女神とタヌキと食材と
買い物の帰り道、女神のなゆたんが思いもよらぬモノを見せてきた。
「ほらほら
なゆたんの腕には、物凄い勢いで震えているタヌキが抱えられていた。良く見ると血を流している。動物病院に連れて行くと「骨に異常はありませんが少し傷が深いですね。それにかなり衰弱が激しいです。何日か安静にしてください」と診断された。
かわいそうなので家に連れて帰ることにした。食べるつもりは全くないよ。なゆたんは着くまでの間ずっとヨダレを垂らしていたけれど。
家に入ろうとした瞬間、
「ギィヤァァァアアアア!!!」
とタヌキが大きな悲鳴を上げながらビリビリと電気ショックのようなものを受けてしまった。骨まで透けているあの感じだ。
「ああ。うっかりしてました。タヌキさんも通れるようにしないと」
「何をしたんだよ」
「家に変なものが入ってこないように、ここに住みはじめるときに結界を張っておいたんですよ。何事もなく平和だったのですっかり忘れてました」
家に入ってからもしばらくタヌキはぶるぶると震えていた。そりゃそうだ。食べられそうになった挙句、電撃ショックまで喰らったんだから。
良く眺めてみると丸っこくて可愛らしいタヌキだ。上目づかいでモジモジしている。さっきから怖い思いをしているだろうから、とりあえず抱きかかえて撫でてみた。最初は震えていたけれど、次第に落ち着いてきたみたいだ。
「豪牙さーん。早くつまみを作ってくださいよー」
なゆたんはそういうと、自分の腕からタヌキを取り上げて遊び始めた。
「怪我してるんだから、あんまり無茶させるなよ」
最初のうちは怯えていたタヌキも、次第になゆたんにも慣れるようになった。つまみを与えてみると好き嫌い無く食べるし、ビールなんて両手でコップを掴んでチビチビと飲んでいる。
そんな感じで1週間くらい一緒に生活してみたら、タヌキはすっかり元気になった。元々おとなしい性格なのかモジモジしてることが多いけど、俺たちに警戒することもなく部屋でのんびりくつろぐのが日課になっていた。ときどき、なゆたんがヨダレを垂らしながら見つめているときだけはガタガタ震えているけどね。
ただ野生のタヌキだろうし、元気になったんだから元へ戻した方が良いはず。なゆたんに拾ったところまで案内させると、そこは木が生い茂った5階建てビルくらいの高さの小高い丘にある神社の下だった。
「そういえばここに神社があったね。階段を上るのが面倒だからお参りしたことなかったよ」
「この階段の下に居たんですよ」
タヌキを階段にちょこんと乗せてみた。タヌキはしばらく俺たちのことを上目づかいでじっと見つめた後、ペコペコと頭を下げてから階段を駆け上がっていった。途中で何度も何度も振り返り、そのたびにペコペコと頭を下げているのが印象的だった。
「懐いてくれたからちょっと寂しいね」
「また来れば会えると思いますよ」
「そうかもしれないね」
何の根拠もなかったけれども、また会える。そんな気がした。
数日後。
いつもの通りぼんやりと家にいるとチャイムがなった。玄関を開けると、そこには童顔で可愛らしい女の子が立っていた。なゆたんと同じくらいの年齢に見える。
「何か用があるのかな?」
「・・・えっと・・・・・・その・・・」
女の子はモジモジしながら上目使いで俺を見ているだけで、はっきりとしゃべることができなかった。すると部屋から出てきて自分の横をすり抜けたなゆたんが女の子に向かって指をさしながら目を輝かせて言った。
「今夜の食材ですううううう!!!」
「ち・・・違います!こ・・・こ・・・この間お世話になった・・・タ・・・タヌキです・・・・・・」
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