第6話 記憶

記憶。それはそれを持つものにしか分からないもの。すなわち、当人が分からなくなってしまった時点で、その記憶は世界から消失してしまうのである。ただし、"その記憶が刻まれた世界"で。


先程までとは打って変わって明るさのかけらもない姉の顔を見ていると、自分が置かれている状況がどれだけ異常かを今まで以上に感じる。


「どうしたの?」


卒直に訊いてみた。


「あいつが、あいつがあんたを殺したの!」


声が震えている。

僕は一瞬よく分からなかった。そして、今まで僕は自分が死んでいることを自分自身に隠していたのだと自覚した。もしこれで姉が僕の前から消えてしまったら、僕が僕の記憶を自分自身で消し去ったまま誰も教えてくれなかったら、僕をどうなってしまうのだろうか。


これはあくまで精神的な話。冷静に考えると僕の記憶の限りでは僕が死ぬ前に家にいたのは母のみ。なら、あいつは一体どうやって?

そしてもう一つ。


--姉は何故それを知っているの?


それについてはあえて訊かないでおいた。


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