第9話 白魔な非日常その➂

『いいですか? 明日夜8時スタートです。遅れないでくださいね? ナオさんが来ないと戦術構想そのものが瓦解しますので。……逃げたら、そうですね。オフ会で、女装でもしてもらいましょうか。当然、SNSに投稿しますので、そのつもりで』


 よもや、ゲーム世界で、しかも、本人曰く『可愛い女子高生』に脅される事が起きようとは……。

 反射的にGMコールしようかどうしようか半瞬迷ったものの、ミネットさんはともかくとしても、撫子さんやフジさんに迷惑をかけるのは躊躇われたし、ナナちゃんは純粋に喜んでいるし。

 まぁ、今回は従いましょう。ええ。次回以降は知りませんがねっ! もしかしたら、明日になったら決心も変わるかもしれないですしねっ!!

  

 ……と、思ってたのだけれど。


 現在、時刻は夜7時。既に待ち合わせ場所でもある古都の廃教会へナオを移動させ終えてしまった。こういう時、両親が平日夜ほとんどいない身だと、融通がきいてしまうんだよなぁ。

 べ、別に、ミネットさんに言われたからじゃないんだからねっ! と、減らず口を叩こうにも、未だログインはしてきていない。他のフレンド達も同様。

 周囲には、おそらく今回のミッションに参加するプレイヤー達がちらほら。

 当然の事ながら、白魔の姿はない。まぁ昨今の流行から考えれば分からなくもない。おそらく、いたとしても誰かが2アカで出す程度なのだろう。

 端的に言うと……き、気まずい! 誰も話しかけてはこないけれども、ちょくちょく、装備を見られてるし。

 や、止めて! ナオの装備は、典型的なユニクロ装備。貴方達のような廃神が持っているような、ゲームに何かを生贄に捧げて入手したようなレアアイテムは、一つたりとも持ってないからっ! 文句があるなら、あの怖い詩人様か、やっぱり怒ると怖い聖騎士様に言ってっ!


《なぁ、あんたさ。あんたも、今回のミッションに参加すんの?》


 ほら~何か、見るからに廃装備の長銃士が話しかけてきたしぃ。しかも、わざわざ全員に聞こえるように。

 うぅ……放っておいてほしいんだけどなぁ……。


《そうみたいです》

《マジで? そんな装備で?? しかも、あんた白じゃん。何処のパーティに入るんだよ?》

《さぁ? 何も聞いてないんで》

《うわ、マジかよ。頼むから、うちのパーティに入らないでくれよな。白とか邪魔だからさ》

《はぁ》


 ん~……落ちようかな?

 僕は基本的に、ゲームは楽しくやってこそ、と思っている。間違っても、いきなり誰かに難癖をつけられる為ではないし。

 第一、気分を悪くしてまでゲームを継続しようとも思わない。


《はぁ、って何だよ。喧嘩売ってんのか? 白とかカスジョブじゃねぇか。それでパーティの枠を埋めたりしたら効率下がるだろうが?》

《えーっと……》


 あーうー……面倒だなぁ。

 それにしても、ここまで典型的な効率厨がまだ絶滅を免れていようとは!

 いやはや何年経っても最前線は変わらないね。

 ま、いいや。


《それじゃ不参加にしますんで、説明よろしくお願いしますね》

《何だよ、逃げんのか?》

《違います。貴方に回復魔法を飛ばしたくないだけです》

《ああ!? てめえ……白なんてカスジョブ使ってる分際で……》


《あ、ナオじゃん》


 その時、会話に小人族の黒騎士が割り込んできた。背中には見たこともない深紅の大鎌。

 見るからに廃装備。と言うか、それを通り越してヤバイレベル。うへぇ。


《倉さん、こいつと知り合いなんですか?》

《知り合いも知り合い。俺とナオはマブダチなのさー。なっ?》

《知りません。どなたでしたっけ? それじゃ、僕はここらへんで》

《ナーオー、そうつれなくするなよぉ。PVP全国大会を一緒に戦い抜いた仲だろぉ? そんな風にされると、泣くぞ。泣いちゃうぞ? で、俺も最前線から抜けて、お前と一緒に合成の道に走っちゃうぞ?》

《物欲センサーの死神に愛されている貴方が、合成で儲けられるとは思いません。と言うか、そんな事したら僕が撫子さんに怒られちゃうじゃないですかっ! ミネットさんはともかく、撫子さんに嫌われたら……僕は、明日から何を支えにこのゲームをすればいいんですかっ!》

《おおぅ。ねっつれつな告白だなぁ。でもよぉ……それ、本人に直接言った方がいいんじゃね?》


 何を馬鹿な。まだ、撫子さんはログインしてきていない。

 こんなの話したら、間違いなく引かれてしまう。

 ――ナオを突っつく、やはり小人族の女性キャラ。ジョブはおそらく召喚士だろう。

 名前は『向日葵』。ふむ。何処かで会ったかなぁ。

 また、再度突っつかれる。


『ナオさん。今の話、本当ですか?』

『? ……え? もしかして、撫子さんですか??』

『はい。私のセカンドです。今回は、友人にプレイしてもらおう、と思いまして』


 ……ログアウトしよう。そうしよう。

 画面の前で、赤面しつつ枕に頭を押し付ける。そうだよ、撫子さんだって廃神様なんだから、セカンドキャラを育ててもおかくない。


『それで、先程のお話ですが』

『ごめんなさい。許してください。悪気があったわけじゃないんです』

『……私は嬉しかったんですけど。まぁいいです。それよりも、先にしないといけない事がありますから』


 しないといけない事? 

 こら! 倉、ナオに触るなっ! 倉菌に感染するだろうがっ。

 ……撫子さん、どうしてキャラを長銃士の前へ??



《戦術をミネットさんと考案した撫子です。今回のミッションについて、事前説明した通り、このナオさんがNPC専属の回復役です。また、状態異常回復等のサポートにも入ってもらいます。貴方は聞いてもいないし、読んでもいなかったのですか? もう一つ言っておきますけど……ナオさんは、そこにいる倉と一緒に、第一回PVP大会を優勝しています。貴方はこの人以上の貢献が出来るのですね? また、ジョブと人格を貶すようなメンバーは必要ありません。御帰りください》

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る