第9話 女の武器
レッドさんはその後直ぐに一人の女性騎士を僕の所に連れて来た。
すっごく、その……何て言うのかな?
胸とお尻が凄く大きいのに腰が凄く細くてくびれてて……そう! ムチムチボディの綺麗なお姉さんだった。
その女性騎士を紹介されて二度ビックリ!
その人はレッドさん達の直属の上司、近衛騎士隊の隊長――レイヤ・ベケットさん。御年?歳だ。
何故、?歳かって?
それは本人が教えてくれなかったのさ!
”女性に年齢を尋ねちゃいけないの。 これは世界共通の真理なの”
とか言われて何とも言えない不雰囲気の圧力を感じた。
そう言えば、その時のレッドさん達の顔が真っ青だったのは何故だろう?
それはともかく。
レイヤさんに”コリコリ壺貝を食べてみたい”とリクエストされたので早速中庭でコリコリ壺貝を焼いて食べたんだけど。
その後、レイヤさんがその場で上半身の服をイキナリ脱いで裸になったのはビックリした!
僕、母親……と、思っていた人の裸すら見た事無いのに、白くて綺麗で見事な形の大きな胸を見ちゃったよ!
興奮しすぎて鼻血を出したくらいだし。
「タダには刺激が強すぎたか?」
ニタニタ笑いながらランディスさんが僕を誂う。
「そ、そんな事は……何で皆さん平気なんですか?」
垂れてくる鼻血を拭いつつ、僕は醜態を誤魔化す為にランディスさんにを質問した。
「俺達騎士や兵隊は訓練や寝食を共にし、命を預け合う仲間だ。 そこに男女の性別は関係ない。 そういう風にして耐性を付けて、軍隊内での男女間のトラブルや性を利用した敵の罠を防ぐんだ。 とは言え、それも完璧じゃねえ。 それでも問題を起こす奴は起こすしな。 それに男女別に部隊を運用すると男女間で差別意識が必ず生まれる。 そこから隊同士の軋轢が生じて連携に支障が出たり、致命的なミスを犯しやすくなる。 あと、金を余計に使ったりして効率が悪くなり過ぎるってのが理由だな」
「なるほど」
確かにそれは言えてる。
異性への耐性を付けていないと僕の様な状態になり、大きな隙きが出来て命取りとなる。
それに戦いの最中、一々異性に気を使っていては疲労が増すばかりだ。
「それも昔の話だけどね」
僕がランディスさんと会話をしている間にレイヤさんは服を着直していた。
ちょっと残念。
「今では格安で傭兵を雇い入れて兵力を維持しようとしているのだけど、そのせいで兵の質が低下してトラブルの種になってるわ。 特に男女間の、ね。 貴方も気を付けて、タダ君」
「はい! 心配して下さりありがうございます!」
「それにしても凄いわね。 話を聞いた時にはまさかと思ったのだけれど。 本当に解呪不可能な呪いを解呪してしまうなんてね。 これは計画を大幅に見直さなきゃイケないわ」
「計画って?」
「それはここではちょっと……私の執務室に来て。 そこでなら盗聴対策もしてるから心配はいらないから。 話の続きはそこでしましょう。 私に付いて来て」
「分かりました」
☆
皇城の中をレイヤさんに付いて歩いて行くと、近衛騎士隊長執務室という所に着いた。
「どうぞ、中に入って」
レイヤさんに促され執務室に入る。
部屋の中は質素で奥の窓側に机と椅子、中央には来客用のテーブルとその左右にソファーが。
壁に備え付けられた本棚と其処に詰め込めれている本、その反対側の壁には茶器が置かれた台が置かれていた。
「そこに座って。お茶でも飲む? 生憎と大したモノでは無いのだけれど」
僕がソファーに座るとレイヤさんにお茶を勧められた。
僕はお茶に詳しくないのお茶の良し悪しなんて分からない。
どうしようか?
飲み物に何かを混入する人には見えないし、話の途中で喉が渇くと嫌だから頼もうかな?
「お願いします」
「分かったわ。 チョット待ってね」
レイヤさんは慣れた手付きで茶器を準備し、魔法スキルで水を容器に淹れお湯を沸かす。
準備していた茶器にお湯を注ぐとお茶の仄かな香りが漂ってきた。
「どうぞ。 熱いから気を付けてね」
琥珀色のお茶が淹れられソーサーに載せられたカップを僕の目前のテーブルに置く。
「はい、ありがとうございます」
レイヤさんは自分の分をテーブルに置いて僕の対面のソファーに座ると、少し間を置いてから話しを切り出した。
「これから話す事は決して他では話さないと誓約を交わして欲しいの」
「誓約?」
「――でなければ、これ以上話す事は出来ないわ。 これは私だけの問題ではなく、この国に住む人々の命にも関わる事だから」
強い意思が込もった翡翠の瞳で僕をじっと見つめるレイヤさん。
何だか大仰に成って来た。
軽い気持ちで付いて来たら、重たい話になっちゃったよ。
伯父や僕の剣術の流派である偉い人に良く言われる言葉がある。
”人には出来る事と出来ない事がある。 出来ない事を引き受けては、それに関わる者が迷惑する。 そんな時は迷わず断れ”、と。
その言葉からすると、これは僕の手に負えそうにない内容だ。
だから、ちゃんと断ろう。
僕は断る決心をして、レイヤさんにその旨を伝えるべく話を切り出す。
「申し訳ないのですが、断ら――」
「――もし、私達に協力してくれるなら、成功報酬として私は貴方に身も心も捧げましょう」
「分かりました! 御協力しましょう!――ハッ!?」
しまった! ついレイヤさんが持つ大人の色香に惑わさてしまった!
話を聞くだけの筈だったのに、いつの間にか何かの協力要請の話にすり替えられてしまった。 早く訂正しなければ!
「あ、えっと……今のは無し――」
「勇者に――男に二言は無い。 そうでしょう? タダ君」
レイヤさんはニコッと微笑んで僕の言葉を遮った。
これは……嵌められた!?
己が持つ女性の武器。 その美貌と魅惑的な体を最大限に利用して異性を罠に嵌める。
何て恐ろしい人なんだ!
「やってくれましたね。 レイヤさん……」
僕は恨みがましい目で精一杯レイヤさんを睨む。
「うふふっ、何の事かしら? ――でも、私は真剣よ。 それに約束を違える事はしないわ。 もちろん、この約束も誓約に盛り込むから安心して」
「さっきから、誓約誓約って言いますけど、誓約って一体何なんですか?」
僕はこの世界の住人ではない。
この世界では常識なのかもしれないけど、この世界に来て間もない僕に言われてもサッパリだ。
「商業と誓約を司る神を奉じる神殿が発行する誓約書があるの。 その誓約書にお互いの約束事を書いて誓いを立てるわ。 もし、誓約に違反すれば誓約書の内容に沿って神罰が発動する。 一番厳しいモノでは、相手の一番大事なものを差し出させるか、相手の命で償わせる事ね」
それは今の日本にも似た様なものが存在する商取引に於いて良く使われる契約方法の一つで神誓書という物だ。
ただし、日本のものは一番低級で効力が低いものでも一枚十万円と決して安くはない。
そんな物を持ち出すのだ。
相手の本気度が伺える。
「分かりました。 ……でも、飽く迄も僕が出来る範囲で、ですからね!」
”飽く迄も僕が出来る範囲”を強調する。
これは予防線というよりも負け惜しみだ。
正直、ここまで来ると僕ではこの盤面をひっくり返す手立てが考えつかないのだ。
くそっ! とても悔しい!
「悔しそうにしている割に、また鼻血が垂れているわよ」
レイヤさんは困った子供を見る様な目で僕を見る。
だって仕方なじゃないか! レイヤさんが身も心も捧げるっていうから、思春期男子特有の妄想をしてしまうでしょ!
☆
――その後、僕は手持ちのティッシュを鼻に詰めて、レイヤさんと誓約書を書いた。
その際、垂れた鼻血が誓約書に付いて誓約の効力が発動したのはご愛嬌だ。
ちなみに、名前の署名は本名だろうが偽名だろうが関係ない。
”本人が書いた”――この事実が大事なのだそうだ。
そうして僕はレイヤさんからこの国の事情を聞く事になる。
八年前に起こった皇帝と皇太子による不祥事から始まるサンドリア帝国の衰退。
たった一人の女傭兵に壊滅させられた国軍。
国が信仰する筈の
女神の怒りの制裁による著しい国民の能力低下。
終いには皇帝の臣下や貴族達主要人物に対する不信感からの裏切り対策のための隷属の呪いの行使。
「それで、計画というのは何なんですか?」
「他の国――ヘリッジ皇国に協力要請してこの国を明け渡す。 元々、このサンドリオン帝国はヘリッジ皇国の領土だったし。 とは言っても、ヘリッジ皇国は今はミリタリア王国と魔国に挟まれて身動きが取れない状態なのだけど。 そこで私達が協力すればその二国を始め他国に気づかれずに表向きはサンドリオン帝国のままで、裏では秘密裏にヘリッジ皇国に領土を返還出来るわ」
「それでも気付く国はあると思うんです。 それに気付いた国は動くんじゃないですか?」
「今この国では邪神討伐のため、神々がトゥーレシアから召喚した貴方達勇者がいるわ。 もしこの国に手を出そうものなら、サンドリオン帝国の二の舞になるどころか、この世界に
「なるほど。 すみません、話の腰を折ってしまって。 続きをお願いします」
「――以前の我々の計画ではその際、皇帝の捕縛と宮廷魔術師長であるナハトラの殺害を行うつもりだったの。 ナハトラに隷属の呪いみたいなスキルを使われると厄介だから。 皇帝は捕縛後、石化の呪いを掛けて誰も寄り付かない場所に安置する。 これなら皇帝は死なないし、私達の隷属の呪いが解けなくても普通に過ごせるわ。 でも、この方法を実行するにはかなりの危険を伴うの。 けれど、タダ君が隷属の呪いを解呪してくれるなら、この作戦を実行する必要がなくなるから危険を冒さなくて済むわ」
「分かりました。 要するに僕は【コリコリ壺貝】を提供してその隷属の呪いとやらを解けば良いんですね?」
「そうよ。 隷属の呪いに掛けられた者は主の命令には絶対に逆らえなくなる。 でもこの呪いは主が死んだ場合、誰の命令でも受けてしまうという厄介な代物で、呪いを掛けた本人ですら解呪――呪いが解けないの。 解く方法は一つだけ――死ぬしか無いわ」
本当に質が悪い。
考えた人間の性格が
「レイヤさんは今まで隷属の呪いで命令された事とかってあるんですか?」
本来なら聞くべきでない質問だろう。
でも、何れ知る事になる。
なら今の段階で知っておきたい。
皇帝や魔術師長ナハトラの非道な行いを知る事でレイヤさん達に協力する僕のモチベーションを維持するために。
「そんな事したら、隷属の呪いに連動させて掛けた自爆の呪いが発動して死にぬって言って脅しておいたから。 そうそう酷い命令はされなかったわ。 ――私はね」
何処か悲しげな目で答えたレイヤさん。
逆に言えば、誰かが呪いの犠牲になったのだろう。
当然と言えば当然の答えだ。
そのために魔術師長のナハトラは隷属の呪いを臣下に掛けたのだから。
「協力のお礼をしておくわね」
そう言うとレイヤさんは僕の額にキスしてくれた。
その時、レイヤさんの胸の大きな膨らみが目の前に迫って、それに興奮した僕はまた鼻血が垂れてしまった。
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