第1話 転校生

 朝起きて、御飯を食べて、今日も今日とて学校へ。

 僕は中学受験をしたので、高校受験はしていない。

 今の学校を選んだ理由? 

 とにかく、家から近かったから! 歩いて10分は魅力過ぎた。

 学校の雰囲気も、何処かふんわりゆったり。天才? 秀才? 何それ美味しいの?? な僕からすれば、悪くない学校だと思っている。

 ここ数日は夜更かしもしていないので、最近兄に対して厳しい妹が起こしに来る前に起きれているし、うん、僕はやっぱりやれば出来る子だ。

 まぁ、妹の機嫌が何故か日に日に悪くなっているような気がするけれど……。

 女心と秋の空? だったかな? 僕が理解するには難し過ぎる。

 構えって事か、と誤解した時もあった。でも同じ学校へ通っているのに一緒に登校は絶対にしない。時間をずらせ、と言われるし……訳が分からない。

 そう言えば、ミネットさんもあの日以来、ログインしてこないなぁ。あの廃神様が……雪は降らなかったけど、翌日大雨だったし……。まぁ、中身が本当に女子高生とは限らないけれど。

 天気ですら、驚愕させるなんて流石廃神。僕にはとてもとても真似出来ない事ですよ、ええ!

 つらつらと、考えつつクラスに到着。挨拶を交わしながら、窓際の自分の席へ。 一ヶ月前、ここを引き当てた時は喝采を叫んだけれど……考えてみれば、これから暑くなるばかりじゃないですか。やーだー。まだ、6月なのにやたらめったら暑いし……こんなんで、夏になったらどうなるのだ……焼けちゃうよ……。


「なーお!」

「わっ!」

「おはよー。ねーねー、見て見て!」

「……琴、朝からお前はテンション高いなぁ。おはよ。で、何だよ?」

「んー!」

「ん?」

「んんー!!」

「んん?」


 突然、クラスの扉が勢いよく開き、僕目掛けて、ショートカットの女の子――小学校からの腐れ縁、恋ヶ窪琴がやって来た。相変わらず背が高くて、すらっとしている。男よりも女の子にモテるタイプだろう。そう言えば、今年のヴァレンタインデーでも、僕に数倍するチョコを……いけない。これは、封印した筈の極秘事項だ。

 そんな琴が僕の前で仁王立ちし、何かを要求している。

 ……いや、分からんて。

 分からない事は素直に聞くのは一番。


「分からん。どうした?」

「もー! これだから、中ノ瀬直君は困るよねー。ほら、前髪も2mmも切ってみたんだよ! ねね、似合う?」

「難易度が高すぎる! 無理ゲー」

「世のモテる男子は分かるらしいよ?」

「なん、だ、と……?」


 馬鹿なっ! 奴らの戦闘力はいったい、いったい、どうなっていやがるんだ!?

 ……ふ、ふん。いいさ。男は外見じゃない。中身。そう中身で勝負サ。

 さーて、一限目は何だったかな。ああ、漢文か。よし、寝ても――


「多分、出来る男は寝たりなんかしないよ思うなー。そう言えば、直、最近、顔色が良いね! 何時もは眠そうなのに」

「琴、誰が寝るなんて言ったんだ? さ、用が済んだんなら、とっととクラスへ帰れ! ここ数日は夜更かししてないからな」

「あーまだやってるんだ、ゲーム。何だっけ? 『剣魔物語Ⅱ』だっけ? で、直は、本編中々進めなくて止まり気味だけど、自称女子高生と夜な夜なチャットして、ニヤニヤしてるんでしょ?」

「語弊が過ぎるっ!? あれ? でも、ゲームとミネットさんの話ってお前にしたっけか?」

「あ……うん、してたねー。ニヤニヤしながらしてたねー。気を付けた方がいいねー」

「そ、そうか……以後、気を付けます。じゃなくてっ! 俺はあくまでも純粋にゲームを楽しんでいるだけ! で、チャットはコミュニケーション手段なの!」

「へーへーへー」

「ぐっ……いいだろ。別にお前に迷惑かけてないんだから。好きにさせろ!」

「……むしろ、迷惑かけてほしいんだけどな」

「はぁ? 今、何か言ったか?」


 ぼそぼそ、と琴が呟く。時折、こうなるんだよな、こいつ。

 それにしても、無意識でミネットさんの話をしてたか……い、いかん。本当に洗脳されつつあるのではないか?

 幾ら何でも、オンラインゲームのフレンドと、毎晩、延々とチャットしてるのを友人に打ち明けるなんて……あ、何か、鬱だ。今日は帰りに、コンビニでちょっと高いアイスでも買って帰ろう。そうしよう。


「と、とにかく! 直はもう少し色々と勉強しないと駄目だねー!」

「はいはい。ほれ、帰った帰った」

「当てられたら……折角、耳よりの情報を教えてあげようと思ったのに」

「ほぉ。ふむ……この流れ……転校生でも来るのか?」

「!? ど、どうして分かったの……!」

「だって、俺の右隣に空いてる席が出来てるじゃないですか。つーか、みんな知ってるし。だよなー?」

「なっ!?」


 周囲にいるクラスメートに声をかけると「だな」「あ、俺、美少女希望!」「死ねばいいのに」「私は逆に美少年希望ー」「死ねば」「……ああ?」「ごめんなさい……」と、愉快な回答が返って来た。うむ、今日も平和だ。

 おや、どうした琴?


「な~お~!」

「ははは、まだまだ甘いですなぁ、恋ヶ窪琴さんは。あ、髪似合ってる」

「……そ、そういうとこ、ちょっとズルイと思う! もう、後でね!」


 そう言うと、のしのし、と帰って行く。後ろ姿はやっぱり、女の子だよなぁ。

 ほぼ入れ替わりで、A組担任の、小っちゃい萩原先生が入って来た。


「おはようございます。ホームルームを始めますよー」

「萌絵ちゃん、おはよー」

「萌絵先生、転校生を早く早く!」

「!? み、皆さん、どうして、その事……ごほん。いいですよー。宮ノ木さん入って来てください」

「はい」


 涼やかな声と共に入って来たのは――字義通りの美少女だった。

 顔は小さく、全てが調和しており、琴程、背は高くないもののスラリとして、スタイルもいい。髪は綺麗な栗色で肩まで伸ばしている。

 思わず、見とれてしまう。

 はー本当にこんな女の子が世の中にいるもんなんだなぁ……ぼぉーと眺めていると、一瞬だけ視線が交錯した。


「今日から、皆さんのクラスメートになります、宮ノ木ねねさんです。自己紹介を――宮ノ木さん?」

「あ――はい。宮ノ木ねねです。中途半端な時期の編入ですが、これからよろしくお願いします」

「席は、中ノ瀬君の隣ね」


 クラス中から予定調和のブーイング。

 ははは、いいぞ、代わってやっても。ただし、これから、夏が来ることを忘れるなよ君達。今年は猛暑らしいぞ?

 宮ノ木さんが、歩いて来て隣に座った。軽く会釈。


「中ノ瀬直です。まぁ、よろしく」

「…………へ?」

「? 宮ノ木さん? どうかした?」  

「あ、え、あ……よ、よろしくお願い、します……」


 こちらから目を背け、ぎこちない美少女。

 それを見ていた周囲からは野次。ええぃ、うるさい! 何も身に覚えがないわっ!

 ……いや、本当にないんだって。  

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