女神は俺と一緒に暮らすことになった

「暮らしまーす!ここにお世話になりまーす!」


 突然やってきたなゆたんこと自称女神はとんでもないことを言いだした。


「え?暮らす?誰が?」

「私以外に誰が見えてるんですかwwwこっわwwwwww」

「怪しい女神だけが見えてる」

「え?私以外に女神がいます?」

「お前のことだ!」

豪牙ごうがさんって目が悪いんですね。なかなかこんなに立派な女神はいませんよ」


 まるでマンガの背景にふふーんという文字が描かれているかのように、なゆたんは得意げな表情をしている。


「あ、この『ふふーん』は実物ですよ。神通力で出してみました」

「本物かい!」


 なゆたんは頭の上にふよふよと浮かんでいた『ふふーん』を掴むと、俺に手渡してきた。


「意外と柔らかいんだな」

「怪我をしないように柔らかめに作ったんですよ。角も丸みを持たせて。これでもちゃんと考えてるんですからね」


 確かに細かいところに気をつかってるようだけど、俺への対応は何も気をつけてないよね。もう少し俺にも柔らかく接して欲しいものだ。いやいや、そんなことより重大な話の途中だった。


「暮らすって言ったよね?」

「言いましたよ」

「誰が?どこに?」

「えっwwwまたさっきのやりとりを繰り返すんですかwwwwww」

「それはやらなくて良い。ちゃんと確認したくて」

「私が豪牙さんと一緒に暮らすんです」


 やっぱりそういう意味だった。もしかして何か違う意味があるのかもと期待したけれど、そのままストレートだったよ。


「急に言われても困るし。それになゆたんも・・・わ・・・若い女の子なんだからさ・・・」

「別に普通ですよ」

「はぁあ?!!」


 変な声を出してしまった。男と女が一緒に暮らすのが普通?

 それも一方的にやってきて、いきなり暮らし始めるのが普通なの?

 もしかして、男女の関係になったり・・・・・・いやいやいや、ダメダメダメ。何てことを想像しているんだ俺は。


「豪牙さん顔が真っ赤ですよ」

「あ、いや・・・その・・・・・・」

「いやらしいこと考えてません?そういう意味で言ったんじゃないですよ」

「だって男と女が一緒に暮らすのが普通って・・・」

「やっぱりいやらしいこと考えてたんですね。豪牙さんはスケベですね。ヘンタイですね。ジャパニーズはヘンタイばかりだYO!」


 何故に外国人キャラになった。いや良く考えてみたら、人間と神の関係って日本人と外国人よりも離れてるよな。


「やっぱり普通の意味が良くわからないんだけど」

「人間と神が一緒に生活してるのは普通ですよ。あちこちに居るじゃないですか」

「そんなの見たことないよ。小学校の同級生の家にヒゲのめちゃめちゃ長い老人がいたけど、それは神じゃ無くて単にその家のおじいちゃんだったと思うし」

「わかりやすい例で言えば神棚ですかね。おもいっきり神を呼んでるじゃないですか。あれみんな喜んじゃって、結構その場所で暮らしてる神も多いんですよ」

「本当にお供え物って神が口にしてたんだ」

「その他にも、身近な品で愛着のある物に神が宿ったりもします。山や川のような自然にも神はそれぞれいます。人間が思ってる以上に神はみなさんの周りに暮らしてるんですよ」


 日本人が古来から身近な物に神様が宿るという考え方を持っていたのは知っている。俺も真剣に信じてるわけではなかったけど、なんとなくそういうものがあれば良いなとは思っていた。まさか神様がこんな性格だとは想像すらしていなかったけどね。


「そう言われても、神と一緒に過ごしている人なんて聞いたこと無いし、神を実際に見たことないよ」

「ここにwww神がいますよーwwwwお前の眼は節穴かwwwww」

「仮になゆたんが神だったとしても初めてだ。これまで見たことない」

「まあそうかもしれませんね。たいていの神は人間から姿が見えないようにしてますし。目立たないようにひっそりと暮らしてますね」


 たしかにそれなら納得できる。けど1つ納得できないことがある。


「じゃあさ、なんでなゆたんはその格好で来たの?」

「売り子のことですか?」

「いやそのことも気になるけど。たいていの神は人間から姿が見えないようにするって言ったでしょ」

「はい」

「なのに思いっきり見えてるよね」

「ああ。そんなの簡単です」


 なゆたんはちゃぶ台に手をついて身を乗り出し、思いっきり顔を近づけてにっこりと笑った。


「そっちの方が楽しいじゃないですか!」


 家にやって来てからここまでなゆたんと接して分かったことがある。楽しいことが好きそうだ。いや、何をやってもどんなことがあっても、楽しくしてしまうのかもしれない。そんな彼女とのやりとりで少し気分が良くなった自分がいる。

 そして認めたくないが、なゆたんの見た目はめちゃめちゃ俺の好みだ。


「本当に暮らすの?」

「当たり前ですよ。そのために来たんですから!」

「良いの?俺と暮らすなんて」

「はい!一緒に暮らしても大丈夫ですか?」

「・・・・・・うん」


 すると、はじけんばかりの笑顔になったなゆたんは、ちゃぶ台を乗り越えて俺におもいっきり抱きついてきた。


「やったー!ありがとう!よろしくお願いします!」


 柔らかい。抱きついてきたなゆたんの身体は柔らかくて気持ち良い。それとなにやらとても良い匂いがする。なんて思っていられるのもほんの一瞬だった。


 なゆたんは抱きついたまま立ちあがり、自分もそれにつられてというか、腕の締め付けで持ちあげられて立たされた。そこからクルクルと回りはじめ、まるで草原で楽しそうにしている映画のワンシーンのよう・・・・・・にはいかず、どんどんどんどん高速で回転しはじめた。


「ちょ・・・回りすぎ・・・・・・」

「え?何ですかー?暮らすのを許してくれてありがとうございます。凄く嬉しいです!」


 そう言ってくれるのはこっちも悪い気はしないけどさ。回転が速すぎて、その口が風圧でとんでもない形になってるからね。いやいやいや。回りすぎにもほどがある。そろそろ止めて欲しい。


 本当に一緒に暮らすことを許して良かったのだろうかと少し後悔しながら、俺の意識は遠のいていったのだった。

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