第13話 能力の女神

 僕は今、四騎の騎甲鎧を伴って巨獣の森にやって来た。


「でっかいな~……」


 初めて見る巨獣の檻の中の植物。


 レッドさん達の話の通り、植物の茎や幹が太く、天を突くほどに高い。


 まるで昔流行った映画に出てくるカビの森を想起させられる。

 まあ、胞子は飛んでないんでマスクは要らないけど。


 周りに気を配りながら歩いていると前からポーン級が、ポーンと言うか、ポンポーンと群体で飛び跳ねながら足場の悪い地面をカンガルーの様に疾駆している。


 何というか、シュールな光景だ。


 全長5m近い体躯。その見た目は一見すると巨大なボールに見える。


 フリンスボールと言うらしいそいつはヤドカリの様にボールの様な甲殻を被り、殻の下から顔と手足が出ている。


 食性は草食――と言うか、アブラムシやセミの様に樹液を吸うらしい。


「ん? フリンスボールの後ろから何か付いてきてるぞ?」


「巨獣ですね。 大きさは7~8m前後……ゲッ!?」


「どうしたんだよ、ミハエル?」


「クラブスパイダーだ! 何でこんな浅瀬に!」


「全騎、臨戦態勢! タダ君はリュネット様とヒルデさんを連れて早く檻から出ろ!」


 常に冷静なレッドさんが取り乱す。


 確かウィザード級は特殊能力を持っていて同じ種類でも個体別に特殊能力が違う。

 そしてキング級、クイーン級に次いでとても厄介。

 大隊単位で相手しても全滅必至だとか――えっ!? そんなおっかないのが近づいて来てるの!?


「リュネットさん達はこっちへ! レッドさん達も気をつけて!」


「君もな!」


 僕は二人を連れて足場が悪い地面を二人が転ばない様に気をつけながら巨獣の檻の出口に急いで向かう。


 もう少しで出口という所で周囲に異変に気付く。


「あれは!」


「どうされました、タダ様?」


「ゴブリン!? それにオークも!?」


 ヒルデさんが相手の正体を口に出す。

 淫獣ゴブリンとオーク。

 この巨獣の檻に生息する巨獣以外の脅威。


「二人共静かに! 地面に伏せて!」


「あ、はい!」


「分かりました!」


 僕達三人は淫獣共に見つからないように様子を見る。


 巨獣の檻に向かう道中、レッドさん達から聞いた話では、淫獣とは異種族でも繁殖相手として捕獲し、生殖行為を行う。

 そして相手が同性、もしくは捕獲した相手が生殖器の用をなさなくなった時、殺して食料にする残虐な生物だ。


 にしても……数が多すぎる! ゴブリン、オーク合わせて百以上はいるぞ! 流石に二人を連れてあの中を突破するのは無理だ!


「それにしても変ですね……」


 小首を傾げて疑問を口にするリュネットさん。


「何がです?」


「淫獣とは言えゴブリンとオークは相容れない存在。 互いに敵視するもの同士なのですが、その様子がないのです」


「そうですね。 それにゴブリンはともかく、オークが金属製の武具で武装しているのはおかしいです。 それも全員、揃いの武具。 もしかしたら、何処かの組織がテイマーを使って何か良からぬ事でも企んでいるのかも……」


 情報が無いので想像の範疇でしか無い。

 今の僕達が出来る事はアイツらが早くこの場を立ち去ってくれるのを待つだけだ。


 しかし――


「くそっ!減るどころか増える一方だ!」


「彼らに気付かれる前に今の内に一旦、ここから離た方が良いかと」


 ヒルデさんが僕にそう提案する。


「そうですね、その方がいいでしょう。 それにこの巨獣の森に来てルーキス様の反応が強まりました。 タダ様、ルーキス様を捜索して助力を得ましょう」


 リュネットさんも対応策を提案する。


「分かりました」


 レッドさん達も心配だけど、女神様の助けが得られれば何とかなるかもしれない。


「女神様の居場所は分かるんですか?」


「巨獣の檻の奥からです。 騎甲鎧が無いので危険ですが、今の状況では致し方ないかと」


「二人は僕が必ず護ります!」


 本当は自信なんてない。 でも、二人を不安にさせるわけにもいかない。 僕は精一杯の強がりで二人を安心させる事に務める。


「ありがうございます、タダ様」


「頼りにさせて頂きます」


 二人は僕に微笑んでそう答えた。

 しまったな。 どうやら二人には僕の心情がバレバレのようだ。

 それでも不安を顔に出さず、僕達はリュネットさんの指示に従い巨獣の檻の奥へと向かった。







 奥に進むと先程とは違う灰色でウロコ状に乾燥した肌を露出させたゴブリンが三匹で襲い掛かって来た。


「ハッ!」


「グギャア!?」


 僕は巨獣の檻に来る前に特殊スキル【甲殻】で創っていた大小ニ刀の刀を用いて向かって来た最後のゴブリンを切り伏せる。


 リュネットさんやヒルダさんに逃がすと仲間を呼ぶ危険性があるので仕留めなければならないと注意を受けた。

 なので確実にゴブリンの息の根を止めるため、地面の上でのたうち回るゴブリンの胸を突き刺す。


「ギャアァァァッ!?」


 ゴブリンは絶叫して痙攣し息絶えた。.

 良かった。 心臓の位置は人間と変わらないようだ。


 ちなみに、これが僕の初実践。


 ゴブリンは人に似ているから忌避感が出ないかって?

 自分だけじゃなく二人の命が掛かっている状況だ!

 そんな事気にしてる場合じゃないんだよ!


 危険を避けるため、一刻も早くリュネットさんが感じる女神ルーキス様の反応する場所に向かう。


 当然ながら奥に行けば行くほど、ゴブリンやオークといった危険な淫獣や高ランクの巨獣の出現率が高くなる。

 

 リュネットさんが淫獣避けのスキルを発動してくれてるので何とか無事で済んでいるがそれも絶対ではないし、巨獣に関して言えば僕達よりも陰獣に向かって行くので助かっている。

 けど巨獣の巨体を避けるため、僕達は素早く動かなければいけない。


 なので僕は体が限界に近付くのを止められないでいた。


「くそっ!」


「ウギャ!?」


「グギッ!!」


 二人に迫ったオークを二匹――一匹を大刀で切り裂き、一匹を小刀で突き刺して同時に仕留める。


 いくら体力や素早さに自身がある僕でも、次から次へと襲い掛かって来る淫獣共の攻撃に決して浅くはない傷を負ってしまう。


 【コリコリ壺貝】を使えれば良いのだが、そうすると効果範囲内にいる淫獣達も回復してしまうので使えない。

 

「リュネット様! 流石にこれ以上はタダ様も限界です!」


「もう少し、もう少しなんです!! ――っ!? あそこっ!!」


 リュネットさんが指差した方向に、今までとは違った様相の巨大な植物が群生している。

 僕達は急いでそこに駆け込んだ。







「淫獣が襲って来ない?」


 僕達が植物の群生している場所まで辿り着くと、ゴブリンやオーク達が追い掛けて来ない。

 それどころかキョロキョロと辺りを見回して僕達を探している。

 

「ルーキス様の神聖な結界で淫獣達は入るどころか私達の姿も見えないのです」


「なるほど。 でも、何処にルーキス様が?」


「恐らく、この中だと思うのですが……」


 今まで見た巨獣の檻のどの植物と違い、仄かに暖かな光を放つ巨大な植物群。


「確かにここの植物はちょっと発光してますね」


「「え?」」


「え?」


「タダ様、私にはその様な光は見えないのです」


「私もです」


 リュネットさん、ヒルデさんが僕の言葉を否定する。


「でも、僕には光って見えるんですが……」


 どうやら植物が光って見えるのは僕だけのようだ。

 でも、どうして?


『それは、貴方が【看破】のスキルを所持しているからです』


 女性の声で僕のその疑問に答えが返ってくる。


「あ……」


 植物の一部に人一人通れる位の隙間ができ、長い銀髪を腰まで伸ばした美しい女性が現れた。


「ルーキス様!」


「良くぞご無事で!」


 リュネットさんとヒルデさんはその女性の足元に平伏して歓喜の涙を流す。

 この女性がリュネットさん達が探していた女神ルーキス様なのか……


『中にお入りなさい。 話はそれからです』


 僕達は女神ルーキス様に巨大な植物群の中にいざなわれた。

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