第24話 見学者

 週末、前回と同じく古都の廃教会へナオを向かわせる。

 時間はまだ19時。集合は20時だから、ちょっと早いけれど、誰かしらいるだろうし、時間は潰せる筈。いきなり公開決闘沙汰になる事もないだろうし。

 

 ……この数日、中々大変だったのだ。


 どうやら、あの長銃士とのPVPは録画されていたらしく、プレイヤーネームこそ消されているものの、複数の動画がSNS上で公開。

 結果――色々な人達から挑戦状が送られてきた。

 PVPを専門にやっているプレイヤーさん達は、あれで、大型ボスを専門に狩る廃神さん達と違う方向に突き抜けている。『俺より強い奴に、会いに行く』と素でやってのけるのだ。

 まぁ全部、倉へ回して事なきを得たけれども。なお、全勝だった模様。怖い。

 ゲーム中の態度もお淑やかならなぁ……残念。


『ナーオ、また勝ったぜー。これで、何人目だっけなぁ? あーあ、可愛らしい俺様に、こんな事をさせるなんて……そろそろお仕置きが必要か? ん? また、俺と一緒に全国行きたいのか?』

『引き受けてくれたのは助かった。ありがとう、倉。ほんと感謝してる。が、全国は断るっ! あんな変態しかいない大会、誰が行くかっ』

『お前もその変態の一人だったんだが?』

『あーあー聞こえなーい。ま、今日は頼む。お前の瞬間火力が必要になると思う』

『ししし。しっかたねぇなぁ。駄賃として――試験終わったら、遊園地に行こうぜ。勿論、現実でな』

『…………考えとく』


 はぁ。油断も隙もない。

 ただ、二人きりは……少し想像してげんなりする。どう考えても釣り合っていない。あれで、倉は完全無欠の御嬢様で、綺麗なのだ。誰かを巻き込まねば。むしろ、オフ会をそれに? ハードル高いか。

 遊園地かぁ。妹がこの前から『兄さん、試験終わったら何処か連れてってください』と言ってたな。下見がてら、誘ってみようか。

 最近、厳しいから断られるかもしれないけれども。昔は、あんなに可愛かったのに。ちょっと、悲しい。


「――何、項垂れてるんですか?」

「!」


 突然、後ろから声をかけられて思わず身体が、びくっ、とする。

 後ろを振り返ると、不思議そうな表情でこちらを見ている妹の顔。贔屓目かもしれないけれど、そんな顔でもとても整っていると思う。


「お、驚かすなよ、りつ

「別に驚かせたつもりはありません。兄さんが、すぐ二階へ上がられるのが悪いんです。……前までは、9時くらいまでは下で一緒だったのに。最近、ゲームし過ぎじゃないですか? しかも、そろそろ試験なのでは? 大丈夫なんですか?」

「だ、大丈夫。それに今日で、一区切りだしな」

「ふーん」


 そう言いながら、律が画面を覗き込み、ジト目で、こちらを見てきた。明らかに不機嫌だ。はて?


「……兄さん」

「な、何だ?」

「お分かりかと思いますが、現実とゲームは違います。そこの区別はきちんとしてください。……まさか、行かれるつもりですか?」

「んーまぁ……」

「駄目です――もしや、お会いになられた事が!?」

「それなりに長い付き合いだしな。ほ、ほら、前に全国大会へいった事があったろ? そ、その時のメンバーなんだよ、こいつ」

「…………兄さん」

「う、うん?」

「正直にお答えください。この方は、男性ですか? 女性ですか」


 画面上のログが動いた。フレンドのログインを報せるものだ。

 あ、嫌な予感が……。

 妹の視界から画面を隠すようにしつつ、答える。


「律、あんな文章を書くのは女性だと思うか?」

「……本当ですか?」

「嘘はそんなに言わない」

「では、嘘だったら私とデートしてください」

「? 遊園地にだったら、試験休み中に」

「行きます」

「お、おおぅ」 


 律がいきなり身を乗り出してきた。あ、睫毛が長い。

 同じ血を受け継いでいる筈なのに、どうして、兄と妹でここまで違うんだか……凹む。


「兄さん?」

「んーいや、律が相変わらず可愛いなってさ。それじゃ、試験終わったら行こうな」

「はい」


 笑みを浮かべ、律が部屋を出て――いかない。

 座布団を持ってくると、隣へちょこんと座った。おっと。


「あー律?」

「偶には私も見学します。昔は、こうして二人でしてましたし。兄さんが、普段どういう風なゲームをされているのか、興味があります」 

「……さいですか。一つだけ事前に言っとくぞ。口悪い人もいるし、滅茶苦茶な人もいるけど、あくまでもゲームだからな?」

「分かってます。兄さんは、普段通りになさってください」 


 ……微妙にやり辛い。何だ、このシチュエーションは。

 まぁ、仕方ないか。取り合えず、ログを確認――おっと。


『こんばんは。今日はよろしくお願いします。その前に、廃教会裏へ来てください。私刑ポイントが貯まっていますよ?』


 あ、あの詩人様はぁぁぁ。

 平常運転ではあるけれど。律、そんなに睨まない 


『嫌です。決戦前なんですから、士気を下げないでください。これでも、キーマンの一人なんですから』

『自分でキーマンだなんて……ナオさんも出世されましたね。でも今晩は懇願されたので、一緒のPTに入ってあげます。代金はオフ会の時にお支払いを』

『あんまし、酷いのは嫌です。同じPT内に、ミネットさんがいるのは心強いですが』


 腕はいいからなぁ、ほんと。頼りにはしている。

 袖を引っ張られた。


「兄さん、オフ会とは何ですか?」

「ん? あーオフ会っていうのは、現実で集まる会のことだな。どうやら、夏休みにするらしいんだけどさ。詳細はまだ未定」

「…………なるほど」


 何とも言えない顔を律が見せる。

 オンラインゲームやってる人間以外は、あんましピンとこないんだよな。しかも、普段ゲームしない我が妹なら、なおのこと。



『――もう、仕方ないですねぇ。ナオさんは。私がいないと駄目なんですから。さっさと勝って、現実の試験もやっつけて、オフ会しますよ、オフ会!』

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