第2話 知らない名前
「名前が違う……」
いや、後ろに名前が書いてあるのか?
でも、カッコで閉じられてる。
しかも、カッコの中には僕の嫌いなアダ名、ウ○コが書いてあるぞ。
このアダ名を付けたのは何を隠そう僕の父親だ。
本当は名前をウ○コにしたかったらしいが、”これは人の名前ではない。
余りにも酷すぎる”と言う理由から市役所の係の人が受理しなかったそうだ。
それでその場で適当に当て字で
ありがとう! 市役所の係の人! ちゃんと仕事してくれて!
にしても、この
「なんだよ、この名前!?
えっ!?
先程、ここにいる皆の意思を無視して勝手に邪神討伐をやる事に決めた少年が叫ぶ。
舘梨・運幸って、それに霧島 幸璃?
僕と名前が逆なのか?
一体どういう事だろう?
『ふむ……どれ、見せてみなさい。 ほう、アレキサンドライトとは! これは凄い! それに特殊スキルを持っているのか!』
「何が凄いんだよ?」
『アレキサンドライトはランクSSS、強さで言えば人の中で最上位に位置する。 これより上は神の領域なのじゃよ』
「へへっ、当然よ!」
『それと名前じゃが。 本名が先に来て、後ろのカッコで閉じられた中に刻まれておるのは別称。 世に言うアダ名じゃな。 つまり、
「ふざけんなっ! オレの名前は
『儂に言われてもな。 これは生まれた時に名付けられた正式な名前。 どうやっても変えようがない。 諦めるのじゃな』
「そ、そんな……クソッ!!」
さっきの話からすると、僕が生まれた時に付けられた正式な名前は霧島・幸璃。
そうすると、僕は舘梨・運幸と言う人間じゃなく、霧島・幸璃と言う事になる。
これって、もしかして僕と彼が入れ替わっているという事?
しかし、どれだけ考えても答えは出なかった。
『おい、そこの坊主! お主で最後じゃ。 スキルカードを見せなさい』
金の刺繍の縁取りがされた白いローブに丸眼鏡を掛けている僕と同じ位の身長のお爺さん。
どうやらこの人がナハトラさんの様だ。
いつの間にか全員終わってる。
え~と、どうしよう……。
このままだと、僕の名前が彼にバレてしまう。そうなったら不味い気がする……。
何となくだけど、彼には僕の事を知られない方がいい。
どうする?
『ええい! 後の予定がつかえておるのだ! 早く見せよ!』
「はい……」
僕は咄嗟に名前の欄を指で隠して目の前にいる宮廷魔術師長のお爺さん、ナハトラさんに見せた。
『どれどれ……何じゃお主、アンモライトか! アンモライトはランクAじゃ! この中では一番ランクが低いぞ!』
スキルカードをちゃんと確認もせずにスキルカードから直ぐに視線を逸して僕を見る。
お爺さんは眉間に皺を寄せて僕を汚らわしい物でも見るように睨みつけた後、僕に興味をなくしてサッサッと壇上の方に戻って行った。
『流石は神々に選ばれた勇者じゃ! 一人を除いて、Sクラス以上のスキルカードを所持しておる! 一人を覗いての!』
その一人とは僕なんだろうけど、態々二回も言って強調しなくてもいいじゃないか……。
この爺様、絶対性格悪いよ!
『勇者達よ! そなた達には各々に自室を用意した。 案内人の指示に従って付いて行ってくれ。 その後は細やかじゃが宴の準備もしておる。 そこで我がサンドリオン帝国の皇帝陛下と謁見してもらう予定じゃ。 その時は粗相のないようにお願いする!』
☆
「あの~、ここなんですか?」
『ここです』
「間違いじゃ、ないんですか?」
『間違いではありません』
冷めた目で僕を見るローブを着た案内人。
頭に響く言葉と服装からしてあの爺様の部下なんだろう。
その部下に僕が案内された場所。
そこは何処からどう見ても中庭。
その隅っこ。
最早、建物どころか部屋すらねぇーーー!!!!
「どっ、どういう事ですか!」
『貴方様は勇者の中でも最弱。 故に鍛錬の時だけでなく、普段の生活でも常に鍛えて頂く事になりました。 これは宮廷魔術師長ナハトラ様の指示です』
爺様、僕を何だと思ってる。
これじゃあ、邪神討伐までに僕が死んじゃうよ!
『ああ、それと貴方は今日の晩餐会に出席しなくて宜しそうです。 そうそう、食事は自力で調達して下さい。 ただし、城から出るのは厳禁です。 後、そこの井戸はご自由にお使い下さい。 では、失礼します』
蔑みの目で僕を見ていたぞ、アイツ。
それより住所と食料どうしよう……。
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