第19話 VS冥竜アポピス④
アポピスの全体攻撃で、撫子さんと、逃げきれなかったメンバー数名が大ダメージ。瀕死だけれど生存……うん?? 即死じゃないと???
あ、KY君も瀕死だけど生存。
「うぐぐ…………もう少し、もう少しなのに……駄目だ。分からない。私には分からない……。また、やり直しだ……」
――ほぉ。
撫子さんを回復させ、暗闇と呪いも治癒。
【範囲大ダメと、暗闇と呪いです。回復は前衛優先で】
……理屈は何となく理解した。
だけど、これって。攻撃を再開するもさっきと比べて段違いで固い。全然削れない。ほぼ半減か。
考えているとミネットさんからチャット。
『何か分かりましたか?』
『これ、まだ調整前ですよね?』
『実装されてまだ間もないですからね』
ふ~む。
『剣魔物語Ⅱ』は、普通に遊ぶ限り極めて良心的に作られているオンラインゲームだ。素人さんや中堅さんなら、何のストレスもなく楽しめるだろう。
……が、ミネットさんみたいな廃神様御用達コンテンツは別。
まるで、開発する人が、日頃の鬱憤を全て発散させているかの如く、その難易度は鬼畜仕様である。
普通は気付かないギミックや理不尽な攻撃は通常仕様。
僕は経験していないけれど、某期間限定コンテンツだと完全なる運ゲーで、ボスがいきなり範囲即死攻撃を放ってきて終了する、という理不尽さを通り越し、ゲームの尊厳に関わる事態すら引き起こしたと聞いている。
で、今回のこの竜さん。僕の予測だと……既に詰みだ。
勿論、このまま削り殺せる――かもしれない。多分無理だろうけど。
ならば。
『ナオさん、何でも仰って下さい。責任は私が取ります』
……不覚にも涙が。
これだよ、これ。撫子さんにあって、あの鬼軍曹にないのは。
『……今、悪口を言いましたね? 二回、廃教会裏に来るように』
酷い。
画面前で、大きく息を吐き、チャットを入力する。
『これ、もう駄目です。撤退を。あの全体攻撃がくるまで、おそらくですが……KY君が謎を全て解くまで、1㎜も削っちゃいけないんです。しかも、全ての状態異常攻撃を受けた上で、です。……それが第一段階でしょう。無視して先へ進むと、途中暴走モードになって範囲即死攻撃とかをやってくる相手だと思います』
『なるほど……分かりました』
オンラインゲームをやった事がある人なら分かると思うけれど、大人数を動員するコンテンツのリーダーにとって、一番難しい決断は……見切りをつけて、撤退することだ。
みんながみんな、フレンドであれば、多少は楽かもしれないけれど、余程の大規模ギルドじゃない限り、どうしたって外部参加者が出る。
数十人を集め、時間を決め、編成を考え、戦術を考案する。勝ったら勝ったで、戦利品のルールもあるし――運営する側はほんとに大変、大変なのだ!
撫子さんが、指示を飛ばす。
【各自、聞いてください。この一戦、残念ながら私達の負けのようです。最低限度の人員を残し、他の方は離脱してください。殿は私のPTが務めます】
そして、こういう時に人間性が出るのもオンラインゲームあるある。
一度でも、運営側を齧った事がある人なら、まず文句は言わない。
攻略法が確立していない大規模コンテンツを安全にクリア出来るものと、端から思っていないのだ。一年に一回公表される隠しステータスの一つである累計死亡回数の桁が違うのは伊達じゃない。
なので、大部分は《あーい》《いい感じだったんだけどなぁ》《いや、この固さ、何か足りないんだって》《マラソン班、抜けていいよー。私の事は置いていけ!》《……無茶しやがって》《撫子様に敬礼!》《あっばよー、アポピス~》……悔しい事に、ちょっと面白い。
まぁだけど、そういう人ばかりでもないわけで。
【なんでだよっ! まだ、やれんだろうがっ!! 弾代と薬品代、払ってくれんのかっ!?】
という人もいるのです。社会の縮図みたいなもんなのかもしれない。
ナオのフレンドには、撫子さんやミネットさんみたいに、ハイエンドコンテンツを主催している廃神さんが他にもいるけれど、その人の考えは一貫している。
曰く「外部を入れる時は、全滅するまでやる」。
それはそれでありだと思う。白的には、余り嬉しくないけれど。数十人蘇生は大変なんだぞー。
文句を言ってるのは……あーさっきの長銃士さんか。
気持ちは分からなくもないけど、弾も高いしね。
だけど、そこも丸っと含めてオンラインゲームなのだ。
画面の向こう側にも、同じ人間がいる。
その事に、気付けない人は……あまり、向いていないと個人的には思う。
皆、答える事もなく撤退していく。
【おいっ!】
【後で文句はお聞きします。もうそろそろ、支えきれません。経験値も失いますが?】
【……ちっ】
渋々といった様子で、離脱。
さーて。
【逃げれる人、逃げてください。最後まで残りますので】
【おー白さん、おとこまえー】
【粘れるだけ、粘ろうぜ。もう、だいたい、解いたっしょ??】
【ナオさん、白は離脱するものですよ……でも、有難うございます】
【ぴろーん。撫子の好感度が3上がった。密かに憧れているキャラからの殺意が10溜まった。あ、100になったらころしにいきまーす】
『ぴろーん。ミネットの好感度が3000下がった。殺意がとにかくいっぱい上がった。取りあえず、ころしますね♪』
ひぃ。殺害予告が!
――この後、暴走モードに移行したアポピスからの範囲即死攻撃で目出度く僕等はなすすべなく全滅した。
流石に、このまま再戦するのは無謀、ということで後日の再戦を約束しその日は解散。まーちょっともめたけど。
※※※
……で、ですね。この状況は何なんでしょうかね。
今、リアルの僕の目の前には、二人の女子高生が座り、さっきから優雅に紅茶を飲んでいる。一杯驚きの1500円。ケーキセットで3500円。
……ほんとっ、怖い。
二人共控えめにいって、美少女。
都内にある超有名な女子高の制服を着ていて、絵になる。
「あ、直さんも食べますか? はい、どうぞ」
「透子。はしたないわよ?」
「私と直さんは、戦友ですから。はい、あーん」
さて、どうしてこうなったのやら。
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