第37話 買い物 裏その①

 目の前で、さつきさんと少年と少女が合流した。

 楽しそうに話しかけ――やがて、アウトレット内へ歩き始めます。

 私達も移動しなければ。

 帽子を被り、安物のサングラスをかけている御二人へ声をかけます。

 

「動き出しましたね。行きましょう」

「そうですね」

「……あ、あのさ。やっぱり、こういうことは良くない、んじゃないかな?」

「なら、琴さんはお帰りください。ただし、中ノ瀬君に何かあっても教えません」

「!」

「琴ちゃん、恋は戦争なの。脱落した人はもう二度と……悲しいけれど」

「!!」

「それじゃ、透子さん」

「ええ、ねねちゃん」

「………私も」

「「んー?」」

「わ、私も行きますっ」

「琴さん、声が大きいです。バレた時の流れは分かってますね?」

「え? う、うん。透子さんを犠牲に、私達は戦略的後退だよね。大丈夫!」 

「……御二人共、少しお話があります……」


 倉さんがジト目で私達を睨んできます。

 当然の判断だと思いますが? 

 何しろその恰好――白ワンピース。そして、白い帽子とサングラス。しかも日傘まで!――では、逃げ切れませんし。

 サングラスをかけてれば変装している、だなんて何時の時代の人ですか。

 とにかく。


「中ノ瀬君達を追いかけますよ。出来る限り、慎重に」 


※※※


 ――さつきさんがナオさんと約束をしたらしい。

 しかも、どうやらそれは、デ、デートに類するものである、という情報が、透子さんよりもたらされたのは昨日の晩のことでした。

 即座に、さつきさんを除いたメンバーがゲーム内の会議室へ集合。

 すなわち――私=ミネット、琴さん=フジさん、透子さん=倉さん。そして、撫子さんです。


【で、確かな情報なんですか?】 

【確かも確か。絶対、確実だ! 行き場所も分かってる。ほら、そっち方面にあるアウトレット! 間違いねぇ!!】

【えーっと、どうして分かるんですか? ナオはそういうことバラさないと思うけど】

【それは……だ。さつきの奴、一昨日あたりから雑誌を読んでるんだな、これが。普段、そういう雑誌なんか読まないのに。で、時折、思い出して笑って、携帯を見てやがる】

【えーっと……】

【なるほど、そういうことですか】

【そうだぜ! これは、ナオの危機だっ!! 俺達にはあいつを救う責務があるっ!!!】

【賛成です。これは、見過ごすわけにはいきません】

【えー……さ、流石にバレたら、すっごい怒ると思うんだけど……。あれで、そういうとこは真面目な奴だし】

【では、フジさんは不参加ですね。倉さんは?】

【行くに決まってるだろ?】

【ふ……流石です。撫子さんはどうされますか?】

【え? わ、私ですか?? 私は……】


 撫子さんがわたわたと動きます。ふむ。

 ……危険な兆候ですね。

 ここはやはり


「お姉ちゃん? 何してるの??」

「! な、なな。どうかしましたか?」

「お風呂、空いたよ。入れば?」 

「あ、ありがとう。もう少ししたら入ります」


 さりげなく画面を隠します。

 妹ながらこの子、リアルの中ノ瀬君にも懐いてますし、ナオさんにも懐いています。つまり……中ノ瀬直君=ナオさん、ということを知ったら、それこそ歯止めがきかなくなるのは目に見えているんですっ! 

 ……よくありません。とてもよくありません。

 というか、不公平です! 私だってまだ、特定されていないのに、妹が先だなんてっ。この世の中には順番というものがあるのですから。

 自分のベッドへなながダイブしたのを確認し、画面へ向き直ります。


【私は行きません。ナオさんとさつきの邪魔になるかもしれませんし……】

【ま、無理強いはしねーよ。んじゃ、参加メンバーは俺とミネットとフジな。後で、携帯に詳細情報を送るわ】

【はーい】

【よろしくお願いします。あ、倉さん】

【あん?】

【……当日、以前のような目立つ格好はやめてくださいね?】

【はぁ!? 別に目立ってなかったろうが】

【芸能人かと思いました】【目立ってたわね】【アハハ……目立ってましたよ?】

【っぐ! 分かった。出来る限り控えめでいく。た・だ・し!】

【ただし?】

【……ナオと会うかもしれねぇから、多少はお洒落する。んじゃな】


 そう言い捨て、倉さんはログアウト。他の方も今晩は何もせず、落ちるようです。私も、ミネットをログアウトさせます。

 不安です。あの人、あれで御嬢様なので何を着ても似合うんですよね。

 ……ですが、確かにそうです。

 ナオさんと遭遇する可能性は零ではありません。むしろ、倉さんがいる以上、何かしらある可能性の方が高いでしょう。

 立ち上がり、おもむろにクローゼットを開けます。


「? お姉ちゃん、どうしたの??」

「いえ、ちょっと、寝間着を」

「? 普段、そんなの着ないよね???」

「……偶にはです」

「? 変なお姉ちゃん」


 ななに返答しつつ、服を確認します。

 目立っては駄目です。

 いざという時、人混みに紛れられて、かつ、ナオさんに見られても変と思われないような……難題です。これは難題ですっ。

 明日にでも、琴さんと打ち合わせすることにしましょう。どうせ、倉さんは目立つ格好で来るので、バレた場合は盾になってもらわないと。 


 ――私は、その時、何だかんだ浮かれていたのだと思います。

 転校してきて、友人、と呼べる人と遊ぶことも多くはなかったですし、何より中ノ瀬君と週末会うかもしれない、というイベントが私の冷静な頭脳を鈍らせていました。だって、変な服を見られるわけにはいきませんしっ!

 だから、気が付かなかったんです。

 

 ――私の妹、宮ノ木なながベッドで横になりつつも、そんな私をじっと観察していたことに。

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