第10話 ◆出発準備

◆出発準備


次の日、ビルに設置されている大型エレベータで、火星に運ぶ機材が屋上駐機場へと運ばれて来た。


RAG号の荷物専用大型搬入口が開き、中から自動フォークリフトが何台も出て来た。


これも、あかねが俺の指示に従って対応しているのだ。


今は2053年だが、AIがあらゆる分野に進出したことで、人がやる仕事が激減してしまった。


現に荷物の積み込みも、今はあかねと自動フォークリフトが連携してやっている。


20年ほど前には人が活躍できる仕事が減ったことで失業者が溢れ、大きな社会問題が起こった。


政府は仕方なく無理やり人の仕事を定め、お飾り程度でしかない職種に人を割り当てることにしたのだ。


これが指名性の失業対策であり、本人が拒否すれば忽ち失業、再就職できる確率は0.5%という悲惨な状況だ。



今回だって火星に物資を届けるだけなら、AIが全て対応してしまう。


海賊との戦闘が発生したとしても、お互いAI同士が戦う。


つまり、今回の仕事も本当は、俺たちなんかまったく必要ないのだ。


でも、そんなことをしたら、この世の中に人が存在する意義がなくなる。


そして、人が居なければ、機械やAIが存在する意義もなくなる。



例えば人が居るから食料を生産する。  広大な畑をAIが機械を使って耕し、穀物を収穫する。


収穫したものを製品にするまでに、人の手が必要になることは無い。


加工・運搬も全てAIと専用機械や自動運転車で事足りる。


それではと、人が居なくなったことを考えてみれば、今度はAIも農耕用の機械もいらなくなるという矛盾・・・



俺は、はっきり言ってAIが最終的に人を不幸にすると思っている。


知能指数テストは人間用では振り切ってしまう。  もはや計測不能だ。


また、当初はAIに想像性は期待できないと言われていたが、蓋をあければ新企画、新製品はどれもみな素晴らしいものだった。


AIは既に人の持っているもの全てを否定する存在になりつつあるのだ。



唯一の救いは、人型ロボットへのAI搭載が禁じられていることだ。


これが解禁されたら、人同士のカップルは完全消滅しかねない。 なぜなら、AIは理想的な異性を完璧に演じられるからだ。


まさに、AIが人類を滅ぼすことになるだろう。



・・・


積荷の搬入も終え、あとは個人の荷物を格納したら、出発準備が完了だ。


猿渡は、何やら怪しげなラベルがついた円盤を持ち込んだようだ。


あかねには嘘をついて申告したようだが、AIの推論エンジンの前では、あっさりばれること間違いない。



佐々木は、大量の菓子を持ち込んだ。  2年分で倉庫の大きな棚が一つ埋まってしまったほどだ。


まるで、遠足気分だ。


遠足なら、おやつは一人300円までにしておけと言いたい。



犬居も円盤を持ち込んだようだが、こっちは電子書籍らしい。 まあ、書籍の内容は色々あるがね。



雉田は、趣味で集めているフィギュアとかいう人形をたくさん持って来た。


なんでも2年も会えないと気が狂うらしい。


こいつに、あかねを任せたい気もするが、キャプテンは残念なことに俺なのだ。



一条マリエは、自分専用の工具類をこんなに必要かというくらい運び込んできた。


あとは、暇つぶし用なのか、百冊くらい集めるとやっと完成品ができる部品付きの本のシリーズもどっさり棚に収めた。



そして俺はというと、あらゆるゲーム機とソフトを山のように用意した。


VRはもう古い。  シアタールームを利用すれば、ホログラムで作った仮想現実世界でゲームが楽しめるのだ。


RAG号のシアタールームは、ドーム型360度で半径が30mもある。


この設備を2年間只で使いたい放題は、かなり嬉しい。



そして、忙せわしなく準備を終えた俺たちは、ついに出発の日を迎えたのだった。


次回に続く・・・

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