0-2 どうやら神様は実在したらしいです。  

 目が覚めるとそこは、湖のほとりの木陰だった。


 ここは一体?…それにさっきの傷もない。さっきの事故は夢だったのだろうか?いや、そんなはずはない。


 ものは試しにかるく自分のほっぺたをつねってみる。

 うん、痛い。

 やはり夢ではなさそうだ。

 となると、ここがどこなのかいよいよ分からなくなってくる。

 体感的にはつい先刻、私は車に突っ込まれて死んだはずなのに。

 もしかしたらここは天国なのかもしれない。いや、そうに違いない。

 しかしながら、そう考えるのが自然であるはずなのに、何か腑に落ちない。意識を失う直前、なんとなく誰かと話した気がするのだが…

 そこまで考えたとき、何者かの気配が私の意識を強制的に現実に引き戻した。それと同時に、自分について抱いた違和感に内心首をかしげる。

 こんなに私は他人の気配に敏感だったろうか?


「あっ、やっと目を覚ましたんだね!よかった、しちゃったかと思ったよ」

 その気配の主は意外にも随分早くその姿を現した。見た目は誰から見ても子供、それも私よりずっと小さい。

 顔だちの方は女である私から見ても、一瞬ドキッとするほどのかわいらしさである。

 ただ、腰まで伸びた雪のように一片の曇りもないその白い髪と、まるで蒼玉サファイアのように蒼い瞳が、子供らしさのなかに神々しさにも似た美しさを混在させていた。

「ええっと…君は?」

「忘れちゃったの?せっかくあなたに二度目の人生をプレゼントしてあげたのに…」

 思い出した。たしかに二度目の人生がどうとか言っていたような気がするが、目の前にいるのはいくら人間離れした可愛さとはいえあくまで子供だ。信じられない。

「あぁ、君があの時の…プッ、アハハハ、ないない!君みたいにちっちゃな子が、そんな神様みたいなことできるわけないよ」

「むっ…ちっちゃいってゆーな!わたしだって好きでこんな子供っぽい体じゃないし、それにあなただって十分小さいよ!」

 この子の指摘通り、確かに私の身長も同学年のなかでもかなり小さい方だし、体つきも貧相だ。それについては反論できない。

 だが、それよりも―――


「好きでそうじゃないって、どういう意味なの?」

「わたしがの形をとろうとすると、どうしてもこうなっちゃうの」

 一見わけのわからない言葉であるが、そこそこアニメとかのサブカルもかじっている私にはひとつだけ心当たりがあった。

「…それって要するに、君は本当に神様で、ここは異世界ってこと…?」


「まぁ、あなたからしたらそういうことになるね。わたしたちからすればあなたのいた世界の方が方が異世界だけど」

 たしかにそう考えれば納得がいく。死んだばかりだというのに、異世界生活という言葉にどうにも高鳴る胸の鼓動が抑えきれない。

 いったい何をして暮らそうか。ここまでお約束通りなら、きっとお決まりのチート能力も完備済みだろう。


「ねぇ神様、私に特別な才能、というか能力ってないの?」

「能力?…うーんとね、身体能力が結構高めだよ」

 あれ?たしかに身体能力は大切だけど。

「いや、なんかもうちょい派手なやつはないの?」

「そんなこと言われてもね…」

 そういって自称神様は腕を組み、いわゆる考えるポーズをとる。

「あ!思い出した!確か、の能力がついてた気がするよ!」

 へ?嘘でしょ?

「探知って…何?」

「様々なことを把握できる能力の総称だよ。特にあなたの場合は気配と危険の方面の探知にすぐれているみたいだね」

 …探知っていうならせめて自動マーキングくらいつけといてくれればよかったのに。なんとも微妙な能力だ。まあこれで事故で死ぬことはもうないだろう。何もないより良かったではないか。

 と、持ち前のポジティブ思考でなんとか立て直す。


「ちょっとのど乾いたから水飲んでくるね。というかそこの湖の水って飲める?」

「うん。多分大丈夫だよ」

 神様のくせに多分とは。子供の姿に引きずられて、意外とポンコツなのかもしれない。可愛いから許すけど。

 そんなことを考えながら、水を手ですくって飲もうと水面に映った自分の顔を見て絶句した。

 顔だちは変わっていない。けれど、本来黒かった私の地毛はいつの間にか金髪になり、その瞳はまるで翠玉エメラルドのような色をしていた。




















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