ぎそうは誘導兵器。

 所謂ホーミングミサイルだ。


 魔王に近付くまでは結界にてあらゆる攻撃を無効化。

 至近に至った瞬間、結界を解除してミサイルの信管を作動させて爆発。

 それにより、魔王を滅殺、または傷を与えてその間に戦線を離脱して魔王から逃げ切るというものだ。


 コレは対魔王用の武器で一発の威力は高い。

 だがそのために短時間で数を揃える事は出来ず、用意するのは二発が限界だった。



 僕自身も作業の合間に考えた、クルールの兵装を製作しておいた。

 ただこれに関しては、完成と同時に時間切れとなったので試す時間が無かった。

 使うとしたらぶっつけ本番になるので、不安がかなり残る。

 出番がないまま無事に逃げ切れればいいんだけど……。




 作戦としては――


 僕達、クルール部隊が飛船を護衛しながら妖精教の総本山があるヘリッジ皇国まで全速力で逃げる――基本方針のプランA。


 もし、魔王軍や魔王に遭遇したら、レッドさん達が時間を稼いでいる間に僕と飛船を逃がす。 逃げ切った後、もし生き残っていればレッドさん達も戦線離脱して逃げる――囮作戦のプランB。


 それでも逃げ切れなければ飛船に積んである対魔王用誘導ミサイルを使用してダメ元で魔王を討伐する――破れかぶれの最終プランC。


 この三つが現在僕達が採れる最善の手立てだ。


 ……プランA以外、碌なもんじゃないね。


 でも、今の無力な僕達に出来るのは、プランAが上手く行く事を神様に……は、邪神を封じるのに忙しくて無理だから、天に祈るだけだ。


 どうか、皆で無事に逃げ切れますように……

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