第6話 白魔な非日常その①
ログインすると周囲に見えたのは白い砂地と鍾乳洞。
ここは『叫びの墓所』最深部。ほとんど安全地帯がないこの難所において、数少ないキャラを放置しても大丈夫なキャンプ地である崖上だ。
――地獄のレベル上げ合宿3日目である。
ナオのレベルは、既に71。僅か2日で、6つ上った。確かにここはまだ攻略サイトにも情報が出てない穴場だけれど……うぅ……廃神様怖い……。
さて、まだミネットさんは来ないだろう。基本的に20時前はログインしてこないし。
――はっ! これは逃げ出すチャンスなのでは?
そろそろ、薬品類もなくなりつつあるわけだし……よし! 逃げよう!
確かにあの人と組んでるとまず死なないし、連続してアンデッド系を狩れるからどんどんレベルは上がっていくけれど、戦闘+チャットに忙殺されて、他の事が出来ないし。リアルでスマホをいじる暇すらないって、なんなのだ。と言うか、いじってると怒るし。
『女ですね? 浮気は犯罪ですよ?』
ゲーム越しでも分かる殺気ってあるんだなぁ……廃神怖い。
それはさておき、街へ戻
――『フレンドがログインしました』
――『ミネットからパーティに誘われました』
は、早い。早すぎる。まだキャラクターすら映ってない。
これが、ゲーム用高性能ノートPCを使ってる者と、一般の据え置きゲーム機を使っている者との差だと!?
渋々、パーティに入る。
「こんばんは。街に戻れなくて残念でしたね」
「ばんは。ま、まさか……そんな事は考えて、ごにょごにょ」
「@1上げたら帰りましょう。理論上、そろそろ効率が悪くなりますし」
「ええ……もう、十分上げた」
「足りません。75は必須です。今日を含めて2日で@4。余裕ですね」
「は、発想が怖い! 普通はもう1日で上げられるレベル帯じゃないですよ!?」
「私とナオさんがいれば余裕です。レベル同一システムは中々良いですね。今度から、強化ポイントを貯める時は、ナオさんと組みます」
「謹んでご辞退したく……」
「駄目です。拒否権なんて上等なモノがナオさんに与えられる筈ないでしょう?」
「酷いっ! この天使、外見は真っ白なのに、中身は真っ黒……」
「でも可愛いでしょう? 時折、写真撮ってますよね?」
「!? に、にゃぜ、それを……」
「女は視線に敏感なんですよ? さ、とっとと上げましょう」
女の子って……い、いや! みんながみんな、この人みたいな筈はない! あ、でも、撫子さんとか、同じ気配をちょっと感じるかも。
そんな事を考えながら、強化魔法をナオとミネットさんにかける。装備は、何時ものMP重視ではなく、近接戦特化。ふふふ、今宵もナオの片手杖が火を噴くぜ!
ミネットさんも、演奏と歌唱でキャラ強化。うん、1曲がMP回復は分かるけど。残り3曲が、攻撃特化とはこれ如何に?
「――釣ります」
「あいあい」
ミネットさんが、眼下で群れている小怨霊の一匹だけを釣る。
相変わらず、凄い。慣れてないと、全部引っかけてその段階で死亡確定なのだけれど。今日まで、一度も失敗してない。
小怨霊が、崖を浮遊してこちらにやって来る。その間に、麻痺・攻撃間隔遅延・魔法封じ・聖魔法を叩きこんで弱体化。スリップ系魔法はあえてしない。寝かせる事が出来なくなっちゃうし。ソロ・少人数変則レベル上げの際はあくまでも安全第一が基本なのだから。
さて、ナオで攻撃を――ミネットさんが前衛に入り、片手剣を振り下ろす。攻撃間隔速っ! 見る見るうちにHPが削れていく。勿論、小怨霊も反撃してくるけれど、それはこちらの仕事。HPが赤字にならないように調整する。
『叫びの墓所』最深部には基本幽霊族しかいない。当然の如く、全種HPが赤字になると反応する生体感知+リンク習性持ち。ミッションでここに多人数で進軍すると、誰かしらがひっかかり、阿鼻叫喚の地獄と化す。
幽霊族は、白魔がいれば聖魔法で弱体すれば戦えない事はないけれど、戦う事は稀だし、ミッションボスも、幽霊とはまるで関係がない一般モンスターなので、白魔はファーストチョイスにならないのだ。まぁ、だからこそ僕はここで引き籠ってソロでレベル上げしているのだけれど。静かだしね。
――2人がかりでタコ殴りし、程なく小怨霊が倒れる。
入ってきた経験値は、通常の適正モンスターと同じ。けれど、明らかにHPが少ない。まぁ、運営サイドもよもや白魔がこんな所で、非常にリンクし易い小怨霊をソロで狩る、とは思ってなかったのだろう。
ふ、このご時世でも白を貫く人間のぼっち力を甘く見てはいけないぜ!
……べ、別に、強がりなんかじゃないんだからねっ!
そんな事を思っていると、ミネットさんが次を釣ってくる。ソロだと、連続戦闘はまず無理だけれど――2人だと、と言うかミネットさんと組むと永久ループで戦闘可能になる。良い子は真似しちゃ駄目です。これは、この天使様が廃神だから可能になる芸当であって、普通は無理。と言うか、僕がここで安定的にレベル上げが出来るようになるまでに、何日をかけたと……廃神怖い。
延々と狩っていく事、約1時間。ファンファーレの音と共にナオがレベルアップ。うぇぇぇ。
「……予定より少し遅いですね。さ、戻りますよ」
「あ、その後は解散」
「の筈がないでしょう。不本意ですが、撫子さん達にも声をかけました。ここから先は高速戦闘で上げます」
「ハハハ。御冗談を。撫子さんは、確か木曜日はログインしない日――」
「先程、事情を説明したら『分かりました』の即答でしたが?」
「……リアルの連絡先知ってるんデスネ」
「勿論です。フレンド内で私が知らないのは――いけずな誰かさんだけですので」
「ゲームとリアルは分けたい教の信者なので……」
「異端ですね。討伐します」
「さ、最後の一兵になるまで戦う所存……!」
「まぁいいです。遅かれ早かれ、ですし」
うぅ……この天使様怖いよぉ……。
だけど、75までは@3つ。次のレベルアップに必要な経験値は膨大。流石に間に合わないんじゃないかなぁ。
「では戻りましょう――75までは無理と思っていますね? その幻想、うち砕いて差し上げましょう!」
結果――今日で75になりました。明日は、更に上げるそうです。
廃神様達は集まると不可能を平然と可能にするんだからっ! そろそろ規制されて然るべきだと……あ、無理ですか。そうですか。
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