女神はタヌキを居なかったことにしたい
「今日は唐揚げ日和ですね。唐揚げを作るにも食べるにもベストコンディションですよ。なんたる唐揚げ。こうなったら全ては唐揚げなんです。世の中は2つに分けられるんです。唐揚げか、唐揚げじゃないか。今日は完全に唐揚げなんですよ。そりゃあ唐揚げときたら・・・・・・」
「何言ってんだコイツ・・・」
「・・・何を言ってるのか分からないポコ」
タヌキと名乗った女の子を部屋に上げ、俺となゆたんの3人でちゃぶ台を囲っている。女の子が何者なのかを確認したいのに、なゆたんがいきなり唐揚げがどうのこうのと訳の分からないことを・・・・・・
「ダメですって
「いや、なゆたんこそ、いきなり訳の分からないことを言わないように」
「話なんてでっち上げれば良いんですよ。タヌキがやってきたとしても別なことを話しまくれば、たとえ傍にタヌキがいようとも、文書を読んでる人からしてみたら居ないも同然になりますからね!」
「文章を読んでる人って誰だよ!いやちゃんと目の前の現実を直視しろ!」
そうは言ってみたものの、目の前の現実はタヌキと名乗る女の子が居る状況だ。なかなか現実を直視しづらいね。でもまあ女神に比べれば、タヌキが人に化けて出てくるほうが現実的か。ん?本当に現実的なのか?
そんなことを考えていたら、なゆたんがまたおかしなことを言い始めた。
「このまま何事もなかったように進められるはずだったんですけどね。こんだけ前回の更新から間があったら、誰も覚えていませんって」
「前回の更新って何のことだよ!」
「オラもずいぶんと間が空いたので、ちゃんと口癖をつけてキャラ付してきたポコ」
タヌキまでおかしなことを言い始めたぞ。
「豪牙さんは謝っておいたほうが良いですよ」
なゆたんにそんなことを言われると、謝ったほうが良い気がしてきた。なんかすみませんでした。すると、なゆたんは再びタヌキの話題に戻した。
「それより何よりこのタヌキです。私が新キャラの登場を心配した途端にこれですよ。そんなにヒロインの座を奪い取りたいのか、この女狐が!」
「タヌキだけどね」
「オラはお礼が言いたかっただけポコ」
タヌキがすまそうな顔をしている。
「本当にあのタヌキなの?」
「そうポコ。一緒に過ごしている間になゆたん様が使っている変身能力のコツを覚えたポコ」
「え?なゆたんって変身して人間になってるの?」
「いえ。私はもうこの人間の形に定着しているので、これが私本来の姿です。ただ神というのは特定の形に定着しないモノも多いんです。両親の特性を強く受け継いだ場合は、その親の姿を引き継ぐこともありますけどね。普通は人間の世界でいうモヤみたいな不定形に生まれてくることが多いんですよ。それから成長して1つの姿に定着するモノもいれば、複数の姿に変身できるモノもいます。さらに普段はモヤのままでいて必要に応じて姿を変えるモノもいますから様々ですね」
「なゆたんもモヤみたいなものから今の形に定着したの?」
「・・・そう・・・・・・ですね。まあ私の場合はほぼ人型で生まれてきましたが。子供のころに今の顔や姿に定着させようと思って、それからずっとこの体で成長してきたんです。だから今の姿が普通なんですが、タヌキからしてみたら変身しているように思えるかもしれませんね」
この話を続けている間、なゆたんはじっと俺のことを見続けていた。いや、話が終わってもこっちを見ている。その目が悲しそうでもあり、何かを思い出しているようでもあり、嬉しそうでもあり。複雑な事情でもあるのだろうか。
「・・・豪牙さん」
「何?」
「・・・いえ。何でもありません」
そう言うと、なゆたんはまたいつもの表情に戻ってタヌキに問いかけた。
「それでわざわざ人間に化けてまで、何が目的なんですか」
「お・・・お礼を言いにきたポコ・・・・・・」
「わかりました。お礼は聞きました。それではお帰りください」
「おいおい。さすがにちょっと冷たすぎるぞ」
タヌキはプルプルと震えながら、それでも意を決したように力強い目をして不思議なことを言い出した。
「オラの・・・な・・・名前をつけてほしいポコ!」
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