女神は酔うとかわいすぎる

 酒もだいぶ進み、なゆたんは質問にも素直に答えてくれるようになった。なゆたんが何の女神なのかを聞いてみた。


「我は森羅万象を司る全知全能の女神なゆたん!この世のすべてを支配する者!」


 高らかに名乗っているけど、やっぱり俺の方を向いてない。なぜ誰もいない方向にビシッと決めポーズを取るのだろう。それに毎回ちょっとずつポーズも言い方も変わっているのが気になる。どうせなら毎回同じにしたほうが浸透しやすそうなのに。


豪牙ごうがさんが信じてない気がします」

「漠然としているからさ。水とか炎とか幸福を呼ぶとか神様って具体的な特性があるのが一般的な気がするんだけど」

「私にはまだ無いんですよ」

「まだ無い?」

「神は2種類います。生まれつき特性を持っている者と、決まった特性を持っていない者。自分は後者ですね」

「みんな生まれつき特性を持っているものなのかと思ったよ」

「生まれつきの方が少ないですよ。特性を持っていない者は、自分がどのような神になりたいか探すんです。長いこと暮らした土地に根付くこともありますし、人が愛着を持って長年使っている物に宿ることもあります」

「なるほど」

「ここに来たのもそれなんです」

「どういうこと?」

「私たち神には人間と同じように学校があります。たいていは人間でいう小学校を卒業したら神として活動するんですけどね。ただ、もっと専門的なことを学ぶ上級学校というのがありまして、人間でいう大学や大学院みたいなものなんですが、私の場合は最近になってそこを卒業したんですよ」


 なゆたんはそんな立派な学校を卒業していたのか。その割に行動がおかしい気がするけど、常識的なことを学び忘れているんじゃないかなあ。


「それで?」

「無事に卒業しまして女神としての活動がスタートしたんです。天界に残る者もいましたが、同級生たちで何人かは下界に来てますよ。私もその1人です」

「じゃあ今は何の特性を得るのかを探しているところなのかな?」

「そんな感じです」


 なるほど。神様の就職活動と新入社員研修みたいなものかな。でもそうなると、何で俺の家に来たのだろう。


「我が社への志望動機は?」

「え?なに言ってんですかwww頭ウジ虫wwwwww」


 伝わらなかったようだ。恥ずかしい。気を取り直して。


「神様の特性を探しているのは分かった。でもなんで俺の家に来たの?」

「それは・・・・・・まあどうでも良いじゃないですか。そんなことは」

「いやいや、気になるでしょ、そこは」

「うーん。まあ・・・・・・派遣先がここだったから来たんですよ」

「派遣先?」

「はい。特性を見つけるからといって自由に好きな場所に行けるわけじゃないんです。私の場合はここに割り振られました」

「へえ。偶然なんだね」

「まあ・・・・・・そうですね」


 なゆたんにしては珍しくはっきりしない口調だったけれど、このときは特に引っかかることもなかった。


「とにかくもっと飲みましょう!つまみも無くなりそうなので作ってください!」

「まだ飲める?」

「大丈夫ですよ。パーティーなんですよ。もっと飲みましょうよ」


 気になることも聞けたし、俺もまだ飲みたい気分だったので台所へ向かうと後ろからリクエストが飛んできた。


「さっぱりしたものも食べたいですが、ガッツリしたものもまだ欲しいです」


 リクエストが飛んできたというのは、なゆたんの声が聞こえたという表現ではない。500ミリペットボトルくらいのミニサイズのなゆたんが俺の目の前で、さっきのリクエストが書かれた旗をぶんぶんと振っている。たぶん俺が酔ってるわけじゃなくて神通力でこんなことしてるのだろう。わかった、わかったから。旗が顔に近い。てか顔に当たってイダダダダダ。

 ミニなゆたんを帰らせたのち、軽くつまめる和え物とガッツリ食べられるパスタを用意して、なゆたんの元へ戻った。


「おまたせー」

「思ったより早かったですね。本当に料理が得意なんですね」

「そういう訳じゃないけど、一人暮らしをしてるし。いまどきメニューなんてネットを使ったら調べられるよ」

「それだけじゃこんなに美味しくならないモグモグ。火加減とか味の調整はネットの情報だけで上手くいかないモグモグ。凄く私の好みの味付けモグモグ」


 料理を置くやいなや、次の瞬間にはもうなゆたんの口の中に入っていた。これだけ喜んでもらえると、作った俺も嬉しくなる。でもパスタの横には本マグロと和牛ステーキがまだ残っていた。


「なゆたん。まだこれ余ってるよ」

「私はもう良いです。その2つは豪牙さんが食べてください」


 思い返してみると、なゆたんはどちらもそんなに手を付けず、自分ばかりが食べていたような。


「俺がけっこう食べちゃってるし、なゆたんも食べなよ」

「私は豪牙さんが作った物を食べますから。というか豪牙さんが作った料理が食べたいんです」

「本マグロと和牛が食べたかったんじゃないの?スーパーで買って欲しかったって言ってたでしょ」

「少しはそう思ってましたけど、豪牙さんに食べてほしかったんですよ」

「俺に?」

「せっかく私と一緒に暮らす記念なんですよ。立派な物を食べてお祝いしたことをずっと覚えておいてもらわないと」

「それだったら、なゆたんだって」

「私は忘れないですよ。豪牙さんの料理を食べさせてもらってますから」


 こんなかわいらしいことを言うなんて。ずっとふざけたことばっかりだったくせに。酔っているのか、なゆたんのホホが赤く染まっている。両足を崩して横にそろえて座る姿が少し斜めに傾いていて、それもまた魅力的に感じてしまう。仕草もなんだか妙に色っぽい。これって・・・めちゃめちゃかわいい。かわいすぎるぞ。

 いやいや良くない良くない。なゆたんは一人前の女神になるためにやってきたんだから。なぜだかわからないけど、この家が天界から選ばれたみたいだし、俺も真面目に応援してあげなきゃ。変なことを考えるんじゃない。この胸に感じる思いは気のせいだ。この胸の刺さる感じは気のせ・・・ん?


「なんだこれ!胸に何かささってる!」

「いやー。私ちょっと良いこと言っちゃったなと思って。気持ちのフラグが立ちそうだったから、神通力で胸に矢を刺しときました」

「物理的にかい!いやこれ大丈夫なの?死なないよね?!」

「たぶん」

「たぶんってなんだよ!何とかしろ!」

「あはは。慌てないでください。大丈夫ですよ今から抜きますから。ほらっ」


 なゆたんが指先を動かすと、胸に軽い衝撃が走った。


「2本目!刺さってるから!増えてるから!」

「あはははは。豪牙さんは本当に面白い人ですねえ」


 うーん。取ってくれないでまた飲み始めてるんだけど。本当に大丈夫だよね・・・・・・


 この日は夜遅くまで飲み続けて、いつの間にか眠ってしまった。翌朝、目が覚めると心臓の矢は3本に増えていた。なゆたんにお願いしてなんとか矢は抜いてもらった。飽きるまでに追加であと5本刺されてからだったけどね。

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