女神のつんつんはお高すぎる
「せっかくですから
女神だと言い張るなゆたんという名前の女の子。勢いに押されて一緒に暮らすことを許してしまった。これからどんな生活になるのか全く予想がつかない。それより無事に生きていけるのだろうか。さっきも高速回転で気を失ったばかりだし。
「パーティーなんて、こんな狭い家じゃ何もできないよ」
「そんな大それたことをしたいわけじゃないです。美味しいものを食べながら、一緒にコレを飲みましょうよ」
なゆたんは背中のビール樽をペシペシと叩いている。
「それ、何が入ってるの?」
「ぶはっwwwビール樽にはビールが入ってるに決まってるじゃないですかwwww豪牙さんもう酔っぱらってるんですかwwwww」
「いやさっきから目を攻撃されてるから、そういう使い方をするものなのかなと思っ・・・・・・」
言い終わる前にまたあの痛みが襲ってきた。
「これはオプション的な使い方ですよ。ビール樽なんですからビールが出てきますよ。ずっと冷えてて美味しい女神仕様です」
さっきから食らいまくってる泡ビームのおかげで、冷えてるのは身を持って体験している。非常に飲み心地は良さそうだ。しかし自分は成人しているから良いけれど、なゆたんはどうなのだろう。
「なゆたんはお酒が飲めるの?」
「神www酒wwww人間の供物wwwww」
「たしかにお神酒の風習があるよね」
「神はお酒が大好きですよ」
「でも、なゆたんって見た目が高校生くらい、下手したら中学生に見えてもおかしくはないと思うんだけど」
「女子高生って設定にしても良いんですけどね。実際は豪牙さんと同じくらいの年齢ですよ。だから日本のうるさい法律も問題ありません」
「俺と同じくらいなの?そうは見えないなあ」
顔つきが幼いからだろうか。行動がおかしなせいだろうか。とても大人の女性には見えない。でも神様は長生きのイメージがあるし、もしかしたら人間よりも見た目の成長速度が遅いのかもしれない。
「じゃあ、なゆたんの歓迎会をやるか」
「シソ!」
「え?何かの呪文?」
「違いますよ。シソが食べたいです。シソを所望します」
「シソねえ。刺身にそえれば良いの?」
「それはそれで食べたいですけど、シソを使った料理を食べたいんです」
「シソの料理ねえ。なゆたんは作れるの?」
自称女神は口笛を吹きながら斜め上を見上げている。これは確実に俺が作れということだろう。
「作れないことはないけど、いま家にシソは無いなあ」
「じゃあ買い物に行きましょう!」
「ああ。じゃあ今夜のご飯の食材を買いに行こうか」
「つまみですよ。つ・ま・み!」
飲む気まんまんなのが伝わってきた。神様は本当に酒が好きなようだ。
さっそく俺となゆたんは近所のスーパーまでやってきた。いや、さっそくではない。途中いろいろとあって普段なら徒歩5分で着くはずのところを30分もかかってしまった。いちいち説明するのはとてつもなく大変なので、なゆたんの面倒な発言トップ3で何があったのかを察していただきたい。
「リアル幼女www豪牙さん3メートル以内に近づいたら通報・・・・・・はい通報しますたwwwww」
「我が名は全知全能の女神なゆたん。犬風情が我に勝負を挑むというのか?」
「あそこを走ってる車に亀の甲羅をぶつけても良いですか?」
やっとの思いでスーパーに着くと、なゆたんが目を輝かせ始めた。まるでカラオケボックスのパーティールームの天井に吊り下げられているミラーボールのように。
「これがスーパーって場所なんですね。美味しそうなものがあっちにもこっちにも!」
キョロキョロと周りを見渡す姿は、遊園地にやってきた子供のようだ。なゆたんはシソが食べたいって言ってたけど、それだけじゃさすがに料理にならないし何を買おうかな。そんな悩みもあっさり吹き飛ぶほど、アイツはさっそくやらかしてくれた。
「豪牙さーん。これこれ」
「ん?何かあった?」
「めっちゃぷにぷにwww弾力さいこーwww」
急いでなゆたんのもとへ近づくと、魚の入ったパックに向かってもの凄い勢いで指をつんつんしてやがる。
「おいこら!商品を触っちゃダメだ!」
「はいはーい」
返事をしたなゆたんは、そのまま先へと進んで行ってしまった。
まったく。これだけ触ってしまった商品は買わなきゃいけないじゃないか。こんなことされまくったら、どれだけ買わなきゃいけないんだ。早く止めないと。
で、何を買ったんだ・・・・・・
なんだ・・・と・・・本マグロ中トロ2500円だと・・・?!
よりにもよって魚売り場で一番高い商品じゃねーか。どうせなら刺身用ツマ100円にしてくれれば、いやいやこんなことしちゃダメなんだって。早く捕まえてこれ以上の被害を出さないようにしなきゃ。
ダッシュで追いかけていったその先で、新たな商品をつんつんしているなゆたんの姿があった。
「こら!商品を勝手に触るなって!そういう風に触ったら全て買わなきゃならなくなるだろ!」
「てへぺろ」
「おい。てへぺろとか言って真顔じゃねーか。反省してないだろ。いや本当にてへぺろ顔をしてたとしても反省してないだろうけどさ!」
「ごめんなさい」
素直に謝ったなゆたんは商品を渡してきた。とてもすまなそうに下を向いている。少しは反省してるのかなと思いつつ商品を確認すると・・・
なんだ・・・と・・・和牛サーロインステーキ4000円だと?!
「おい!もう何も触るな!悪いことしたってわかってるんだろうな!」
「だって・・・こうでもしないと買ってくれなかったでしょ?」
思いもよらぬ答えが返ってきた。
「買ってほしいなら素直に言えば良いじゃないか」
「その値段を見ても買ってくれた?」
「う・・・・・・。ダメって言ってたと思う・・・」
「でしょ。せっかくのパーティーなんだから豪華にしたくて。でも相談しないでこんなことしてごめんなさい。もう商品に触ったりしません」
素直なところがあるんじゃないか。叱るにしても、もっと優しく言った方が良かったかな。
「お・・・おう。これからは気をつけろよ。もう怒ってないから一緒に買い物の続きをしよう」
「うん・・・ありがとう」
そう答えると、なゆたんはゆっくりと顔を上げた。その表情は完全にてへぺろ顔だった。
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