第12話 ロボットの正体
あの事件は「5・7新宿東口事件」と呼ばれ、
日本中この話題で長い間熱中した。
ただ驚いたのは、事件翌日から始まったニュースやワイドショーでの事件の検証の切り口が「ロボット」じゃなかった事。
20メートル程の巨大なロボットが現れてヤマダ電機を壊し、人がたくさん死んだ。
謎なのは突然現れて突然消えた事と、映像にロボットが映らず黒い靄になった事。
その事実は沢山の人が目撃し、私も——予知夢の中だが—―見たのは間違いない。
しかし私が見てた朝のニュースでは、
「新宿でビルが崩壊し、死者と怪我人が多数出た」
「目撃者はロボットがビルを壊したと証言した」
これのみを事実とし、
「黒い靄の正体」「何故ビルは崩壊したのか」「何故目撃者はロボットを見たと思うのか」
これらを謎とした。
私は暫くテレビの前で口が空いたまんまだった。
一応は、後日アメリカと日本の衛星写真や、新宿の監視カメラの映像を引っ張りだし、ロボット工学の専門家をスタジオに呼んで検証をしてくれはした。
でも残念なことに「群衆心理」の専門家も同時にスタジオに呼ばれていて、ヘミシング効果やこっくりさんを例に出した。
そして、
「映像に写ってる黒い靄の正体はまだわかりませんが、あの動きは巨人に見えます
目撃者達の目の前で、ビルが崩壊し人がたくさん死ぬ、という受け入れがたい現実に直面したわけです
その時の脳の働きによって『ロボットがビルを壊した』と想いたい無意識が働いたのかもしれません
それから、あの現場の一人が『ロボットがビルを壊した』と叫んだら、それまで黒い靄がロボットに見えたなかった人もロボットに見えてしまう
そういった事例は良くあります」
この専門家の話を聞いて口を閉じた。
3000人と言われてる私たち目撃者は、世間からみたら少数派で、証拠の映像は無い…
いくらロボットが居たと力説した所で体験してない人にあるのは客観的事実しかない。
メディアには目撃者を中心としたロボット派から多くの抗議文を受け取ったという。
学校でもこの話題で持ちきりで、先生すら授業中に話題にした。
集団幻覚派もいたが、声を上げるのはロボット派だった。
氷り山や第一原発で暴れたらどうするとか騒ぎ、
「正体は何だと思う?」という議論があちこちで起こり、
答の多くは宇宙人が送り込んだという説から始まり様々な物が飛び出し、
どこかの国の秘密兵器説というのも出てた。
それを聞いて2番目の夢、直子が見つけた旧日本軍の兵器を思い出した。
けど、私は自らのその結び付きを否定した。
錆び付いた不発弾の様な兵器とピカピカの新宿のロボットとの関連性を考えるのは、無理があると思ったんだ。
「直子はどう思うかな」会って話したい。
でも直子はこの日も学校に来なかった。
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