第16話 VS冥竜アポピス①
ミッションボスの説明が終わり、皆、準備取り掛かる。
この緊張感、懐かしい。
ナオが入った『メイン盾』PTは、聖騎士×3と詩人と支援寄りの踊り子、そして陰陽士。誰も彼もが間違いなく廃神。技量という点でも、古参組ばかりで疑いようがない。
『ナオさん、よろしくお願いしますね。KY君の管理さえしていただければ、どうとでもなりますので』
『さ、最善を尽くします』
『なら、大丈夫ですね』
な、撫子さんの信頼が重たい……。
そこまで何かをした覚えもないんだけどなぁ。
これで、編成内にフジさんでもいたら多少は安心出来るんだけど。でもあの人、ああ見えて脳筋寄りだし無理か。超高速アタッカーだよね、多分。
ミネットさん? こういう集中する時は、逆にいない方がいいかもしれない。寂しいと言えば寂しいけど。
ああ、そうだ。自分で使う分以外の薬品を、最安値でバザーする。
「すいません。薬品、出しておきました。足りない物、拾ってください」
「はい、ありがとうございます。ナオさん」
「ナオ印の薬品!」
「ふ……勝ったな」
「うぉぉぉぉ。これが噂の隠しスキル幸運入りという……。良し、ちょっと籤引いてくるわ。今なら、伝説武器、引ける気がするし!」
「鬼軍曹が、時々景品にする……こ、これ、貰っていいんですか? 後から、怒られませんか?」
幸運入り? はて。
と言うか、ミネットさん、綽名が鬼軍曹なのか。
……まぁ当たってはいる。
『ナオさん、私の悪口を言われましたね?』
『いいえ、本官は何も言っておりません。軍曹殿!』
『なぐりますよ』
『平仮名怖いっ。あ、そう言えば、ミネットさん、僕の薬品、何時も配ってないんですか?』
『くばってますよ。ほんとうです。みねっとうそつかない』
全部、がめていたのか。お金持ちなのに、どうしてそういう事をするのか。
まったく。
『……今度から、渡すの止めます』
『嘘です! ごめんなさい! ナオさんの薬品は、一部の人から『飲んで籤引いたら、一等出た!』とか、『持ってるだけで、結婚出来た!(ゲーム内で)』とか……その他諸々、色んな逸話があって、気軽に配れない代物なんですよ。なので、私やナナが使ったり、イベント時の景品に出したりしているんです』
『そんな効用はありません』
幸運入りって。ハハハ、もしそんな効果があったら、ナオはもっと大金持ちになって――待て。もしや、リアルラックが溶け出していると? 結果、それを飲んだ他人様は幸運+になるけど……。
・作れば作る程、ナオ自身のラックは減少する
↓
・一攫千金の合成を狙っても敗北確定
↓
・日銭を稼ぐ為に薬品を作る
↓
・以下、繰り返し!
な、何と言う負の連鎖!
そ、そうか、お財布が増えていかないのにはそんな訳があったのか……!
【では準備が整い次第、各自突入してください。まだ、ボスと雑魚敵には触れないでくださいね】
撫子さんの指示。おっと、いけないいけない。集中しないと。
ミネットさんへチャットを送る。
『では、集中します。また後程』
『……何時になく真面目ですね。普段は、ずっとチャットしているのに。別に、ナオさんなら、片手でも問題ないかと思います。なので、普段通りでお願いします』
『無理無茶過ぎるっ!?』
いやいや。このミッションコンテンツが実装されてから2週間。世界未クリアは堅持中。つまり、それは――太平洋を渡った先にある国やらEU組ですら、突破していない事を意味する。
オンラインゲームにおいて、これは異例中の異例だと言っていい。全世界がネットで繋がっている昨今、ボスの挙動その他は全て筒抜けになっている。事前対策は容易になっているのだ。
……にも、関わらずクリア出来ない。
意味する所は、廃神ですら容易く殺す程、ボスが強いのか、ゲームバランスに問題があるか、の二通り。
どうやら、今回は後者らしいけど。
う~ん……その程度で、ゲームに対する執念、という点では常識を何処かに置いて来ている所がある、外人さん達がクリア出来ない? あ、勿論、こっちの国の廃神さん達も凄まじいのだけれど。単純にこれはやり込み人口の問題だ。
何せまだ、英語版も出ない時から日本語版を手に入れてやり込んでいる人達だからなぁ……英語の攻略サイトに『meet one's end』とだけ書きこまれているのが不気味過ぎる。
取りあえず、見てから考えよう、うん。
——ミッションチェックポイントに触れると、ムービーが始まった。
何処かの誰かさん達に連れられて突貫作業でクリアしてしまったので、全然、内容が追えていない。
えーっと、確かこのミッションは……。
・NPCキャラのあるお兄さんが、冒険者の妹を庇って死亡
・妹が嘆き悲しんでいるところに、悪い魔女出現! 『お兄さんを甦らせてあげよう。その為には――』
というある種、古典的ネタである。
どうやら魔女が欲していたのは、冥界統べる竜を召喚させる事が出来る本。妹に頼まれて、一緒にその本を探していたプレイヤーキャラは、ようやくそれを入手した所を、奪われる、と。
画面上で魔女が叫んでいる。
冥竜の巫女『もう、お前達は用済みだよ! お礼に冥竜の力を見せてあげよう!』
名前が『黒き魔女』から変更されている。う~ん。テンプレ。でも好きだなぁ。
ムービーが終わり――奥には巨大な竜? でっかい羽が生えたコブラのような気がするけど……。うわぁ、まだ戦闘開始ですらないのに、もう骨兵と幽霊を召喚してるし。エグイ仕様。
撫子さんが指示を飛ばす。全体を見ないといけない指揮官は大変なんだよなぁ。
【各PTリーダーは点呼してください。強化魔法展開後——攻略を開始します!】
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