第12話 PVP➁

《二人共、準備はOK?》


 倉が声をかけてくる。

 装備を一応確認。手持ち装備でHPと防御重視にしてみたけれど――白の防御は基本的に『紙』。『白紙』と形容されている位だ。誰が上手い事を言えと。

 取りあえず、攻撃特化の長銃士の戦技を一発喰らったら、お陀仏だろう。

 普段は両手杖だけど、今回は速さがないとどうにもならないので、片手杖。

 ナオの右手へ装備……相変わらず、紅い釘付きバットにしか見えない。怖い。

 付加性能は『時々カンタレラ』。ゲーム中、最恐の毒である。

 

 ……数少ない白専用装備なのにだ。

 

 しかも、これと対になる片手杖も色違いの蒼い釘バットで、付加性能は『時々フグ毒』。こちらゲーム中、最悪の麻痺である。

 

 ……運営は一体、何を白にさせたいのか。これは公開虐めなのではないか……。

 

 このような悪逆非道な行いにより、数少ない同胞の精神を削り続けていくのであれば、我等一同訴訟も辞さない所存!

 既に精神を病んでしまい思い余って『……ナオ、おらぁ……最強の前衛になるぜ……』と言って、修羅道に堕ちてしまった同胞もいるのだ。事態は一刻を争うっ!! 

 まぁその輩は、ソロ白で諸々狩ってはいけない相手……本来は十数人単位で挑む相手を、平然と狩っている変態さんなので、何とも言えないのだけれど。少なくとも、路を大きく踏み外しているのは間違いない。

 ああはなりたくないものだ。僕は正統派の白の伝統を墨守しないと!

 

 いやまぁ……ナオの左手に、その蒼いのを持たせるんですけどね~。

 

 『剣魔物語Ⅱ』にはスキルポイントというものがあり、戦闘やクエスト、そしてミッションを進める事で、取得することが出来る。

 そして、それを使う事で、他ジョブの基本スキルを取得することが出来るのだ。勿論、そのジョブの根幹を成しているものは不可だけれど。

 例えば、白魔法を奪われてしまったら、白は、白は、もう生きていけないっ!

 ……取り乱しました。

 まぁ、あくまでも基本スキルだけ。かつ、付ける事が出来る数もそのスキルの有用性によって制限される。

 で――今日、ナオがつけてきた基本スキルの一つが言わずと知れた『二刀流』である。読んで字の如く、片手武器を左右に持てるのだっ! 勝ったな。

 

『……はぁ? お前ともあろう者が、白魔、舐めてるのか?? そこで正座しろっ!』

 

 はんっ! 暗黒面に堕ちた輩が何を今更。

 第一、理由があるのですよ、これには。

 普通は、黒や召喚士、陰陽師といったメジャーな後衛どころのスキルを付ける所かもしれないけれど、今回、僕が守るのはNPCだ。継続回復魔法は意味がない。

 なら、主力片手杖である『慈悲の杖』の付加効果である『回復量+10%』活かして、それを倍にした方が良いのでは? という判断なのだ!

 

 ……決して、一度やってみたかった、とかではない。ないったらないのだ。  

 

 それにしても、PVP——対プレイヤー戦闘なんて、久しぶり過ぎる。ちょっと楽しみだ。


《僕はOKです》

《俺もです》

《良し! なら、とっとと始めっぞ! ギャラリーも増えてきたしな》


 確かに、プレイヤー数が増えてきている。

 流石、廃神様方……お早い御到着ですこと……。

 ミネットさんはまだ、か。

 良かった。あの人いると、もっともめるとこだった。


《それじゃ、始めるゼ!》


 ナオとガルドがワープ。当分の距離になる。

 まだ、この位置では、お互いに攻撃や魔法は届かない。

 今回の相手は長銃士。外見の装備からしても、かなりの水準。

 

 ――カウントダウンが開始された。画面上に『10秒前』の表示。


 おそらく、向こうはこう考えている筈。

 『『白紙』なんて、一発当てれば俺の勝ちだ』と。

 その思考は基本的に正しい。

 開始前は防御魔法も使えないから、一気に距離を詰められて、射撃を受けたらかなり不利だ。


 ――『5秒前』。


 かと言って、逃げ回って勝てるだろうか?

 ……いやまぁ、やってみなければ分からないけれども、勝てなくはないだろう。 基本的に回復手段に乏しい前衛アタッカーを削り殺すのは、実のところ、左程難しい作業ではない。要は、スリップダメージを入れて、逃げ回れば良いのだから。PVP経験が浅い相手なら、尚更だ。幸いナオは移動速度アップ装備を持っているし。

 けれど、今回の場合、それは出来ない。何せ、この後、ミッションボス戦が待っているのだ。数十分に渡る泥仕合なんかした暁には、ミネットさんに何を言われるか分かったものじゃない。


 ――『3秒前』。


 故に、採用するのは短期決戦である。

 何やら昨今『白は回復も攻撃も、ダメダメである』という根も葉もない……というのは言い過ぎだけれども、少なくともそれなりにやれる事すら否定されているが……何にだってやりようはあるのだ、やりようは。


 ――『1秒前』。


 まぁ、偶にはカッコいい所を見せないと、それこそ虐めが激しくなってしまう。

 ……主に、何故か女性フレンド陣から。男性フレンド陣は優しいのに。何故だ。

 さくさく勝って、ミッション終えて、日常に戻ろう。うん、そうしよう。あ、薬品売らなきゃ。


 『☆ゲームスタート☆』 


 よしっ!

 それじゃ、一丁真面目にやりますかっ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る