第13話 『不沈』

 開始と同時に、ナオをジグザクに駆けさせる。

 どうせ地形なんてものはないも同然。何しろ廃教会なのだ。ベンチすらなく遮蔽物になる物体は皆無。

 いきなりの突撃に、周囲のギャラリーからはどよめきのチャット。


【うわ、強化もなしかよ】

【白紙が赤紙に変わるわけですね、分かります】

【勝ち目がないからって、特攻するのはちょっと】

【いや、案外とああいう方が狙いにくいぞ。オートだと特に】

【あの片手杖って『紅蒼』装備でしょ? 実物、見たの初めてかも】

【白にあえての、『二刀流』か……嫌いじゃない】


 ……あ~、うん。

 チャットにフィルターかけそびれた! 

 ぎぎぎ……ログが、ログが埋まっていくのだぜ……。

 ま、確認してる暇なんかないから関係ないか。

 さて、先方さんは……動かず、待ちの体勢、と。

 持ってる銃はさっきと同じ大口径。一発の威力重視のまま。当たれば大きいけど、再装填はかなり時間を喰うタイプだ、

 速射型に持ち替えられたら戦術を変更しようと思ったけど……このままなら事前の計画通り、いきますか。


《いきなり、突っ込んでくるとか、バカだろうが! 来いよ! 蜂の巣にしてやる!!》


 射程に入ってるにも関わらず、チャットしてくれるとは……ありがたや、ありがたや。そのまま、侮っていてほしい。具体的には、片手杖の射程まで。

 

 さて、こっから先は集中。


 所詮、白魔の防御は無きに等しい。

 物理カット装備をしていても、総ダメが多ければ、あっさりと死ぬ。

 ――だけど、どんなゲームにも抜け道はあるのだ。

 長銃士が銃を構え発砲!

 そのコンマ数秒前に、ナオを急停止。急発進。


【はぁ!?】

【え、今、何で外れたの??】

【かわした??】

【さっすがぁ!!!】

【いやいやいや】

【オート射撃で測定された位置と、実際の着弾時点をずらしたのか! ……そりゃ理論上は可能だけどもさ……普通は、やらねぇって……】


 うぐ…やっぱり、ログがうざい……。

 二射目までの間に、嫌がらせのスリップ魔法。

 普通考えたら、次は対策をしてくる筈。

 相手のキャラが射撃姿勢。

 ――発射のコンマ前に、即時発動する代わりに、再詠唱までが長い閃光魔法で視界を潰し、再度、急停止、急発進。 

 同時に、回復魔法を唱える。

 

 ――第二射が着弾。


 ほとんどは逸れたものの、破片の幾つかが被弾。HPが削れ、即全回復。


【うおおおお】

【マジか。散弾に切り替えるのまで読み切ってんのか】

【あの白魔、何者!?】

【ナオっち、かっくい~!!】

【いやでも、近付いても、至近距離になればかわせないだろ】

【白の攻撃力じゃ、幾ら何でも殴り合いじゃ勝てない、かも】


 と、皆様、思っておられるわけですよ。

 ……いやまぁ、実際そうだし。

 だけども、やってやれない事はない。

 更に距離を詰める。こちらの射程までもう少し。

 第三射を耐えきれば、片手杖で殴れる。……ここを凌ぐのが大変なんだけれども。近距離になっている分、当然、命中精度も上がるし、威力も上がる。

 

 ――相手のキャラが第三射の構え。


 その前に、白魔が使える唯一の攻撃魔法であり全魔法中最速の詠唱速度を誇る『光閃』を発動。直撃、HPの1/5を削る。

 加えて、ナオへ防御強化+被ダメカット魔法を詠唱。

 第三射が直撃――散弾の全てが外れる。おお、ラッキー。再突貫。


【はぁぁ!!?】

【え?? 今、何で外れたの??】

【うわ……マジか……実際に、やってのける化け物がいるのか……】

【ふふふーあれこそは、第一回PVP決勝で、相手の弓使いを封殺した挙句、泣かした鬼スキル、『射撃封殺』なのだー】

【射撃前に、『光閃』直撃させると命中率大幅低下ってやつか。超絶に判定がシビアで、まともに扱えないって話だったが……】 

【あ、これ、白勝ったわ】  


 遂に、片手杖の射程にまで辿り着いた。相手も、銃から片手剣に切り替えて応戦してくる。幾ら何でも白となら殴り合っても勝てる、と踏んだのだろう。


 くくく……計画通り!


 ここで、冷静に銃を構えられると、実は単なる運ゲーになってしまう。で、ほぼ負け。戦技とか、至近距離でかわすの相当難しいし。

 けれども第三射まで、綺麗に封殺して見せれば、普通のプレイヤーなら焦る。まして、PVPに経験が浅いなら尚更に。そして、疑心暗鬼になるだろう。

 ……最初の射撃の後に、オートではなく、マニュアル射撃に切り替える様子が見られなかった時点で、勝ちが見えた。

 相手の片手剣の一撃を受けるも、被ダメはゼロ。

 まぁ、すぐ抜かれるだろうけど――切れた。同時に、被ダメカット魔法が発動。

 こちらの片手杖の一撃は、恐ろしく軽い。精々一撃30ダメとかだ。

 対して、相手のHPは1500近く残っている。まぁ我慢比べでも良いのだけれども……お、追加どっちも入ったな。


 後は、被ダメカットを切り替えつつ待つだけ。

 ログが、麻痺している、麻痺している、麻痺している……で埋まっていく。

 その間にもHPが凄い勢いで削れていく。なむなむ。


【うわぁぁ……】

【カンタレラか!】

【いや、これ……白ソロありなんじゃね?】

【普通じゃ無理だろ……普通じゃ】

【ナオっちー、鬼畜、非道、変態。だけど、そこに痺れる、憧れるー】

【なむなむ】

 

 『紅血の杖』『蒼血の杖』の付加効果は、えげつない。通れば、ドMでもない限り、まず間違いなくコントローラーを投げ捨てるレベルなのだ!

 まぁ……モンスターには中々発動しないんだけど……あくまでも、対人用装備なんだよなぁ……。

 さて――最後はカッコよく『光閃』で決めて


『ナオさん、もう勝ちましたか? まだ勝たないでください。もしくはもう一回やってください。動画を撮りたいので』


 ……ミネットさん、少しは心配してください。と言うか、何故にこちらの状況を把握して?

 それにしても、内容が無理難題過ぎるっ! 

 相手に回復魔法をかけろとでも――あ。

 ナオの前で、長銃士が倒れる。

 

 ……わ、わーい。勝ったぞぉ。

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