第15話 逃走準備i①
お風呂から出た三人の女性陣からは――
『まだ、その……自信がありません……』
顔を真っ赤にして言われてしまった。
一体、何に対しての自信だろうか?
三人は輪になって話し込んでいて――
「ルーキス様、ルーキス様!! 男性の象徴と言うのは、あれほど大きいものなのでしょうか!」
「私の記憶にある幼い頃に見た兄達や御父様のを遥かに超えています!」
『私も詳しくは知りませんが……昔、水浴びしていた体長3mのリトルジャイアントの大人のモノでもあそこまで大きくはありませんでした……』
などと言う会話が時折聞こえて来る。
お陰でルーキス様やリュネットさん達とゴニョゴニョしなくて済んだけど。
女性陣から伝え聞いたその話を俄に信じられなかった男性陣四人。
ミハエルさん、ダニエルさん、ランディスさんの三人は半ば悪乗りして僕のズボンとパンツを無理矢理ひん剥いた。
そして、露出した僕のソレを見たレッドさん達は驚き、ミハエルさん、ダニエルさん、ランディスさんの三人に至ってはショック(?)で打ちひしがれていた。
「なん……だと!? タダのアソコは化物かっ!?」
「お、おおお男は大きさじゃないよっ!!」
「レッド隊長が最凶だと思ってたら、ここに常識を超える存在が……さすが、勇者に選ばれし者!! 大きさも半端ねえぜ!!」
僕のモノは一般人のソレを上回る大きさ、らしい。
自分では分からない。
僕の大きさは伯父さんや月影流宗家の蒼さん達と同じ大きさなので普通だと思っていたのだけど。
それより、そこの三人。
いい加減ズボンとパンツ返して下さい。
女性陣が僕のをまたガン見して、凄く恥ずかしいんですから。
☆☆☆
如何にして神にも等しい強大な力を得た魔王に対抗するか?
この問題が振り出しに戻ってしまった。
神々は今は邪神の動きを封じるのに必死で身動きが取れない。
なので、助力を得られる望みが薄い。
頼りになる筈の同じ妖精関連の神々の中には裏切り者がいて、それが誰なのか分からないので完全には信用できない。
それに、ルーキス様はコミュ障なので力になってくれる友達が一人もいない。
だからと言ってこのまま此処でじっとしていてもそう遠くない内に見つかってしまう。
そこで僕が思い付いたのが――
「騎甲を作るんです」
『しかし、それで魔王に対抗できるものでもありませんし、そもそも素材やその加工が――』
「僕のスキルで全て賄えます。 それに戦うのではなく魔王から逃げるだけですから」
僕の特殊スキル【甲殻】で高速で移動できる乗り物でも作って、それに乗って逃げる作戦だった。
それからの僕はルーキス様の隠れ家で【甲殻】を駆使して独自の騎甲を開発、建造の挑戦を始めた。
騎甲の構造についてはレッドさん達から大摩訶に聞いている。
騎甲はボディと頭脳と心臓にあたる結晶核で構成されている。
ボディは金属や巨獣の甲殻を加工して版にした物を枠型の骨組みに貼り付けた言わばハリボテ――ねぶた祭りに出てくる巨大人形を想像して欲しい――そのものだ。
なら、僕の【甲殻】のスキルが生きるはず。
何故なら、甲殻類の生物も同じ様な体の構造をしているからだ。
と、言う訳で早速、試しで鳥型の騎甲を作ってみる。
ルーキス様の隠れ家は結構本格的だ。
屋敷と言っても問題ない広さと構造だ。
地下室なんかも完備している。
巨大植物群の中にある筈なのに地下部分の根っ子はどうなってるんだろう?
僕はその地下室を借りて、先ずは装甲板や関節、脚や翼の部品を【甲殻】で創り出す。
甲殻は牡蠣の殻の様に層になっていて硬さと柔軟性を併せ持ち、何か生き物の様に脈打っている感じがする。
それらをモジュール、ユニットごとにプラモデル感覚で組み立ていった。
皆にも手伝ってもらい、途中に休憩を挟みつつ四時間後、ようやく完成したのだが――
「うわぁ……何か埋まっているな……」
「これは何だ? タダ?」
「知りませんよ……」
「き、気持ち悪いよ……」
「この中に入って操縦するのか? この中に入るの、相当勇気いるぞ……」
外観は上手く作れたと思う。
皆からも批判は出ていない。
ただ、騎甲の――鳥で言えば頭部にあたる操縦席の中を開けて見てみると、真っ白い生物的な組織と言うか、肉塊と言うか、殻を剥いた牡蠣やホタテの中身の様な……とにかく、そんなもので埋め尽くされていたのだ。
「ええぇ……」
「タダ様、何と言いましょうか……これはさすがに……」
『生理的に、無理……』
女性陣がドン引きするほどの気色悪さだった。
「一応、完成たんだ。 試しに乗ってみてはどうだね、タダ君」
レッドさんが極真っ当な、しかし、とんでもない無茶振りを僕にしてきた。
製作者の僕でも乗り込むのにかなり躊躇う操縦席の中。
しかし、実際に動くかどうか試さなくてはいけない。 不本意ではあるけれど。
中に入るしかないのだ。 嫌だけど。
「食べられたりしませんように……」
「オイオイ……自分で作っておいて、物騒なこと言うなよ」
「見た目が見た目だけに洒落にならんぞ」
ランディスさん、ミハエルさんのツッコミを聞き流しながら、僕は操縦席の中に詰まっている真っ白い肉塊の中に身を沈めていく。
「……ブニブニして生暖かい」
キャノピーを閉め様と思った瞬間、誰も触れていないのに突然キャノピーが閉まる。
「うわっ!?」
「だっ、大丈夫ですか、タダ様!?」
『タダ! 返事をして下さい!』
不安げに見守っていたレッドさん、リュネットさんが慌てた様子で僕が乗り込んだ騎甲に縋り付く。
「――って、外の様子がちゃんと見える」
肉塊の中は薄い紫色の光で照らされている様子が網膜から眼に入って来るのに、外の映像と音の情報が頭の中に直接入ってくるという奇妙な二つの感覚が頭の中で同居している。
何これ?
「あ、大丈夫です。 問題ありません。 それより、騎甲を動かしたいので離れて下さい」
僕は外にいる皆に向かって話掛ける。
「そう言えば、僕の声って外に届くのか?」
その心配は杞憂に終わる。
どうやら外に声が届いたらしく、皆安堵して騎甲から離れてくれる。
僕は最初はゆっくり、そして徐々に鳥型騎甲の走る速度を上げる。
右、左、後、跳躍。
どれも僕の思う通りに方向転換や動きをしてくれる。
そして今度は肝心の飛行能力を試す。
この地下室、高さが10m位あるので高度を取らなければ問題ないはず。
――翔べ
念じると同時に騎甲は今まで折り畳んでいた翼を広げ、床から脚が離れてフワリと舞い上がる。
僕は騎甲を5mの高さを維持し、飛行する。
ホバリングや、何とこの低い高さで宙返りも熟してしまう。
「「「「おおお!!」」」」
「「すごい!! すご過ぎです、タダ様!!」」
『なんて微細で美しいマナの制御……こんなの見事ない……』
どうやら、僕が作った騎甲は、僕達が思っていた以上に優秀だった。
☆☆☆
『タダの騎甲は大変素晴らしいモノです。 ですが、それでも……』
「あの、中身が……」
「やはり、私達には生理的に無理です……」
ルーキス様、リュネット様、ヒルデさんは僕の作った騎甲に搭乗する事を拒絶する。
確かに女性にはあの肉塊の中に身を沈めるのは無理かもしれない。
ちなみにレッドさん達四人はあの後順番に乗り込んで克服した。
「まあ、あれはあくまで試作品です。 今度は皆が全員乗り込める、ちゃんとしたモノを創ります」
――というわけで、鳥型の騎甲を創った要領で、今度は
『「「……」」』
やっぱり中身は、肉塊が詰まっていた。
それを見て不安そうにする女性陣。
「た、タダ様……私達、何とか我慢して乗り込んでみます!」
『これ以上の我が儘は言えません』
「そ、そうですね、リュネット様、ルーキス様。 タダ様は力を尽くされてくれたのですから……」
言葉ではそういうものの、三人の顔色は悪い。
「いやいや、まだ完成ではありませんから」
『「「えっ?」」』
僕はレッドさん達四人の男性陣の助けを借りて、騎甲飛船の入り口から船の中の床や壁、天井部分に甲殻を張り付けて行く。
その作業は肉塊が邪魔をして困難だと最初は覚悟したのだけど、貼り付ける甲殻を近づけると肉塊は萎縮して、思ったよりも簡単に貼り付ける事ができた。
思った通り、中にも甲殻を貼り付ける事で肉塊が発生しなくなった。
なお、船の中の仕切りの壁からは甲殻を張り付けなくても肉塊は発生しないので甲殻を貼り付ける手間が省けて助かった。
ただ船内の甲殻を張り終えた後で、全体を組み立てる前の部品状態の時に、先に剥き出し状態の船内に甲殻を張り付けておけば手間が省けて良かったと気がついたのは皆には内緒だ。
「良かったです」
「これで安心して乗り込めますね、ルーキス様、リュネット様」
『ありがとう、タダ』
肉塊が詰まってないので女性陣の顔色は良くなった。
動作も問題ないので、船内に操縦関連に必要な計器類や椅子を設置していく。
シートベルトはルーキス様が用意して自ら設置してくれた。
その時の手際は素晴らしく見事だった。
これも女神の力――
さて、これで脱出準備完了――と、言いたいところだけど、まだ少し足りない。
ルーキス様を護るための戦力だ。
逃げる途中、場合によっては魔王と殺り合わなければならない。
勝てるとは当然思わないが、時間稼ぎは必要だ。
だから、僕は試しに創った鳥型の騎甲にさらなる工夫を施す。
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