第14話 女神ルーキスと壊れる会議
巨獣の檻の入り口付近から手元の腕時計で六時間以上掛り、巨獣の檻の奥にいた女神ルーキス様の下へ漸く辿り着く事が出来た僕達。
僕が身に付けている腕時計は骨董市で見つけたゼンマイ式で僕のお気に入りだ。
ちなみに伯父さんに無理矢理持たされたスマホはこの世界――ファーレシアの召喚時の影響か壊れてしまった。
淫獣によって負ってしまった僕の傷は女神様自ら治癒魔法で癒やして頂いた。
その時、淫獣の襲撃で傷を負った際に破れて血まみれになった僕の学校の制服をルーキス様御手製の服と交換した。
制服はこの世界では珍しいデザインだったので、ルーキス様がとても欲しがったのだ。
その代り、交換して頂いた服は温度調節機能や各種耐性や防御力が高い優れものだった。
レッドさん達の方はルーキス様が確認した限りでは無事で、彼女が誘導してくれてどうにかこちらに合流できた。
レッドさん達も巨獣との戦闘やゴブリンやオークといった淫獣の襲撃に遭い、鎧が泥で汚れ、破損している。
「スパイダークラブとやりあってる最中に武装したゴブリンやオークの群れが現れて。 スパイダークラブがソイツらの方に気を逸している内に何とか逃げ切れたんだ」
「騎甲鎧はボロボロになってもう使い物にならないけどな」
レッドさん、ランディスさんが説明してくれる。
「ここに辿り着くまでに淫獣目当てに集まった肉食の巨獣が湧いて出まくっていて、それを避けるのに余計に時間が掛かったんだよ」
ダニエルさんが苦笑いしながら話してくれた。
淫獣は巨獣の餌にもなる。
今、この周りに僕達のせいで集まってしまった淫獣は巨獣によって狩られているらしい。
「その方がルーキス様……なのですか?」
僕の低い背の後ろに隠れたルーキス様を見てミハエルさんがリュネットさん達に尋ねる。
「はい、そうです」
「何故、タダの背中に隠れておられるんですか?」
「ルーキス様は、その……人見知り、と言うか――苦手で……。 神々の会合でも私達巫女や聖女が同伴していないと対応出来ないのです」
どうやら、女神様はコミュ障らしい。
でも、僕とは普通に接している様に思うんですが?
「なら何故、タダには平気なんですか?」
「私にも何となく分かるのですが。 タダ様はとても安心できる空気と言うか、空間をお持ちで。 それで平気らしいのです」
僕は人間空気清浄機か何かですか?
そしてリュネットさん、貴方も分かるんスね。
「タダ、今度私にも女性を引き付けるその技を教えてくれ」
「俺達には結構切実な問題なんだ」
真顔でそんなフザケた事をのたまうミハエルさん、ランディスさん。
いや、フザけたような顔はしておらず、とても真剣だった。
「僕にだってそんなの分かりませんよ……」
何言っちゃってるんですか、貴方達は。
女性にモテたいのは分かりますが、モテた事のない僕に頼らないで下さい。
☆
レッドさん達は怪我の治療と汚れを落とすため、ルーキス様が巨獣の檻の植物で作ったこの家のお風呂を使わせてもらった。
薬効成分が高いお湯で、負っていた怪我が瞬く間に治った。
僕は使わせてもらってない。
何故か僕の治療はルーキス様自らしてくれたので入る必要がなかったのだ。
その時、僕は上半身裸だったのだが、ルーキス様は箱入り娘で男の裸に免疫がないみたいで、顔を上気させながら僕を治療してくれた。
自分のスキルカードのストレージにしまっていた替えの服に着替えを済ませたレッドさん達四人を交え、客間の様な部屋でルーキス様が何故今まで姿を眩ましていたのかその経緯を説明してくれた。
彼女の話では同朋であるはずの妖精の神の中に裏切り者がいて、ソイツのせいでサンドリオン帝国の皇太子に捕まってしまったらしい。
『……』
「ルーキス様が仰るにはサンドリオン帝国の皇太子を唆し、自分の住む場所に手引きしてその上、女神の力を封じて捕縛する道具を準備したり、使うタイミングを指示した妖精の神がいる。 そしてその神を裏で操っているのがサードアイの王にしてインキュバスの王――魔王エルディア。 つまり、真の黒幕は魔国の魔王――だそうです」
魔王には体質スキル【純潔喰らい】と言うスキルを所持していて、純潔の女性とまぐわう事でその女性の力を得られるらしい。
魔王の本当の狙いはヘリッジ皇国ではなく、自分の持つ【純潔喰らい】の能力で神をも超える力を手にし、誰にも支配されない力を得る事。
そしてこの世界の女神を含む美しく優秀な女性達を得る養殖場を創る事。
今、魔王エルディアは邪神復活騒ぎに乗じて力ある女性達を一気に襲い、現在では各勢力の頂点に君臨する最高神達に近い力を得ているらしい。
「ってか、一国の王なんですからハーレムなんて簡単なのでは?」
『……』
「彼が創りたいハーレムは、自分が望む、自分の言う事だけを聞く、自分が創り出す完璧で究極の優秀な美女達――だそうです」
「魔王はピュグマリオンをこじらせた、傍迷惑な奴ですね……」
『……』
「ああ、ピュグマリオンとは自分が彫った女性の彫像を、神様からもらった能力で命を吹き込み、自分のお嫁さんにした神話上の人物です」
『……』
”なるほど”、と言って納得して頷くルーキス様。
「……タダ君、君はルーキス様の言葉が理解出来るのか?」
不意にレッドさんが奇妙な質問をしてきた。
「え? 普通に分かりますけど、何故です?」
「我々にはルーキス様のお言葉が聞こえないんだ」
レッドさん、ミハエルさん、ダニエルさん、ランディスさん、次いでにヒルデさんも神妙な顔をして頷く。
「そうなんですか、リュネットさん?」
「私はルーキス様の聖女なので意思疎通できますが、他の方々は神々を含めて理解出来る方は余りいらっしゃらないようなのです」
『ただ人前で喋るのが苦手なだけです。 貴方とは何故か普通に話せますが』
おいおい……それで今まで良く妖精の神を纏められてきたものだな。
その疑問に僕の後ろに隠れてるルーキス様が困り果てた顔で答えてくれた。
『私がその場にいるだけで、何故か皆勝手に纏まるんです。 それで気付いたら、いつの間にやら妖精の三柱女神様の代りとして担がれてしまって……』
単にコミュ障なだけじゃないですか!
恐らく、彼女の美貌とカリスマがそうさせたんだろうけど。
実は彼女のような人物を僕は一人知っていたりする。
僕の収めている剣術流派――月影流の宗家の跡継ぎの月影
『魔王と誰が通じているのか判断できないので誰にも告げず、こうして姿を隠しているのです。 でも、エルディアは私が隠れているこの魔獣の檻の中を家臣に命じて捜索しています。 それに関しても同朋の中にいる裏切り者が手引きしたのでしょう』
「そうなると、ここも危ないですね。 ルーキス様の方から打って出て、魔王を倒す事は出来ないんですか?」
僕の提案をルーキス様は力なく頭を左右に振り否定する。
『魔王は自身のスキルで女神の力を奪い、既に私の力を超えています。 今のままでは返り討ちに遭うでしょう。 ただ、魔王に私の力を奪わせない予防策があります』
おおっ! そんな方法があるのか!
それならいっそ、その方法を広めてしまえば、魔王に女性が襲われなくなるはず!
「ルーキス様、その様な方法があるのなら何故今まで実行しなかったのですか?」
コテンと首を傾げながらリュネットさんがルーキス様に問う。
リュネットさん、その仕草、とても可愛いです。
ルーキス様が頬染めながら――いや良く見ると、ルーキス様の白い手や足先が湯上がりの様に紅く火照っている。
何か嫌な予感が……
『それは殿方に私の純潔を捧げる事です』
「「「「「「ブッ!?」」」」」」
ルーキス様以外、ここにいるメンバー全員が彼女の話に思わず吹き出した。
『あ、女性では駄目ですからね。 ちゃんとした男性でないと。 でないと、魔王の【純潔喰らい】のスキルで力が奪われますから』
「――って、あ、いや、ルーキス様……その、皆さん、そういう意味で驚いていらっしゃるのではなくて、ですね……」
男に免疫がないリュネットさんが顔を真赤にしてアタフタして狼狽えている。
「そもそも、そういう事は男でなければ無理なんじゃあ……」
ランディスさん、ルーキス様の発言にツッコミを入れる。
惜しい! その前の発言にツッコミを入れて欲しかった!
「神様は同性同士でも子供が作れるんです。 だから、同性同士の結婚が可能なのです。 あ、でも、大抵の神様は異性を恋愛対象に選びますけど」
リュネットさんが未だ収まらない真っ赤な顔で狼狽えているので、代わりにヒルデさんが律儀に答えてくれた。
「え~と、そういう話はまたの機会に。 今は魔王のスキルに対抗する予防策の話の続きを聞きたいのですが……」
僕達の中で責任者と言う立場からか、レッドさんが言い難そうに脱線した話を元に戻そうとする。
分かりますよ、レッドさん。 元の話も脱線した話も聞きづらいですもんね。
『やはりこういう事は、良き殿方――可能であれば愛する殿方と添い遂げたいので……』
そう言ってチラリと僕に視線を向けるルーキス様。
リュネットさんが翻訳したルーキス様の話の内容から、その仕草を目撃した全員が僕に視線を集中する。
「え?」
僕は自分を指差すと全員同時に頷いた。
「いやいやいや! 駄目ですよ、そんな! 僕とルーキス様は出会ったばかりなんですよ! お互いよく知りもしないのに、そんな……その、ゴニョゴニョ……するなんて!」
「S○Xな!」
「ワザと誤魔化したのに言わないで下さい!」
ランディさんがドヤ顔で僕が濁した部分を言う。
貴方は余計な事を言わんでよろしい!
「そうです! それにタダ様は私と、その、正式な、おおおお、お付き合いを始めたばかりなんですよ!」
いいぞ、リュネットさん! もっと言ったれ!
「最初にS○Xするのは私です!」
「駄目な方に発展した!?」
「どうしよう、これ? また、収集がつかなくなってきた……」
そう言って、頭を抱えるレッドさん。
そして、我関せずと言った感じでルーキス様が手ずから淹れてくれたお茶を優雅な仕草で飲むミハエルさんに空気と化しているダニエルさん。
お願いです。 この状況、何とかして下さい。
特にそこでお茶飲んでる人と空気になってる人。
『順番はともかく、リュネット、貴女達も必要な行為なのですよ』
真面目な顔で話すルーキス様。
『魔王は純潔で優秀な見目麗しい女性であれば誰彼構わず容赦なく襲います。 もし、魔王の捜索隊に見つかり、捕縛されてしまえば貴方達も例外ではありません』
「あ、あの~……貴女達、と言うと……私も含まれるのでしょうか?」
恐る恐る尋ねるヒルデさん
『……コクン』
ヒルデさんの質問に頷いて答えるルーキス様。
「え? あっ? ええっ!? わた、私、そんな優秀じゃないですよ!! それに美人でも無いし!!」
必死で自分を貶すヒルデさん。
「いえいえ、ヒルデ。 貴女は十分優秀ですよ」
『それに人並み以上の美少女です』
優秀かどうかは知らないが、ルーキス様の言う通り確かに顔は整っていて美人だ。
胸も大きいし、スタイル抜群。
それ故、今回魔王と言う災難に遭遇してしまった。
僕に出来る事があれば何とかしてあげたい。
「ではタダ様、お願いします」
「速攻でフラグ来た!?」
「「速攻で拒否られた!?」」
ヒルデさんが僕を指名した。
何故だ? 僕は女性にモテる要素は無いぞ! 背も低いし、顔も十人並だし。
そんな疑問を抱く僕の横でヒルデさんに指名されなかったショックに床に手を着けて落ち込むミハエルさん、ランディスさん。
「いえいえ、例え背が低くとも、タダ様は十分に可わ……魅力的ですよ」
何か今、可愛いって言いそうになったのを言い直しませんでしたか、ヒルデさん?
『話しは決まりましたね。 では次に順番を決めましょう。 タダはお風呂に入って待っていて下さい。 場所はその人達が知っています』
ルーキス様はそう言ってレッドさん達を示すと、リュネットさん、ヒルデさんと共に僕達から隠れるように僕のソファーの後ろで屈んで話し込んでしまった。
何の順番ですか、ルーキス様?
嫌な予感しかしない。
多分、恐らく、そういう事なのだろう。
僕の伯父さんは言っていた。
”女性と肉体関係を持つなら後の責任を持つ覚悟をしろ。 覚悟がないなら女性とはそういう関係になるな”、と。
責任を取ろうにも僕は未だ未成年で未熟だし、社会的地位も経済力もない。
無い無い尽くしだ。
「……僕はどうすれば?」
「ル~キス様の言う通り~、さっさと風呂に入れば~良いのではないか~」
「そ~うだ、そうだ~。 どうせ俺達には関係ないもんね~」
僕への嫉妬心から投げ遣りな口調で僕の口からでた言葉に答えるミハエルさん、ランディスさん。
子供みたいに
そういう所がモテない原因なんですよ。
「ハア……、ダニエル、タダ君を風呂に案内してやれ」
「あ、やっと出番ですか? 途中から話が不毛な内容になってきたんで、脳味噌がスライムになってましたよ。 タダ君、お風呂はこっちだよ」
ああ、脳がスライムの様に
分かります、分かりますけど。
でも、出来ればもう少し発言して、僕とレッドさんを助けくれれば話し合いがもうちょと円滑に進められたのに……。
僕はダニエルさんにお風呂のある場所に案内され、ルーキス様が使っているお風呂に入った。
ここも客間や他の部屋同様、植物で出来ていた。
一人で入るには大きい浴槽の中心に立つ女性の石像が肩に抱える大きな壺からダバダバと尽きること無く溢れ落ちるお湯と何かの桃色の花びら。
お湯からは良い匂いがする。
多分この桃色の花びらが匂いの元だろう。
「フゥ……久しぶりのお風呂、気持ちいい……」
僕は湯船に浸かりお風呂を堪能する。
久しぶりのお風呂だったのでつい長湯をしてしまったな。
それにしても何故、僕はお風呂に入らされたんだろう?
その事に疑問を抱きながらも十分お風呂を楽しんだ僕は湯船から上がる。
その時、事件は起きた。
なんと! 僕が入浴しているにも関わらず、女性陣がお風呂に乱入してきたのだ! しかも、その魅力的な裸体を隠す事無く晒して!
僕は一人でお風呂に入っていたので当然裸。
大事な所も丸見えです。
そして、何故か女性陣の視線が僕のアソコに集中する。
ガン見である。
「皆、ドコ見てるんスか!!」
反射的に湯船に身体を隠す。
僕の大事な所であり男の象徴を目撃した女性陣二人と一柱は顔を真赤にしているが、未だに湯船に沈んだ僕の大事な所を見ようと集中している。
すると突然、彼女達は何を思ったのか動物の名前を同時に呟いた。
『「「アナコンダ……」」』
「何がっ!?」
『「「ナニが」」』
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