第9話 民族資料館

直子が何してるか想像してたつもりが直子の夢を見てた。しかも起きながら。


直子がどこにいるのか解った。石河町の歴史民俗資料館だ。直子が話してる相手は館長さんだ。

戦時中、原爆造るため石河の生徒がウラン掘らされてた話は、今の時代でもウチの生徒なら皆が知ってる。

直子は転校してきたから知らないんだ。


「陸軍の命令で理研が研究してたのが原爆の他にもう一つあってね

ロボットを作ってたって

私の親父がね、当時兵隊が話してるのを聞いたとかで

大石都々古和気神社辺りにも理研の建物があったらしくて、そっちで作ってた、って話してたんだ」

「ロボット乗りたーい、完成すれば良かったのに」

「殆ど完成してたらしいけどね

すぐ終戦になったから使う間も無くて壊しちゃったらしいね」

「どこかに残ってないのかなあ」

「理研の研究者が終戦した時に原爆の研究材料を埋めてたらしいから、ロボットの方も神社の山のどこかに埋まってるかもね」


館長さんは遠くを見た。あざだけの方の顔で言った。

「お嬢ちゃん呪いたい気持ちはある?」

「えー?ないよ呪いなんて」

「ロボットを動かすには呪いが無いと動かない、って親父が聞いたらしい

呪いで機械が動くわけがないから

兵隊さんから聞いた事だろうし、精神論の事だと思うけどね」

「呪いかあ」「起立!」

出遅れて立ち上がって礼をした。

資料館にいる直子の夢に没頭してたけど私は教室にいるんだった。

授業が終わったおかげで夢が途切れてしまった。


休み時間になってクラスの子が話しかけてくるので教室から外に出た。

続きが気になる、続きを見たい。

トイレの個室へ行ったがここじゃ集中できないのか、夢に繋げなかったので教室に戻った。

次の授業が始まるのを待つ、これだけ意識が乱れちゃもう無理かな...。


石段を降りてきたお婆さんが「こんにちは」と直子に声をかけた。

足元が覚束ないので心配になって目で追ったが、全ての段の石の状態を憶えてるみたいでゆっくりスイスイと石段を降りて行った。

大石都々古和気神社に来たんだ。

無事直子と繋がった。


私は左側に顔を向けて教室の窓の外を見た。

再び前を見ると直子は大きな石の前にいるのが見えた。

直子のいる神社の明るさを見て、これはリアルタイムだと思った。

過去の直子の姿じゃない、今日の直子の行動が見えるんだ。


白い表札に「亀石」とあるのを見て直子は、何度も見る位置を変えてその大きな石をみた。

その脇を、今度は石段を上がって来たらしいお爺さんが横切って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る