第2話 白魔な日常その①

 白魔術師にして錬金術師である僕のキャラであるナオは案外と毎日忙しい。

 ふふふ……白魔術師は世を忍ぶ仮の姿。その正体は! 日々、消耗薬品を作っては売り、作っては売り、で小銭を稼ぐ、金の亡者なのだ! 

 いや、オンラインゲームで定期的な金策は大事。ほんとに。

 ログインしたら、競売を確認して、薬品類の売れ行きをチェック。

 今日は、HP、MP、状態異常回復系、その他諸々が消耗品が品薄気味。しかも同じ名前の人が買い占め中。

 ナオが今、本拠地にしている商都『アクアフォレスト』。

 『剣魔物語Ⅱ』の世界では、既に最前線とは言えないけれど、未だに多くのプレイヤーが本拠地にしている経済の中心で、競売に出品されている物品の量、質共に他を圧している。主要各国への飛空船と、他独立都市への転移ポイントもあって動きやすいし、街自体も広すぎず、狭すぎず。色合いも、海の青と植物の緑が目に優しく、木造の建物が何か良い。昔は、プレイヤーが余りにも多過ぎて、回線が重たかった時期もあったけど。

 それにしても、ここまで大規模な薬品類の買い占めかぁ……。

 

 どうやら、廃神様達がまた何かに挑むらしい。しかも、一ギルドじゃなくて、多分、複数連合で。

 

 HP・MP回復は作る人がいっぱいいるだろうから、さて、何を作ろうか?

 現在の最先行組がいるのは古都『カランオスト』。色々、聞いた話だと、出現モンスターはアンデッド系が多いらしい。

 

 ……と、なると、状態異常回復系がいいかなぁ……。

 

 骨、幽霊、ゾンビ辺りの親玉だろうから、何だろうなぁ。しかも、すぐにはけて、かつ、そんなに量産がきかない物。

 んー、どうしようかなぁ……古都にいる人に聞いてみようかな? えーっと、今いるのは――通知音がして『フレンドがログインしました』。

 部屋の時計は示す時間は夜の8時。何時も通りですか。

 ……普通にMP回復でも作ろう。そうしよう。細かい作業は無理だろうし。

 材料は、自分の倉庫にあるな。今日は延々と薬品を売って、お金を稼ぐ日にする! 

 はい、決定! さ、では作業に取り掛ろう。

 アイテムを選び合成を開始――直接チャットが飛んできた。早いな……。

 

『こんばんは、ナオさん。数日、私がいなくて寂しかったですか?』

『ばんはー。いいえ、別に……』

『嘘を言わなくてもいいんですよ? 時には素直になるべきです』

『正直、翌日、大雨を降らしたのは流石だと思いました! 次は雪ですね!』

『……今度、一緒にパーティ組む時は後ろに気を付ける事です』

『えーっと、ミネットさんは何時から暗殺者に!? まぁ似合いそうですけど……それはそうと、リアルの用事は終わったんですか? ほぼ、毎日皆勤賞な貴女がログインされないから、ギークさんとかに『……何か、連絡ないか?』って聞かれたんですけど』

『似合うってなんですか、似合うって。『吟遊詩人』を止めるつもりはありません。それと、次やるジョブは決めてます』

『分かった! 白魔ですね! 専用装備、可愛いですもんね。その時は、大先輩である僕が手取り足取り教えてあげますよ!』

『ふっ』


 失笑された、だ、と!?

 ぐぐぐ……でも、でも……白魔だって、いいところはある!

 た、確かに他後衛職にも、これだけHP回復やら、状態異常回復が出てきていて、かつ最大の売り物である蘇生魔法ですら、アイテムで代替出来てしまう現状の壁は大きい……だ、だけど、大回復は白魔の特権だし! ダメ緩和だって白魔が一番優れているし!

 いやまぁ……前衛の『盾』役主流である、大楯持ちの『聖騎士』と、避ける『盾』である剣舞士は、そこまで大ダメを負わない事が前提だから、『白不要論』にも一理はあるんだけどさ……。

 でもでも、僕は白魔が大好きだし、このまま己の道を行くのだ!


『用事の方は終わりました。今日から復帰します。取りあえずギークさんには、後で何か贈っておきましょう』

『自決用の超毒薬とかは止めましょう。あの人、ボス戦前なのにネタで飲む人ですから』

『何を言ってるんです。それが面白いんじゃないですか』

『こ、怖い……天使様なのに……ああ、そっか。ミネットさんは、黙示録に出て来る天使様でしたもんね。人を滅ぼしにかかる方』

『……今から、小人族だけ滅ぼし――こほん。捕獲して愛でましょうか?』

『僕の一言で、民族存亡の危機が!?』

『だいたいですね……何で、小人族なんですか? そこは人として人族を選択すべきなのでは? 名前もナオだし。分かりやすすぎるんですよ』

『へっ? あの、意味がよく分からないんですが……』


 ログを確認して、文脈を確認。うん、分からん。

 さーて……そうこうしている間に、MP回復薬の量産も終わったし、せっせと競売に出そっと。

 僕の操作しているナオは、人の半分以下の背丈しかない小人族だ。筋力や敏捷性には劣るものの、魔力とMPに優れていて、後衛向きの種族、とされている。あと可愛い。とにかく可愛い。

 まぁ、2年余りやってみた感想としては……技量と装備で大概は埋め合わせはきくってこと。ただし、一般人世界においては。

 ミネットさん達みたいな、装備・技量共に、人を辞めちゃってるような人達――所謂、廃神さん達の世界になると、紙一重な世界なので、種族はかなり重要らしい。僕は一般人だから詳しくは知らない。まぁでも……ギルドにジョブまで指定されるのはちょっと嫌だなぁ。


『何でもありません。忘れてください。そう言えば――ナオさんは東京に住まわれているんでしたっけ?』

『そうですよ。大都会東京ですよ! 23区外ですけどねっ!!』

『そうですか。私も、先日から東京に来ましたので。これで――オフ会開催出来ますね? 楽しみです。ナオさんはさぞかしカッコいいんでしょうから』

『…………過去の発言に関しまして、陳謝及び撤回させていただきたく。でもそれを言うならミネットさんだってそうじゃないですか! 自分のこと、凄く可愛い、なんて言って』

『凄く可愛いですから。客観的な事実を述べたまでです。今日も転校先の高校で隣に座る男の子から、一日中嘗め回すように見られましたし……最低、変態、犯罪者! 私が気になるならもっと話しかけてくるべきです。ど・う・し・て、朝の挨拶だけなんですか! ヘタレです。何となく分かっていたけどヘタレです』

『……何故か、僕に対して言ってるように感じるんですが、それは』

『潜在意識が既に本当の姿を認めているんでしょう。それでは、私はこれからミッションボス戦の作戦会議ですので。ああ、MP回復薬、あるだけ送っておいてください。どうせ、量産されたのでしょう? 定価の2割引きで買います。そして、それを私はギルドメンバーに定価で売ります』

『……あれ? それって、ミネットさんが楽に儲かるだけなような……』

『送ってくれないのですか?』

『送りますけど』

『分かればよろしい。ログアウトしないでくださいね。どうせ、会議は暇なので』

『リーダー……真面目にしてください……』


 作成したMP回復薬をポストから、ミネットさんに送る。

 あ、ついでに、『呪い』『毒』を同時に直す、『神水』も送っておこっと。どうせやってくるだろう、多分。

 数日ぶりなのに平常運転だなぁ……。今日もこの世界はほんと平和だ。

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