いつからか
クコ
いつからか
僕は自分のために絵を描いていた。
自分の思い描いたものや見た風景を表現することが楽しかった。
自分が満足する物が描ければたとえ評価されなくても満足できていた。
でも最近はちがう。
何を描いていても彼女のことを考える、
彼女はこの絵を気に入ってくれるだろうか、
彼女はこういう絵が好きだと言っていたな、
今度はどんな反応を見せてくれるのか、
確かこういう画風はにが手だと言っていたな。
もちろん今も自分の描きたいものを描いているし、満足もしている、
でも彼女に好きだと言ってもらえる物を書きたいと思ってしまう。
今度彼女をモデルに描いてみようか、
いや、でも彼女は人物が居ない絵のほうが好きだと言っていたな・・・
何をするにも最近は彼女のことを考えてしまう。
彼女の好きな色の減りは早く、
放課後彼女がよく来る時間になるとつい期待して、調子に乗ってミスをしてしまう。
彼女が来ない日はなにか心に穴があいたような喪失感がある。
彼女が他のやつの絵を褒めている時は嫉妬で胸が痛くなる。
自分とは比べ物にならなような画家の先生方にさえ嫉妬をしていた時は、
さすがに自分でもおかしくなったんじゃないかと思ったぐらいだ。
まあ実際最近の僕はとてもおかしい、
きっとこれが恋というものなんだろう、
誰かが恋をすると男はかっこ悪くなるといっていたが。
今その言葉の意味がよくわかる。
今日は彼女は来てくれるのだろうか、最近顔を見ていないからそろそろ来てもおかしくないんじゃないか、
どうしても絵に集中できない、
気がつくとドアを見つめている。もういっそドアのスケッチでもしよか。
「失礼しま~す」
声が聞こえた途端顔をあげると、彼女が立っていた、
驚きと嬉しさと気恥ずかしさで思考がうまく回らず彼女を見つめていると、
彼女はとても不思議そうに小首を傾げ僕の名前を呼んだ。
あぁ、たったこれだけで心が弾づみ、幸福感に満たされ、
自分の顔がゆるんで行くのがよくわかる。
彼女がドアを開ける度に、僕は彼女のことが好きなんだと改めて実感する。
いつからか クコ @lycium_9
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