第10話 PVP

《はぁ!? 何で、俺がこんな白なんかの為に外れないといけないんだよっ! 時間合わせて来てやってんだぞ!! しかも、俺の方は明らかに装備とか上だろっ!》

《装備云々を理由にする人より、ナオさんの方が遥かに信頼出来ます。私は貴方を知りません。ですが、彼の技量も性格もよく知っていますから》

 

 うわぁ……撫子さんが怒ってる……。

 で、何ですか? 倉。


『いや~相変わらず、もってもってだなっ! おい! ひゅーひゅー。このすけこましー。えろー』

『ああ?』

『こわっ! 何だよ~。撫子とミネットとかとはよく遊ぶくせに、俺をはぶるのはナオだろぉ』

『……呼んでも来ないでしょうに。毎回、撫子さんに伝言頼んでるじゃないですか』

『あれ? そだっけ??』

『そうですよ。僕はそこまで不義理な人間じゃないです』

『それもそっか。ナオだもんな。まー今度からは直接、教えてくれよぉ。馳せ参じるからよぉ』

『はいはい。まぁでも、当分は何もないですよ。今回のミッションが終わったら』

『PVP全国大会があるぜ☆』

『やりません』


 誰があんなしんどいもの二度とをやるものか。

 相手の思考から、次の手を予想→選択→実行を繰り返す。

 ……う、今、思い出しても頭が痛い。

 まぁ、それよりも撫子さんをどうにかしないと。

 一番良いのはナオをログアウトさせることだろうけど……う~ん。多分、この状況でそれをしたら、烈火の如く怒るだろうなぁ。撫子さんとかミネットさんとか、地味にフジさんとか。

 さて、どうしたものだろう……。

 考え込んでいる内にも、当事者であるナオそっちのけの言い合いでログが埋まっていく。

 あ~これはほんとマズイな。人も集まって来てるし……。

 オンラインゲームの大人数コンテンツは、基本的に難易度が高い。まして、今回のミッションは、錚々たる廃神様達ですら突破出来ていない馬鹿みたいな代物。出来る限り、未然に不安材料を減らす必要がある。

 開戦前から揉めていて、勝てる程、甘くはないのだ。

 倉さんが、キャラを動かし、二人のキャラの間に立たせる。


《あ~そろそろ、止まれや。鬱陶しいし。どうせ、納得なんかしないんだからよ》

《倉。貴方は黙ってなさい。蹴りますよ?》

《幾ら倉さんに言われても……》

《お~こわっ。そんなんだと、ナオに嫌われっぞ~? で、ガルド、お前はナオが白だから気に食わないのか? それとも、腕が分からないから、気に食わないのか、どっちなんだよ?》

《……両方です》

《なら、白が必要なのは分かれ。それが分かんねぇなら代案を示せ。言っとくが、他ジョブで支えるのは至難だぞ? 外人共ですら匙を投げてる位だ。で、技量は実際やってみりゃ分かるだろ。なーお♪》


 こ、こいつ……はぁ……最悪だ……。

 倉とは、確かに何だかんだ古い付き合いだし、全国も一緒にいったし、信頼してもいる。口には出さないけれど。

 が……とにかくナオを表舞台へ引きずり出そうとするのだ。主にPVPの。もう嫌だって言ってるのに。

 でもまぁこの場は仕方ないかな。長銃士か。やりようはあるだろう。

 覚悟を固めて、キャラを動かしガルドへPVPを申し込む。


《分かりました、やりましょう。で、僕が勝ったら文句は無しで。負けたらログアウトしますし、二度と参加しませんよ》

《上等じゃねぇか。白なんて一撃で沈めてやるよ》

《ナオさん! そんな、約束する必要はありません》

《撫子よぉ、ここは退いておけよ。それに、ほら、あれだ。天下の『不沈』のPVPが見れるなんて、早々ないぜぇ? ま、今でも動画で観れっけどよ》

《嘘です。私、探したけどなかったし》

《そりゃ、当然。だって、俺が個人的に動画保存してんだもん》

《……後でお話があります》


 撫子さんと倉はリアルで知り合いらしい。

 倉とは全国大会の時に何度か会った。

 こんな風にキャラに喋らせているけれど、リアルは女の子だ。

 二つ上の先輩で、性格も恐ろしく控えめな清楚系御嬢様。何故、ゲーム中はこんなことに……正直、最初は嘘だと思った程だ。

 まぁ、キャラも鎧兜に隠れて分かりにくいけど♀だしね。因みに、『先輩』『さん』付けで呼ぶと、本気で怒る。 

 ……そろそろ、受験勉強しないで良いのか。

 

《それじゃ、ルールは一番単純なやつなー。アイテム使用は無し。一本勝負だ。審判は俺がやるからよぉ》

《OK》

《一撃で沈めてやる!》

《で――ちょっと数分待て。動画を撮る準備をする》


 撮るのかよ! 肩透かし感が凄い。

 本当、PVP好きだよなぁ……でも、白魔対長銃士の動画を撮っても参考にならないと思うけど。


『ナオさん、本当にすいません。変な事になってしまって』

『大丈夫ですよ。悪いのは倉と僕ですから。お気になさらず。まぁ、負けると思うので、その時は一緒にミネットさんへ謝ってください(^^;』

『ふふ。そこは心配していません。倉から散々聞かされてますから。あれで、倉はナオさんのファンなんですよ?』

『はぁ? 僕のですか?』


 ……不思議な話だ。

 倉は最大レベル50の時代から、未だにPVPガチ勢であり、ゲーム内でも著名。

 対して、ナオが輝いていたのは、精々最大レベル55までだろうし、その時期も短い。すぐ第一線退いたし。


『しかも、事あるごとに自慢してくるんです。『撫子はないですけど、私はリアルのナオさんに会ったことがありますからっ!』って。なので……今度のオフ会は必ずご参加をお願いしますね』

『ぜ、善処します』


 何を自慢しているのだろうか?

 少しずつ、オフ会参加網が狭まりつつあるような……。


《ただまー。撮影準備OKだぜ~》


 取りあえず、今は真面目にやろう。

 ……何やらファンも見ているそうだしね。

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