第18話 VS冥竜アポピス➂

 KY君のHPバーを睨みつつ、敢えて回復魔法を飛ばさない。

 すると、台詞が変化。


「そうか、分かってきたぞ! やっぱり、こいつは……」


 ――冥竜が咆哮。全体攻撃か!

 パーティメンバーのHPや状態異常を確認。

 今の所は、問題無し。


【全体攻撃きます! メイン盾以外は、出来る限り範囲外へ! 状態異常猛毒!】


 撫子さんの指示が飛ぶ。うん、適切。ここまでは前回で把握したらしい。

 取りあえず、回復魔法と毒回復を準備。

 歴戦のメンバーが多いとはいえ、喰らう時は喰らうのだ。

 ――冥竜が口から黒い液体を吐き出した。散弾のように広がり、前衛各員へ直撃。後衛の一部も巻き込まれたみたいだ。はぁ、広範囲。

 メイン盾三人へ即座に毒回復。ほぼ同時に聖騎士三人は自分へ回復魔法。基本的なヘイト稼ぎだ。

 あと、巻き込まれた後衛にもささっと配る。さて、KY君は……おお~HPが減る減る。が。


「まだだ……まだ、こんなもんじゃ分からない。もっと、こいつの攻撃を喰らわないと……」


 ほぉ……なるほど。分かってきたぞ。このミッションの第一段階が。

 さっきの攻撃で減ったHPは把握した。台詞を注視しながら、各員を補助しよっと。


「KY君はナオさんに任せます。私達はタゲ固定に専念を」

「おk!」

「あいよ。にしても白さん、毒治すの速っ!」


 聖騎士三人はチャット。余裕綽々か。

 他パーティの状況も確認。んー……。


『ナオさんレベルの変態はそこまで多くないんですよ? 回復は速い方です』

『そんな事思ってませんよ。ただ』

『ただ?』

『……蘇生役が少し薄いなって』


 現状、このゲームで蘇生方法を持っているのは、白魔と陰陽師のみ。で、今回の参加者内で、その人数はかなり薄い。『盾』班こそ分厚いものの、他は攻撃重視と言っていい編成だ。

 見たところ、ボス本体もかなり堅いし、撫子さんがこう組むのは理解出来る。

 ただ……少しだけ胸騒ぎ。

 ――冥竜がまたしても、咆哮。今度は羽を広げた。吠える度に攻撃変化か。

 先週挑んだ際は、一度目の変化しか体験しなかったと言うから、やっぱりKY君の行動と連動か。


【またきます! 後衛、ギリギリまで後退! 状態異常不明!】

【各後衛、状態異常回復は、サブ盾とマラソン役優先です。回復も同様です。アタッカー陣、出来る限り、回避か薬品がぶ飲みを】


 おっと。メイン盾はどうした。全部、ナオに押し付けると!?

 こっちはKY君のHPと台詞を見ないといけないんですがねぇ。もう、半分しかないし。見極めないと……次で死ぬかも。

 羽から、無数の刃が襲来。うわぉ、さっきと異なり全方位か。

 この手の攻撃は……直感で麻痺回復と行動速度向上魔法を撫子さんへ。 


【状態異常は麻痺と速度遅延!】


 残り二人の聖騎士の麻痺を回復。目についた前衛にも配っていく。

 それを見ていた陰陽師さんが、聖騎士さんへ速度向上術式を配る。よく見てる。頼りにさせてもらおう。さて、KY君は……うわぁ、ギリギリだ。


「……これで二つ。後二つ……だけど、もう……」


 即座に回復魔法を飛ばし全回復。毒、麻痺、速度遅延も消してやる。

 ……後二つくるのか。辛っ。

 取りあえず、情報は共有させておかないと。


【@2全体攻撃くるようです。おそらくそれ以降、またパターン変化。そこからが本戦かと思います】


 各員から、了解、の意のチャット。

 誰か一人くらい、反対してくれてもいいのじゃよ?


【@2です。各員、持ち場を維持してください】

【アタッカー陣。二度目の全体攻撃、当たらない箇所があります。ほぼ真後ろと前方左右30°です。掲示板に絵をあげました。確認出来る人は、確認を】


 うわぁ……変態だ、変態がいる。

 自分だって、決して暇ではなかろうに。どうやって、そんな事……。


『簡単です。先に絵だけは作っておいて、色を塗って貼っただけですから』

『いや、だから僕の疑問を読まないでくださいっ!』

『ナオさんだって、それ位するでしょう?』

『しません』

『噓吐き白魔は針万本飲まーす。という歌を知らないんですか?』

『十倍!? しかも、白限定!!?』


 まったく、ミネットさんはこんな修羅場でも相変わらずだ。

 少しずつ冥竜のHPが削れている。が、まだ1/5程。

 ……それに、これ位なら、外国の廃神様達が突破出来ない筈もない。大嵐が吹く予感がこうひしひしと。

 ――冥竜が三度目の咆哮。目が紅く光り始める。


【三度目きます!】

【状態異常、即報告を】


 猛毒・麻痺・速度遅延。さてお次は……目、目か。

 ナオの背中を冥竜へ向ける。何かが発動。ダメージはない。

 撫子さんへ、石化解除を飛ばし、残り二人も同様。


【視線判定の範囲石化です。目を見なければ効きません】


 KY君は……はいはい。石化してるわな。これは、流石に解除していいのかなぁ……不安に思いつつ解除。


「これで三つ……あと一つ、あと一つだ。でも、次の攻撃は……」


 お、どうやら。進んだ。

 これ多分、無理矢理、冥竜を削ると危険地帯へ進んで死ぬんだろうな。で、強制敗北か。それが『meet one's end』?

 いや……違う。それなら、そう書くだろう。やっぱり何処かのタイミングでヤバイのを撃ってくるって事か。

 ――四度目の咆哮。同時に、目を閉じ、攻撃すら止めて、何かを溜め始める。 

 あ……。


【メイン盾二人! 撫子さんを残して退避!! 他前衛後衛もスタート地点まで後退を!!!】

【各員、ナオさんの指示に従ってください】

【マラソン班、出来る限り外回りへ誘導してください。巻き込まれます】


 咄嗟にチャットすると、撫子さんとミネットさんが即反応。

 すると、流石は歴戦のメンバー。次々と後退し始めた。だが、少し遅いか。

 

 ――冥竜の目と翼が開き、飛び上がった。

 そして、耳まで口を開き、漆黒の光線を吐き出す。着弾地点はタゲを取っている撫子さん中心だ! 

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