第8話 隷属の呪い
『ありがとーーっ!! ありがとーーっ!!』
「いえ、喜んで頂けて光栄です。 それより、声を落として下さい。 何処で皇帝や魔術師長の手の者が聞き耳を立てているか分かりませんので」
「そうですね! メイド達、嬉しいのは分かるけど静かに! 泣くのは他の場所で! バレたら全てが台無しになりますよ!」
『はいっ! メイド長!』
【コリコリ壺貝】を食べたメイドさん達が涙ながらに僕の手を握りしめ、お礼を言って来る。
女の人の手って柔らかいんだよね。 初めて知った!
それにしても皇帝やナハトラは許せないな!
サンドリオン皇帝は魔術師長のナハトラに命じて、自分達の言う事を無理矢理きかせる為に皇城で働く人達や家臣に対して魔法スキル【呪術】を使って隷属の呪いとか言うのを掛けていたのだ。
僕がこの事を知る発端となったのは、【コリコリ壺貝】を皆で焼いて食べた翌日、再び復活した【コリコリ壺貝】を鍛錬をする場所である中庭にレッドさん、ミハエルさん、ダニエルさん、ランディスさんの四人に見せに行った時だ。
☆
「まさか、そんな能力があるとは……」
「ビックリだぜ!」
「もしかしたら、死人も生き返るのかな?」
「まさか。 でも、コレを食べたら体の調子が良くなったのは確かだ」
「案外、呪いも解けちゃったりして?」
「ハハハ、まさか~」
「「「「……」」」」
四人の会話が途切れ、黙り込んだと思ったら上着を捲って何かを確かめる様に自分やお互いの胸を確認しだした。
(レッドさん達、何やってるんだ? 服を捲ってお互いに胸を見せあって。 まさか……乳首の大きさを見せ合いっこしてるのか!? もしかして四人共、実はおホモダチ、とか? だとしたら、すっ飛んで逃げなきゃ!!)
幸璃は四人の行動にあらぬ誤解をしてしまった。
「……おい、あるか?」
レッドは自身の胸を見せて三人に問う。
「いえ、無いですね」
「私も……」
「お、俺のも消えてるぜ……」
ダニエル、ミハエル、ランディスが順に答える。
四人はチラッと幸璃の方を見ると円陣を組んでボソボソ小声で話し始めた。
「おい、どう思う?」
「確実にアレでしょうね。 タダのスキルで生まれた【コリコリ壺貝】……それしか考えられません」
「あの隷属の呪いって、掛けた術者本人すら解けないんだよね?」
「ああ、死ななきゃ開放されねぇし、主人である皇帝が死んだら誰彼構わず、どんな命令でも聞かなきゃいけなくなるってあの爺、嫌な顔で自慢気に話してたからな。 もしそうなったら、俺達は誰も居ない場所で一人孤独に生きて行くしかなくなる。 タチが悪いったらねぇぜ!」
何を言ってるか幸璃の所まで聞こえて来ないので分からないが重要な事を話してる様だと幸璃は思った。
(まさか……僕を四人掛かりで手篭めにする相談かっ!? )
幸璃は貞操の危機感からいつでも逃げ出せる様、四人から距離を取リ始める。
一方、幸璃から少し離れた所で円陣を組んでいる四人――レッドはじっくり三人を見回してから言う。
「しかし、呪いの証である痣が消えた。 つまり呪いから開放されたという訳だ。 と、言う事は――」
「「「「我々は自由だっ!!!!」」」」
ビクッ!?
幸璃は四人の大声に体がビクつき驚いた。
(これはもう、レッドさん含めて四人共おホモダチ確定だ! に、逃げなきゃ……襲われる前に、何としてでも逃げなきゃ! でないと、お婿に行けなくなっちゃう!)
幸璃は気付かれない様、ジリジリと四人から距離を取る。
「ハハハッ! まさか、こんな奇跡が起きるなんて!」
「さすが勇者様だ! 我々に生きる希望を与えてくれた!」
「ウォ~ン! 僕、婚約者のルイーザと普通に暮らせるんだよね? 一緒に暮らせるんだよね?」
「泣くな、ダニエル! 死亡フラグが立っちまうぞ!」
四人が円陣を解いて狂った様に大声で騒いでる。
そして四人の視線が幸璃に集まる。
四人は魔術師長のナハトラに掛けられた隷属の呪いが解けた嬉しさの余り幸璃の下に走り寄ろうとして――
「お、襲われる~~~っ!!!!」
幸璃は文字通りすっ飛んで逃げた。
「「「「ん?」」」」
四人は首を傾げる。
「……タダ君は一体どうしたと言うんだ?」
「さあ?」
「もしかして……」
「ダニエル、どうした?」
ダニエルは自分達の上半身を指差す。
皆、服を捲って胸を曝け出している。
「「「……なるほど!」」」
レッド、ミハエル、ランディスはそこでようやく思い至り、”ポンッ!”と一つ手を叩く。
「イカン! タダ君は我々をその手の人種と勘違いしているぞ!」
「誤解を正さなくては!」
「早く追い掛けようぜ!」
「タダ君! 僕と副長は違うからね!
「「おいっ!?」」
その後、レッド達は逃げる幸璃を苦労して捕え、何とか誤解を解いたのだった。
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