第29話 VS冥竜アポピス➈

 『剣魔物語Ⅱ』には、多くのRPGの御多分にも漏れず『竜』が最強級の敵として存在している。

 中でも大型のそれ(アポピスみたいな)は、数ある魔物達随一のHPと攻撃力、そして前方範囲攻撃である凶悪なブレス、広範囲攻撃である全体魔法、その他諸々が合わさり、とんでもない相手になっている。

 まぁ、それでも倒すのが廃神さん達なのだけれど……如何な彼、彼女達とはいえ、限界はある。

 何せ、竜には厄介な特性が


【アタッカー班、マラソン班から雑魚敵の一部を回収。技ポイントを溜めてください。アポピスへは迂闊に近寄らず、終盤までは特殊技のみ。無暗やたらに殴ると連続で色々してきます。雑魚敵を抜く時引っかけて死ぬ、もしくは総ダメで最下位だった場合、オフ会には呼びません。それでも来たいというなら、倉さんとエヴァさんに勝ってもらいますので、あしからず】


 ミネットさんが撫子さんの激を受けて、早速指示を飛ばしている。

 打つのが速い……後半部分が……。


【ひ、酷い。酷過ぎる。俺達のことを何だと思ってるんだー】

【そーだそーだ】

【オフ会行きたいです~。でも、あたし……北海道……】

【俺、九州……】

【関西からでも参加します! ま、社会人だし? なので、土日に】

【軍曹殿! 本官は絶対忠誠を誓っております。……是非是非、参加許可をですね。女子高校生と女子大生。ぐへへ】

【! 異端者だっ! ここに異端者がいるぞっ! 侍と同じく、非恋愛同盟からの脱退を試みる輩がっ!!!】

【ふっはっはっ。俺は、俺は……この夏、大人になる】

【つまらぬいさかいよのぉ】

【仮想彼女にはまってる自称侍は黙ってろ】

【俺はまだ疑ってる】

【あ、ボクも】

【き、貴殿ら……】


 楽しく会話しつつも、淡々と雑魚敵を釣り技ポイントを溜めていく廃神さん達、当然、誰も死なない。怖い。

 その間も、アポピスからの攻撃は続いている。んーと、KY君の発言からして……。


【皐月さん、雨月さん、リリさん、撫子さんの回復に専念を! 僕はKY君を管理します! おそらく彼女が死んだら負けです! HPMP回復剤、足らない場合、バザーしたので使ってください! あ、倉はなしな。さっき散々奪っていったし】

【ナオっ、ひでぇぇぇ】

【了解です!】

【陰陽師の力を見せる時がっ!】

【踊り子の力も見せる時がっ!】

【ナオ印の薬品!!】

【使えば、女の子にモテるという伝説の……】

【※ただし、ゲーム内限る】

【それでも、それでもっ……構わないっ!】

【某も】

【あ?】

【はぁ?】

【もらうわ】

【ナオっち、もらうね~♪】

【ナオ君、ありがと!】

【わ~い! 念願の先輩印の薬品☆】


 次々と薬品がはけていく。

 皆さん……まだ、手持ちありますよね?

 いやまぁ、いいんですけど。


『……ナオさん、私にだけ指示なしとは、いい度胸です……それと、勝手に薬品をばらまかないっ! 市場を暴落させる気ですかっ!』

『大袈裟な。ミネットさんには全般指揮を。ここから、先は』


 途中でチャットを止め、棒立ち状態のKY君へ回復魔法を飛ばす。この人、防御力が下がり過ぎっ! 油断したら……やばい。


『余裕ないです、よろしく』


 回復に専念する。

 少しずつアポピスの攻撃が激しくなっていく。竜の特性――暴走だ。

 最大限まで高まってしまうと、如何な撫子さんといえど、長くはもたない。早めに決着をつけないと。

 とっておきのMP大回復薬も既に三本目。市場価格はこれだけで……考えたくない。一戦に使うような薬品じゃないんだけどなぁ。

 ミネットさんが激を飛ばす。

 

【アタッカー陣! エヴァさん、倉さん、ライラさんの三人が、全体の四割強を占めてますよっ! 男性陣、少しは頑張ってくださいっ! こんな蜥蜴の一匹や二匹、とっとと片付けるように。私には、この後白い小人を廃教会で尋問―—折檻――拷問するという大事な仕事が待っているんです】 

【ひぃ】

【す、救いがない!】

【いやでも】

【なんか、あの白さんモテるし? つまり、異端中の異端だし??】

【ナオっちは、モテるもんねー】


 男性陣からの援護がない、酷い。ギークさんは沈黙してるし、フジさんなんか皮肉? だ。うぅ。

 終わったら転移して引き籠ろう。そうしよう。普段通りの生活に戻るんだ!

 ――アポピスのHPは残り三割。 

 ただ、今までの経験則からすると、これ以降は更に激しい暴走モード。つまり、長期戦になれば、即敗北。

 というか、KY君が死ぬ。

 MP重視+回復魔法を強化しまくっているナオですら、ギリギリなのだ。これ、普通の後衛で攻略するには骨だろうな。今時、白魔を上げている人も少ないだろうし――アポピスの瞳が真紅に染まった。始まった。高速でチャット。


【エヴァさん!】

【分かってるっ! アタッカー陣、『後先考えず、全力で攻撃だ!!』 死んだら、骨だけは拾うわっ! 装備を剥いだ後でねっ!!】


 前衛アタッカー陣が【wwww】【こ、ここにも鬼がっ!】【撫子の御大から、タゲを奪い取って死ぬなら本望!!!】【はんっ! お前なんか御呼びじゃねーんだよっ! 総ダメ一位は俺のもんだぁぁぁぁ】……いや、ほんと楽しそうで。

 ダメのログは、情報量カットの為、きっているので分からないけれど、あっと言う間にHPが削れていく。同時に、タゲを取った前衛は次々と粉砕される。蘇生はなし。どうせ間に合わない。エヴァさんや倉は意外なことにタゲを取らない。最後まで生き残る気か……そこまでして一番になりたいと。

 

 後少し……ほんの微か!


 アポピスが、ブレスを吐き出す。前衛が薙ぎ払われ倒れる。あ、ライラさんとギークさんが仲良くリタイア。

 撫子さん、エヴァさん、倉、のHPも赤字に。黒魔PTから、魔法が突き刺さるも。レジスト! どうやら、魔法耐性か。

 突如ミネットさんが、歌を切り替えた。装備も廃前衛仕様。薬品をあおり、技ポイントを溜め――


【とっととっ、堕ちなさいっ!!!!!】


 片手剣をアポピスへ突き立てる。最後の1mmが削れた。

 絶叫しながら、光になって冥竜が消えていく。うへぇ。

 だけど――思わず、画面前で拳を握りしめる。よしっ! よーしっ!

 最後は正直どうかと……歓声のログが無数に流れる中、ムービーが開始。

 けれど、それを楽しむ間もなく


『ナオさん、終わったら廃教会裏です!』 

『ナオさん、ありがとうございました。…………でも、最後まで私を守ってほしかったです』


 廃神さん達からのチャット。ムードも何もない。

 溜め息をつき、入力しようとすると携帯が鳴った。誰だろう? 律、そんな顔をされても僕も分からないよ


「はい、もしもし」

「直さん! 総ダメ一位だったらっ、デート」


 無言できる。ったく。

 ……これ一応、世界初クリアの快挙なんだけどなぁ。少しは余韻にひたらして!

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