第15話 詩人(廃神)な日常その➂

「なぁ!?」

「ど、どうしたの? お姉ちゃん。変な声出して」


 思わず声を荒げた私に、隣でプレイしているななが驚いて声をかけてきますが、それどころじゃありません。

 携帯で、掲示板を確認――編成変更? ナオさんを『メイン盾』PTに??

 ぎりっ、音が出る位、歯ぎしりします。やられました。

 どうやら、参加者に直前で変更があったみたいです。本来、PT加わる筈だった後衛さんが欠席された枠をナオさんで埋めたのでしょう。

 PVPは突発的な出来事だったみたいですが、『メイン盾』PTには、ナオさんの事を知っている人もいますし、あのメンバーは手練れ――いえ、オカシイ人達しかいないので、イベントを見た人ならより理解もする、と。

 ……流石、撫子さん。油断なりません。

 今回は私の敗北です。認めましょう。けれど、二度目はありません。ナオさんの隣にいていいのはミネットなんですからっ!!

 取りあえず、呪詛のチャットを……。


『ナオさん……裏切りましたね……これは御仕置が必要です……』


「お姉ちゃーん。ライラさんが、早くPTに入れって」

「あ、はい」


 慌てて入ると、既にメンバーが揃っていました。私の入るPTは『サブ盾』

PTです。編成は、剣舞士×2に詩人×2と召喚士が1と祈祷師1。『メイン盾』PTのバックアップですね。ナオさんが入られた以上、崩されるとは思えませんが。


「よろしくお願いします」

「ミネット、遅い! どうせ、ナオを取られて怒り狂ってたんでしょ?」

「よろ~」

「よろしくですー」

「はーい、はーい。質問ですー。鬼軍曹とあの白っ子はどういう関係なんですか!」

「……ほぉ、鬼軍曹ですか?」

「早乙女、このバカ!」


 剣舞士の早乙女さんが迂闊な発言されました。

 まったく、困った方ですね


「私はまず鬼でも軍曹でもありません。ナオさんとの関係につきましてはプライベートの事ですのでお答えも出来ません。……早乙女さんへの支援、今日は5秒程遅れると思いますので、頑張って下さい♪」

「こわっ! ガチじゃないですか。やだー」

「でもナオさん? でしたっけ。凄い方ですね」


 キャラ名、向日葵さんが発言されます。

 はて? このキャラは確か撫子さんセカンドだったような。


「あ、ごめんなさい。撫子のフレの皐月って言います。今日はヘルプで呼ばれまして、この子を操ってます」

「皐月さん……もしや、前PVP全国大会優勝メンバーの?」

「はい、一応。だけど、ナオさんみたいな信じられないプレイングは出来ないですよ。撫子からは聞いてましたけど……上には上がいるんですね」


 オ、オノレ、ナデシコサン。ソコマデヤルノデスカ……はっ! いけませんいけません。今、もう少しで暗黒面に飲み込まれるところでした。 

 どうやら、ナオさんとPTを組む、という目的を果たす為に、それ相応の人をヘルプで動員したようです。

 技量が拙いのであればそこから崩せますが……くっ……不覚です……。


『あのですね。僕は別に裏切ってなんかいません。てっきり、今日もミネットさんと組むものだとばかり思ってました』

『ですが、実際はそうなっていません。これは手酷い裏切りです! どう、責任を御取りになるおつもりですか?』

『な、何と言う難癖……今日、何か絡まれる事が多いような気がするんですが……』

『日頃の行いが悪いせいですね。お参りに行かれた方が……あ、もう手遅れですね。お可哀想に』

『はいはい。あ、でも、ミネットさんと組めないのはちょっと嫌ですね』


「……へっ?」


 リアルで声が漏れてしまいました。

 えっと、えっと、これってどういう意味なんでしょうか? 

 ミネットと組めないのが嫌だと? 

 つまりは一緒にいたいと?

 も、もうっ。ナオさんは、変なところで素直になりますね。

 ですが、ここで甘やかすのはいけません。凛として返答を――。


【では、今から最後の作戦説明を開始します】 

 

『あ、始まりますね。僕、概要しか読んできてないので、ちょっと集中しまーす』

『分かりました』


 マタシテモデスカナデシコサン。ジャマヲスルノモイイカゲン……冷静に。冷静にならなくては。

 撫子さんは、作戦立案者としての義務を果たされようとされているに過ぎません。そもそも、ダイスで勝ったのは私なのですし、責めるのはお門違いもいいところでしょう。

 

 ――説明のログが流れます。流石に、難敵。注意する事が多岐に渡ります。

 

 こういう所がオンラインゲームの敷居を上げていると思います。そして同時に、攻略法を研究するのが面白いところでもあるんですが……今回のボスは特殊要素縛りが厳し過ぎるんですよね。ゲームバランスとしては、如何なものかと思います。

 ボスそのものは、アンデット化した龍という他のゲームでもよく見る相手ですが、永久に骨兵と幽霊を召喚してくる時点で厄介極まりないです。加えて、範囲内へ強力な全体攻撃、範囲猛毒、呪い、麻痺、と三拍子次々と放ってくるので、それらを出来る限り回復させる後衛陣の技量は極めて重要です。

 加えて攻略難易度を上げているのが――。



【懸念材料のNPC——通称KY君対策ですが、今回は白魔術師のナオさんに専属で当たってもらいます。他の方は一切、回復行為をしなくて結構です。良いでしょうか? 絶対に手を出さないでください。KY君の挙動が不安定になると、その時点で詰みです。湧いた骨や幽霊の所に特攻します。この点、徹底願います】

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