第25話 VS冥竜アポピス➄

 ミネットさんや倉とチャットをしていたら、あっと言う間に20時。

 ミッション参加者は一人の遅刻者もなく、廃教会へ集合していた。

 中核メンバーはこちらで編成しておいてなんだけれど……め、面子がヤバイ。

 そのほとんどが、所謂『廃神』さんか、そこに片足を突っ込んでいる。怖い怖い。ナオみたいな、一般白魔はここにいるのは場違いも良いとこだ。とっとと、倒して、日常に戻らないとっ!


『……ナオさんは無駄に顔が広いですね。小人族なのに。SNSで話題になってますよ? 何の集まりだって』

『小人族、関係ないと思います。あと、ミネットさんだってかなり声をかけたのでは?』

『あーいえば、こーいう。まったく、やれやれですね。私達にはとっととボスを倒して試験後のオフ会会場及び日取りを決定する、という極めて重大なミッションが待っています。分かっていますね? 敗北は許されません!』

『このメンバーで負けたら、当分はちょっと無理ですよ。数で押しにくい相手ですし……情報が出るのを待つしかなくなります』

『はぁ……ほんと、分かってませんねっ! そーいう事を言ってるんじゃありませんっ! 『盾』PTの編成に注目すべきなんです』

『編成に? 撫子さんが唯一のメイン盾さんですから、死守しないとですね……つまり、僕等の責任は重大……』

『ちーがーいーまーすー。そーじゃありませーん』

『はぁ……』


 訳が分からない。今回の編成は、通常と違ってメイン盾は撫子さんが一人だけ。残りは、盾1後衛5という極端なもの。その分、前衛アタッカーを増やすと同時に、各PTの後衛も削り、各アタッカーを増員。火力重視も大概だ。

 これは、メイン盾PTに集められた変……おっほん。ナオを除く神がかり的な技量を持つ後衛陣と、各PTに残されたこれまた歴戦の後衛プレイヤー達ならば、全体を殺すことなく、アポピスを倒しきるまでは戦線を維持出来るという判断から決定されている。

 勿論、それを実現する為に大量の薬品類が供給されていて、HP・MP回復薬は当然。普段はコスパが悪すぎて中々、競売にも供給されない各状態異常回復薬すらも各プレイヤーに配布済み。前衛アタッカー陣は、短期ステータス増強剤まで渡された。

 けれど、万が一、撫子さんが短期間で倒れてしまうと……全体の作戦案そのものが崩壊。おそらく、じり貧で敗北する。

 それ故に、メイン盾PTの後衛陣はミネットさんを筆頭に、腕利きを揃えた。これで、同志! がいてくれれば完璧だったんだけど。


『まだ、分からないんですか? 困ったナオさんですね。答えは――私とナオさんが一緒のPT! ということです。私達二人が一緒だった場合、今まで負けたことはありません。いこーる、今回も必勝です。もう一度、言います。敗北は許されません。不敗神話は継続してこそ価値があるんですっ』

『…………昔、従姉の家でやった古い野球ゲームを思い出しました。九回裏ノーアウト満塁で、相手打者は三冠王。こちらの投手は絶不調』

『なーおさん? ~神話崩壊の話をしているんじゃありませんっ。縁起でもないっ』

『ええ……』


 そうこうしている内に、編成が始まった。

 メイン盾PTのリーダーは……あ、あれ? 僕なのか。何でだ。

 戸惑いつつ、メンバーを誘っていく。


「ナオさん、今日はよろしくお願いします」

「撫子さん、大丈夫です。全力で御守りします」

「……はい。頼りにしています♪」


 撫子さんは今日もいい人だ。何とか勝たせてあげたい。

 その後も、次々と誘っていく。

 皐月さんは白魔。雨月さんは陰陽師。リリさんは踊り子。

 あ、あれ? ミネットさんが入ってくれないな。


『ミネットさーん。誘いましたよー』

『ぷい。私を一番に誘わないナオさんなんか知りません。撫子さんから誘われましたね? どーしてですかっ! そこは、付き合いが最も古い私からの筈ですっ』

『あー……言わないと?』

『理由があるんですか? なら、言わないとダメです。じゃないと、がおーです』


 思わず画面から目を放し、天井を見る。隣にいる律は不思議そうな顔。

 あんまし、これ教えたくないんだよなぁ。次回以降、絶対調子にのるし。第一、自分のゲン担ぎを他人にわざわざ教えるのって、何だかねぇ?

 だけど、他PTの編成はもう終了。編成は最終段階。

 折角、みんな集まってくれたのだから、仮にも主催者の一人が遅らすのは寝覚めが悪い。

 意を決して、打ち込む。


『……内緒ですよ?』

『はい』

『普段は順番なんか気にしないんですけど、ここぞ! っていう場面があるじゃないですか、こういうゲームだと。そういう時、ミネットさんと一緒で、僕がリーダーの時は、最後に誘ってるんです』

『ほーほー。その理由は?』

『PTメンバーを今まで一人も殺してないからです』


 即座にミネットさんが入ってきた。


「よろしくお願いします。すいません、少し席を外していました。ナオさんがリーダーですか……不吉ですね。あと、女子しかいないのは作為の香りがします。終わったら、弾劾裁判が必要では?」

「御無体な。偶々、腕利きさんに声をかけていったら、こうなっただけですっ。改めましてよろしくです。今日は勝ちましょう!」

「勝ちましょう!」

「はいっ!」

「腕利き陰陽師はここにいるぞー」

「腕利きでエロイ踊り子もここにいるぞー。あ、ナオさん、フレ登録してほしいですっ! 後、オフ会参加希望!!」

「オフ会参加は私の許可を取って下さい」


 うん、雰囲気は悪くない。

 一度の敗北で心折られるような、軟い人達じゃなくて幸いだ。


『不敗神話を継続させますよ! 死にそうになったら、殺してでも生かしてくださいねっ!!』


 まぁ……若干張り切り過ぎな詩人様が不安だけれども、良い方向へ転ぶことを期待しよう。さぁ、いよいと期末試験前の大勝負だ!

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