第11話 女性を気軽にお茶に誘ってはいけません
それから鍛錬の傍ら【コリコリ壺貝】を食べさせて城の人達を隷属の呪いから解放していく。
場所は僕達がいつも鍛錬に利用する皇城の奥持った所にある中庭。
厨房では人の目が多過ぎるので却下。
誰か見ているか分からないからね。
中庭は近衛騎士隊しか利用しないので他の人間は滅多に来ない場所。
なので僕達以外の人がいれば気配と魔法スキル【探索】で気付く。
後はニオイ対策。
僕がレイヤさんの知り合いのリュネットと言う、とても可愛らしい神官さんに教えてもらって獲得した補助系魔法スキル【浄化】で消臭。
本来【浄化】は、人に取り付いた霊や魔、瘴気などを払うのだけど、空気の浄化も出来て消臭効果もあるそうな。
ホントは霊や魔と言ったモノを見る為の補助系魔法スキル【霊視】が欲しかったのだけど、何故か隠されたモノを見破る技能スキル【看破】が身に付いた。
リュネットさんの話では僕には適正が無いので会得出来ないのだと言う。
「すみません。 私が未熟なばかりに……」
申し訳ないと何度も謝るリュネットさん。
別にリュネットさんが悪いわけではないので謝らなくていいと言うのにそれでも謝り続けるリュネットさん。
それに対して僕はどうしたものかと思案して、テレビ番組で似たようなシチュエーションを思い出した。
わざと断られる内容の話しを持ち出し、その場の気まずい空気をぶち壊して場を和ませる。
話の内容は……お茶に誘うとか、かな?僕の様なチビは女の子に人気ないし、リュネットさん位の可愛い子なら他に意中の相手がいるだろうし。
……自分で考えてて虚しくなって来た。
では逝きます! 骨は誰か拾ってやって下さい!
「じゃあ今度、お茶を御一緒して下さい」
――と、即興で考えた計画を実行に移し、断られるのを承知で言ったのだが。
「いかん、タダ君! その言い方はまずい!」
レッドさんが慌てて止めに入る。
「え?」
そんなに慌ててどうしたんだろう?
「えっ!? あっ! えっ、えと、そ、その……不束者ですが、どうぞよろしくお願いします……」
ほんのり頬染め、軽くお辞儀をしながら答えたリュネットさん。
それにどよめくミハエルさん達。
あれ? 何か反応がおかしい。
「うわっ!? 一発でOKが出たよ!」
「どうするんだ? リュネット様だと国際問題にならんか?」
「何を今更。 それにしても、レイヤ隊長に続いてリュネット様かぁ……まさに勇者だな、タダ!」
「あれ?」
リュネットさんやレッドさん達の反応に困惑する僕。
どうやら、僕はとんでもない失態を犯したらしい。
「タダ君、ちょっとこっちにいらっしゃい」
いつの間にか現れたレイヤさんに僕はそのまま近衛騎士隊長専用の執務室に連行された。
ソファーではなく、執務室に
微笑んでいるのに何故か目が笑ってない。
何だか、ちょっと怖い。 いや、ものすんごく怖い……
「私という者がいながら
私という者がいながらと言う部分の言葉はあえて無視して反論させてもらおう。
誓約書の事ならあれはその場のノリです。
レイヤさんも本気ではないだろう。
「えっ? プロポーズ? 何の事です? 僕はただ、謝り続けるリュネットさんを止める為にダンディーなジョークであの場を和ませようとしただけです。 そもそも、お茶に誘っただけでそんな大袈裟な」
「ああ、なるほど。 文化の違いと言う奴ね。 分かったわ――でもね、タダ君。 タダ君が住んでいた母国ではダンディーなジョークで済ませられたのでしょうけど、ここではれっきとしたプロポーズの言葉になるのよ」
「まさか! 女性をお茶に誘っただけですよ?」
「いい、タダ君? この周辺の地域ではね、お茶は客をもてなすと言う以外に別の意味があるの。 それが異性に対してお茶を一緒に楽しむ場合よ」
ここまで言われればレイヤさんが何を言わんとしているのか分かる。
僕は嫌な予感がして精神的緊張から体が盛大に汗を吹き出し始めた。
「異性とお茶を一緒に楽しむ、と言うのはその相手は心から安心できると言う意味で。 つまりは愛する人を指す――恋人、許嫁、夫のいずれかになるわけね」
「……今から訂正しに行く――と言うのはやっぱり……拙いですよね?」
レイヤさんは微笑みを止め、真剣な顔で答える。
「そうね。 そんな事をすればリュネットに恥をかかせる事になる。 彼女の性格を考えれば最悪の場合、自ら命を断つ事だってありえるわ」
「その場の勢いと言うかノリと言うか……そういうのもありましたから。 冷静になれば彼女の方から断りに来ますよ」
楽観的な僕の言葉にレイヤさんは否定的な意見を述べる。
「だと、良いのだけれど。 ――その可能性は低いわね」
「何故です?」
「彼女は妖精族でも長寿で有名なハイエルフとリトラーと呼ばれる小人族のハーフなの。 エルフの若さとリトラーの背の低さとが相まって幼く見える。 それが貴方のプロポーズに答えた理由でもあるわね」
「どういう事です?」
レイヤさんは眉尻を下げてちょっと困った様な感じの顔で答える。
「彼女はその見た目のせいでお付き合いしてくれる殿方がいらっしゃらないの。 だから恋愛に免疫がないのよ。 彼女に求婚を申し込んだのって、多分……タダ君が初めてだと思うわ」
要するに、彼女は初めて求婚されて嬉しくてついOKしたのか……。
余計に僕の方から断りづらいぞ!
「それにね、タダ君はリュネットの理想の男性でもあるの」
「僕は身長が伸びる将来性がないチビなんですが?」
「それこそが、なのよ。 彼女は見ての通り身長が低いでしょ? だから身長が高い男性は威圧感があって苦手らしいの。 とは言え、リトラーでは身長が低いし、彼女の身長に釣り合うドワーフ族は子供でも髭を生やしているから実年齢よりもずっと年上に見える。 自然、彼女の選択肢は狭まるわ」
そこで一旦話を区切り、ビシッと僕に指差すレイヤさん。
「そこで現れたのが貴方なの。 性格も問題ないし、丁度年齢も釣り合う。 彼女にしてみば千載一遇のチャンス。 この期を逃すはずがない――とは言え、貴方には邪神討伐の
「だと、いいんですけど……」
一抹の不安を残しつつ、レイヤさんからの話しはこれで終わりとなった。
☆
タダこと、
レイヤは自分の屋敷から持参した茶葉で淹れたお茶を飲んで一息ついていた。
「はぁ……まさか、タダ君がリュネットを落とすとわね……。 本当ならレッドに落としてもらうつりだったんだけど……」
レイヤは自分以外に誰もいない執務室で独り
ヘリッジ皇国とはリュネットを通じてサンドリオン帝国の領土を返還する裏取引をした。
だが、ヘリッジ皇国が自分達やこの国に残る民の安全を保証してくれるとは限らない。
場合によっては売国奴である自分達をそれを理由に殺し、国内で略奪が横行するかもしれない。
それを未然に防ぐ要となるのがリュネットなのだ。
リュネットはヘリッジ皇国のシュタインベルク伯爵の一人娘なのだ。
そのシュタインベルク伯爵というのが現女皇の娘で元皇女。
要するにリュネットはヘリッジ皇国の現女皇の孫。
その彼女を籠絡し、彼女を自分達の側に引込み、自分達や民の安全を図る。
これもまたレイヤ達が立てた計画の内の一つだ。
そんな重要人物であるリュネットが何故この国にいるのかと言うと。
ヘリッジ皇国が信仰する妖精教は本来”
だが、サンドリオンの皇太子が事もあろうに自分の国が崇める女神ルーキスを捕縛、拘束して自らの妻にすると他国の使者や大使がいる公式の場で宣言し、前代未聞の事態を引き起こした。
妖精郷に属する神々が彼女を助け出した後、ルーキスは
しかしこのまま妖精族やそれに関わる神々を纏めていたルーキスがいなくなってしまうと妖精族はバラバラとなり、いずれは滅びてしまう。
それを防ぐため、
その時、丁度勇者召喚が神々によって行われ、レイヤの紹介で
「リュネットの性格だとタダ君の求婚を後から断る事はない。 それなら最初から断っているわ。 タダ君には悪いけど、このままリュネットをモノにしてもらいましょう」
レイヤはハイライトが消えた瞳で、ここにはいない幸璃に向かって言う。
「……だけどタダ君、正妻は私だからね」
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