第11話 詩人(廃神)な日常その➁

「なな、私はそろそろ、ログインしますよ」

「は~い。私、もうキャラ動かしてあるから、大丈夫」

「分かりました」


 隣で、足をばたつけせながら携帯をいじっている妹に声をかけ、私はノートパソコンから『剣魔物語Ⅱ』を起動させます。

 時間は現在、夜7時15分過ぎ。

 ミッション開始は夜8時なので少し早いですが、どうせナオさんのことです。もうログインして現地に行っている事でしょう。心配性+気にしいな人ですし。

 45分位、チャットをしていたらあっという間。ナオさんが参加する以上、懸案だったNPCは解決した、と言っても過言ではありません。気が楽です。

 あと問題があるとすれば、戦力増強の一環で普段組んでいる人達以外のプレイヤーさんが十数名参加する、という点ですが……まぁ、カバーは出来るでしょう。結局のところ、数は力。しかも、基本的にアタッカー枠で募集もかけましたし。

 メイン盾PT及びサブ盾PTは鉄板メンバーで組んでいますから、立て直しも出来る筈……。


「あ……お、お姉ちゃんっ! た、大変だよ!」

「どうかしましたか?」

「今、倉さんから連絡きてね……ナオ先輩、今からPVPするって! やばい! 早く入って、動画撮らなきゃ!!」

「!?」


 PVP!? 

 あ、あのナオさんが? 他プレイヤーと一対一を??

 しかも、倉さん絡みですか……。

 これはよくありません。とてもとてもよくありません。

 あのキャラがブレまくってる廃神さんには、私もリアルで会った事がありますが……正直、反則だと思っています。

 ゲーム上だと、あんな口調なのに、実際会うと外見は清楚系御嬢様。中身はぽわぽわ系。そして、頭も良く、性格まで良い、という何でもござれなチートキャラ。

 そして、これが一番大問題です。

 あの人とナオさんは、第一回PVP大会の優勝チームメンバー。

 そこから導き出されるのは……


・私よりも古い付き合いである。

・私よりも、ナオさんが遠慮なく話している……気がする。

・リアルのナオさんとも2日間に及んだ大会中ずっと一緒だったらしい。部屋も。

・倉さんは、ナオさんの大ファンを公言して憚らない。

・リアル倉さんは、東京へ簡単に遊びに来れる位置に住んでいる。この前会った時は、一緒に中華を食べました。撫子さんも一緒でしたが。

・そして、ななには連絡をし、私にはくれないとは……意地悪である。


 要はライバルなのです。何の、とは言いませんが。

 そんな倉さんとナオさんが一緒の場所にいて、きっと楽しそうにチャットをしてたりするわけです。

 どうして、PVPになったのかは知りませんが……きっと、終わった後も


『鈍ったな、おい!』

『う、うるさいですね。僕はか弱い白魔なんですよっ! 貴女みたいな廃神と一緒にしないでくださいっ!!』

『はんっ! 第一回じゃ、自身一度も倒れないどころか、味方PTメンバーすら、死なせず『不沈』と呼ばれた奴がな~に、言ってんだかっ! ……でも、カッコよかった、ナオはやっぱりナオだね』

『お、おぅ……あ、ありがとう、ございます……?』 


 とか、何とか二人でチャットするに違いありませんっ! 

 きー! 何ですか? 何なのですか!?

 そういうところがキャラぶれしている、と言われる所以なんですよっ!

 それにですよ? 倉さんがいる、ということは撫子さんもいる筈です。

 あの人は本当に良い人で、憧れのお姉さんなのですが……最近、気になる話が出つつあります。


『……リアルのナオさんに会いたいです。倉ったら、私に自慢ばかりするんですよ? ミネットさん、是非とも今夏はオフ会をしましょうね? ね?』


 変です。おかしいです。だって、ナオさんですよ? 見たところで、どうなるものでもありません。

 ……ま、まぁ、リアルでも何だかんだとっても優しいところは、全く変わりありませんが。

 

 ミネットがようやく、ログインしました。

 フレンド一覧を確認すると、やっぽりもう廃教会にいます。しかも、アイコンは剣の交差。

 ――PVP中のマークです。 

 

「なな、そちらはもう入りましたか?」

「まーだー。こういう時、ゲーム機は不便だよね……お姉ちゃんは、何処にいるの??」

「私は、まだ古都のホームです。これから移動させます」

「そっかぁ……う~ん……これは間に合わないかも……」


 ……最悪です。

 ナオさんがPVPするところなんて、私ですら見たことがないというのに。

 あの人、一線を退かれた後、動画としてあがってたのを消去したらしく、今ではほぼ見つかりません。そういう所だけは、しっかりしているんです。

 今日に限って19時にログインしなかった自分にも毒づきます。

 確かに、プリンは美味しかったです。それは認めます。お父さん、有難うございました。

 が……その時間分、ロスしてますっ! 

 写真なんか撮ってる場合じゃありませんっ! 急いで、急いでくださいっ!

 焦りながらミネットを移動させていると、チャットが飛んできました。む。

 

『はろーはろー。こちら、倉ですよー』

『……倉さん』

『ねねちゃんには一言だけ伝えておきたくて……ナオはナオでしたっ! 以上! また後でー』


 こ、このキャラぶれ小人っ! 

 幾ら、リアルで会ったことがあるからって、本名で呼ぶなんてっ!

 ――今日のミネットの最重要ミッションは決定しました。 

 どうせ、動画を撮った筈です。奪い取りましょう。

 ……ええ、必ずっ!  

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