第7話 昼休みその➁

「あ、先輩~こっちですよ~こっち~♪」


 金曜日、カフェテリアへやって来た俺と琴、そして宣言通りついてきた宮ノ木さんを見つけた、宮ノ木ななちゃんは大きく手を振ってテーブルを指さした。

 どうやら、先に来て確保しておいてくれたらしい。ありがたや、ありがたや。

 

 ……が、何分、ななちゃんは可愛いので目立つ。


 結果、周囲の視線――八割が野郎。二割が女子である――が俺に突き刺さる。宮ノ木さんと琴も可愛いしなぁ。

 それにしてもこの二人、妙に仲が悪い。さっきから話してはいるのだが、何処かギスギスしている。接点なんかほとんどない筈なんだが。

 琴はいい奴だし、普段は女子仲間ともうまくやってるんだけど……波長が合わないんだろうか? 

 それはそうと、今週はやけに宮ノ木さんとお昼を一緒にしている気がする。

 考えてみると……月曜日からずっとか。

 もしかしてそれが気に食わないのか? でも、カフェテリヤで遭遇するのは偶然だぞ? 

 学校だと猫を被ってるから息抜きが出来なくなるのは嫌なのかもだが……。

 ま、触らぬ神に祟りなし。藪から蛇を出す必要もないだろう。

 こちらに関係ないなら御随意にどうぞ。ただし、お昼時は駄目。だって、折角のお昼が不味くなるから。

 

 ――日替わり定食をトレイに載せ、テーブルへ。


 満面の笑み。この子、一週間、やり取りして分かったんだけど……ほんと、いい子! 宮ノ木さんの御両親は、間違いなく良識ある方々なんだろうな、とこの短い期間で確信してしまう位だ。当然、会ったことはないけれど。

 何にせよ、地獄のレベル上げ合宿によって荒みがちだったこちらの心を癒してもらった。何時か、お礼はしないとなぁ。


「先輩! こんにちは!」

「こんにちは。席、ありがとうね、助かったよ」

「えへへ♪ あ、先輩、後で果物食べます? いっぱい切ってきました!」

「うん。いただくよ」

「はーい」

「……こほん。中ノ瀬君、妹に甘えないでほしいのですけれど?」

「あ、先輩、気にしないでください。お姉ちゃんは、先輩と仲良くなりたいんですけど、私が先行したのをやっかんでるだけ、むぐっ」

「……なな、ちょっとお話しましょうか?」

「むぐっ!」


 微笑を浮かべたまま、宮ノ木さんがななちゃんを連れて、カフェテリア屋外へ出て行く。暑いよ、今日も。

 まぁいいや。先に食べよう。と、その前に。


「琴」

「……何? ロリコン直」

「いきなり酷いっ」

「……何よ。ちょっと可愛い後輩に懐かれて、ニヤニヤしちゃってさ!」

「そりゃするだろ。俺だって健全な高一男子。あれだけ可愛い子が慕ってくれたら、ニヤニヤするわ」

「……ふ~ん。へぇ~。で、つ、つ、付き合うの?」

「いんや。それは今の段階ではないな」

「そ、そっか」

「でも、あの子のお蔭で、荒んだ心を回復させてもらったからな! 何か礼はするつもりだ」

「一気にレベル上げしたのがそんなに辛かったの?」

「うん――あれ? 俺、その話、お前にしたっけか?」

「え、だって、昨日……あ、うん! ほ、ほら、朝、ぼぉーとしてるからどうしたのかな~って。そしたら。月火水は二人……しかも女の子と。木曜日はパーティの高速戦闘だったんだよね?」

「まじか」


 うわぁ……ゲームで心が荒むのは往々にしてある話だけど、それをゲームやらない友人に相談するとか……い、いかん、どう考えても痛い奴一歩手前だ!

 ……言動には気を付けよう。いや、ほんと。

 深々と頭を下げる。


「へ、へっ? な、直?」

「すまん。全然、覚えてないんだがお前に変な話をしてたみたいだ。ま、まぁ心が荒んだっても楽しくはあるんだぞ? 実際、レベルは上がったわけだしな。何より『剣魔物語Ⅱ』はいいゲームだ」

「あ、うん、それは知ってるけど……」

「そか? 何にせよ、すまん。今後は気を付ける」

「……こういう所に気を遣うなら、普段、もっと遣うところがあるでしょ、バカ」

「ん? 何か言ったか?」

「何も言ってない! さ、早く食べよ。どうせ、あの姉妹、きっと戻ってこないから」

「お、おう」


 怖っ。何が、こいつを宮ノ木姉妹に対する敵意――特に宮ノ木姉への――に駆り立てたんだろうか。まぁだけど、触らぬ(中略)。

 ――二人で他愛ない話をして、先に食事を始めていると、5分程して二人が帰ってくるのが見えた。席を立つ。


「直?」

「琴、オレンジでいいか?」

「え、あ、うん――ちょっと優し過ぎると思う!」

「そんな事ないだろ。だって、お前、外は暑いぞ?」

「そうだけど……ま、まぁ、直のそういうところ、あたしは……」


 琴が何か言っていたが聞き取れない。何せ、周囲は人でいっぱいなのだ。

 かきわけ、かきわけ、自販機へ。割高のせいか、そこだけ誰もいない。

 えーっと、紅茶、緑茶、オレンジジュース、それと――


『私、リアルではレモンティーばかり飲むんです』

『はぁ』

『なので、リアルの私にまず渡すのはレモンティーにしてくださいね?』

『まず会う事はないと思いま』

『――今度のオフ会、楽しみにしています。必ず出席してくださいね? 不細工なナオさんをお待ちしています』

『最後に罵られた!?』


 はっ! つい、レモンティーを買ってしまった!

 こ、これが、洗脳か……いかんなぁ。

 ペットボトルを持ってテーブルへ戻る。

 そして、それぞれ渡して行く。

 えーっと、琴がオレンジ。

 ななちゃんは紅茶かなー。

 で、宮ノ木さんはレモンティー。


「「「……」」」

「あ、気に入らなかったら各自交換で。それと、宮ノ木さん」

「に、にゃにかしら?」

「にゃに? ……いやまぁ、いいんだけどさ。お昼の時に、お説教は無しで。琴もな。それだけで不味くなるし」

「ご、ごめんなさい」

「ご、ごめん」

「せ、先輩。どうして、私が紅茶党だって分かったんですか!?」


 ななちゃんが目を見開いて聞いてくる。

 何でって言われてもなぁ……。


「特段、理由はないよ。強いていえば、何となく、かな。あと、レモンティーは洗脳」

「へっ? せ、洗脳ですか?」

「こほん。中ノ瀬君、早く食べないと、次は教室移動よ?」


 おお、そっか。忘れてた。早く食べねば。

 琴、何だよ、その目は? ん? 唇だけ動かして何を?


『この……天然。直のバカ。アホ。無駄に好感度上げるのは犯罪なんだからね!』


 ……理不尽に罵倒された気がする。

 まぁいいや。さっさと食べて、ななちゃんの果物を御馳走になろう!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る