第8話 白魔な非日常その➁

 本日は金曜日なり。時刻は現在、夜9時半少し過ぎ。

 8時スタートで、ぶっ続けだったので、10分だけ休憩中。

 ハイ、絶賛、ミッション中です。今日中に、古都まで行くそうですよ?

 攻略サイトを見ると、えーっと……どうやら、ボスを@2体も倒さないといけないらしいんですけど。しかも、その間にお使いクエストやら、競売出品不可のアイテム取りもあるし……こ、これで、今晩中!? 

 しかも、ギークさん曰く『11時で終わるからな。何せ、もう歳だからよ、こいつが』『そうなのよ~夜更かしすると、肌が……って死ねっ! あ、あんたも同い年でしょっ!?』。仲がよろしいことで。

 それにしても……廃神怖い……怖いよぉ……。

 いやまぁ、有難い事に変わりはないけれども。

 面子はこの前、ミッションボスを手伝ってもらった人達+ナナちゃん。

 みんな離席かな~? じゃ、お茶でも取りに行きますか。

 その時、撫子さんからチャットが入った。


『ナオさん、突然ですが私のギルドに入りませんか?』

『へっ?』

『古都まで行けば、最前線に追いついた事になります。流石に白でソロは難しいと思いますし。それに、うちのギルドは上手い後衛がいないんです。だから。いえ……これは建前ですね。私はナオさんともっと一緒にゲームをしたいんです』

『撫子さん、ありがとうございます。でも、う~ん……その多分ですけど、僕は最前線でガツガツやる事はもうないと思うんですよね。撫子さんのギルドは攻略組ですよね? 情けない話ですけど、ついていけないと思うんです。あ、一緒にゲームはしたいと思ってますよ?』

『本当ですか?』

『撫子さんに嘘はつきません』

『ありがとうございます。取りあえず、今はその言葉だけで満たされました。ギークさんが言っていたオフ会、楽しみにしてます♪』


 お、♪だ、と……? あ、あの真面目な撫子さんが!?

 2年近い付き合いだけれど、初めて見たかもしれない……。


『ナオさん? どうかしましたか?』

『い、いえ。撫子さんに会うのが楽しみだなぁ、と。因みに僕は全然カッコよくないので……虐めないでください……』

『そうなんですか? フジさんは『カッコいいよ! ……勿論、根拠はないけどねっ』と言われてましたし、ナナさんも『先輩はカッコいいと思う!』と』

『信じてはいけません。特にフジさんの言うことは。何故なら、会った時に、撫子さんから虐められたら僕の心が死ぬからです』

『ふふ。大丈夫ですよ。そんな事言ったら私だって、可愛くありませんから』

『し、信じられません……僕の……僕の中の撫子さんは、とっても綺麗なお姉さんですっ!』

『オフ会、楽しみですね♪ あ、私がもしもナオさんの目から見て、綺麗だったら、ちゃんと褒めてくださいね?』

『ぜ、善処しまふ……』


 オフ会かぁ……あんまし、気乗りはしないけど何かみんな乗り気なんだよなぁ。

 特に撫子さんとミネットさんが前のめりなのは意外だった。

 この二人って、現実とゲームをきちんと分けて考えているタイプだた思ってたんだけど。

 逆に、何時もと異なり後ろ向きなのはフジさん。頑なに『不参加』。

 まぁ、強要するものでもなし。根強くある『踊り子フジの中身は女子高生』である疑惑は晴らしておきたいところだけれど……。

 多分、女の子なんじゃないかなぁ。根拠はないけれども。

 お、ギークさんが戻ってきた。撫子さんが早速話しかける。


「戻り」

「ギークさん」

「ん?」

「オフ会、何時にしますか?」

「あ~俺とライラは何時でもいいけどよ。お前ら、学生だろうが? なら、そろそろ、例の季節じゃねぇのか?」

「?」

「あ~……そうですね。期末試験は、かなり教科が多いから。多分、僕、7月前半はログイン出来ません」

「ああ。試験ですか。でも、普段から勉強していれば大丈夫なのでは?」

「だ、そうだぜ、ナオ」

「ふ……愚問ですね……。不肖、このナオ! 一夜漬けしかしたことありませんっ! あ、でも順位はきっかし真ん中ですよ? 赤点、なんですか、それ?」

「うわぁ……お前、それミネットとかが聞いたら……」

「私が何ですか? 戻りました。ほぉ……ナオさん」

「?」

「今、貴方は私を含め、日頃から一生懸命、勉強してからゲームをしている全世界の乙女を敵に回しました。無駄に要領良くて、どうするんですかっ! そんな、ナオさんには罰が必要です」

「は、はぁ……」


 何をそんなにいきり立っているんだろうか?

 別に上位に入るわけでもなし。これ位、誰でも出来るだろうに。


「主要教科は、英国数理歴ですか?」

「まぁ、そんなもんですね」

「勝負です」

「へっ?」

「私が勝ったら……そうですね、オフ会の時、私へ何かお洒落なプレゼントを持ってきてください。億が一、私が負けたら」

「負けたら?」

「プライベートホームを買ってあげます」

「!? マジですか? あれ幾らすると思って……」

「この、ミネットに二言はありません。ああ、それと」

「ま、まだ何かあるんですか」

「――私の、全国模試の順位は53位です。本気でかかってきてくださいね?」

「な、何……だ、っ、て……?」


 酷い! 一瞬だけ、希望を見させておいて奈落へ落とすなんて……鬼畜の所業!

 ……し、しかも、ちょっとだけ面白かったし!


「ズルいです。私も参加させてくださいっ!」

「撫子さんは、大学生です。駄目です」

「ミネットさんばっかり、ナオさんと遊ぶなんて……」

「別に遊んでいません」

「ただいまー。あ、勝負するんですか? 先輩! 私とも勝負ですっ! 勝ったら、う~んと……とにかく勝負ですっ!」


 みんな、イベント好きだわなぁ。

 まぁ、取りあえず乗っておこうか。



「OK。分かりました。ミネットさん……この勝負、勝たせていただきますっ! ナナちゃんは、後から考えよっか?」

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