リアルなぞなぞ~お父さんが嫌いな食べ物の話

鵜川 龍史

リアルなぞなぞ~お父さんが嫌いな食べ物の話

〔登場人物〕

出:出題者

素:素直だけど知識が変

謎:謎々しようとしている人

生:生真面目

統:間違った統計学者


座り順:出 生 素 謎 統


出:なぞなぞ出しまーす。お父さんが嫌いな食べ物、なーんだ?

素:あ、このなぞなぞ、知ってるよ。

出:え、そうなの。じゃあ、先に他の人の答えを聞いてから……

素:(出題者の発言を無視して)ほら、あれだよ、あれ。あれでしょ。

統:何だっていうんです?

素:思い出した! つまいらず!

統:(片言で)ツマイラズ?

素:あれ、知らないの? ねこいらず、みたいなやつ。

統:ねこいらず、ってあれでしょう。ネズミ殺すやつ。猫がいらないから、猫いらず。

素:そうそう。同じだよ。妻がいらないから、妻いらず。

生:ちょちょちょ、待て待て。なんか、すごい物騒な話になってないか。

素:だって、毎日の食事に、少量ずつ入れていけばいいんだよ。

生:何が「だって」だよ。完全に犯罪でしょ。

謎:そうそう、だめだよ。食事に少量ずつ入れるって、それ、奥さんが料理するってことだよね。

素:当り前でしょ。誰が自分で食べるご飯につまいらずを入れるんだよ。

謎:いや、だから、それじゃ「つまいらず」にならないじゃん。「つま」、いるよね。必要だよね?

素:……あ、ホントだ。

謎:だめだなあ。こういうのはね、発想の転換が必要なんだよ。(ゆったりした動作で手を上げる)はい!

出:どうぞ。

謎:チチヤスヨーグルト!

出:うわー。何か、惜しい。

謎:ええー。「父 嫌っす」でチチヤス。ダメ? ねえ、ダメ?(甘えた口調で)

出:(ちょっとにやにやしながら)これはこれで、アリかな……。

素:え、ちょっと待ってよ。「父 嫌っす」だと、父のことを嫌ってるって意味になるんじゃないの。

(出題者、はっとして、傷ついた様子で胸を押さえる)

謎:パパ! ごめん! そんなつもりじゃ……。

素:あ(出題者と謎々を交互に指さしながら)そういう関係?

統:これは、不正の臭いがプンプンしますね。

謎:どこが不正なんだよ。

統:ふふふふ。実は、小規模事業者に関する、興味深い調査があるんですよ。現在の経営者と先代の経営者の関係性について調べたところ、なんと八割以上が親子だったんです。権力を持った親は、自分の子供にその権力を継承させたいと考えるものなんですね。つまり、出題者からそこの彼に、なぞなぞの解答がリークされている可能性が高い、ということです。

謎:(慌てた様子で)パ、パパぁ!

出:慌てるなって。余計に怪しく見えるだろ。

謎:そんなこと言ったって。

出:だいたい、お前の解答、間違いだし。

謎:え? チチヤスヨーグルト、ダメなの?

生:(出題者をかばうように遮りながら)おい、そこのバカ息子! ふざけるにもほどがあるぞ!

謎:誰もふざけてないだろ。

生:(聞いてない)この問題はな、出題者様が、丹精込めて作り上げた、珠玉の一題なんだ。それをお前は、くだらないダジャレなんかで返しやがって。

謎:そ、そっちか。ご、ごめんなさい。

生:ということで、解答はこの私にお任せを。

出:(困惑しつつ)どうぞ、お任せします。

生:高野豆腐です。

出:なんでだよ。

生:私の父が、高野豆腐が嫌いなんです。

出:そんなところだと思ったよ。どうせ、あれだろ。食感がスポンジみたいだとか、食べるときに出汁が口から溢れるからとか、そんな理由だろ。

生:いえいえ。あの色と名前が原因です。

出:色と名前?

生:ええ。高野豆腐を見ていると、テキサスの風景を思い出すらしいんです。

出:あー、そっちの荒野ね。

生:イメージしてください。眼前に広がる、高野豆腐のパノラマ。小さなブロックが織りなす、無限の大地。

出:うわー、足元、水分でぐちゃぐちゃだ。なんかベタベタするし。

生:ね、嫌でしょう?

統:(あきれた様子で)嫌でしょう、って、何の話をしてるんですか。そういうことじゃないんですよ。(おもむろに手を上げる)はい。

出:どうぞ。

統:ありがとうございます。それでは、検証を始めましょう。

出:検証?

統:(出題者を示しながら)あなたから順に、ご自身のお父さんの嫌いなものを言っていってください。

出:え、俺も? 親父の嫌いだったもの? 何だっけ……(謎々に向かって)お前、昔、何かやらかさなかったっけ。

謎:おじいちゃんに? そういや、俺が小さい時、生卵投げつけたら、うずくまって泣いてたよ。

出:そうだそうだ! 生卵が苦手だった!

統:(出題者と謎々に軽蔑の眼差しを投げかけつつ)次の方は?

生:フルーツポンチ。

出:え? 高野豆腐じゃないの?

生:父が嫌いなのは、荒野です。高野豆腐に罪はない。

素:(生真面目の解答に首をかしげつつ)うちのお父さんはカキフライかな。

謎:あー、うちもカキフライだわ。(素直と謎々、握手する)ねー、パパ。(出題者、苦笑いでうなずく)

統:おお。私の父もカキフライが苦手でした。さて、(誇らしげに)ということで、五人中三人、つまり実に六割の人間がカキフライを上げましたね。カキフライだけに、揚げましたね。

(周囲を見回すが、無反応)

統:つまり、日本全国では約二千万人が、全世界では実に十二億人もの人が、カキフライを嫌っているという計算になります。よって、カキフライが正解、と!

出:(ため息交じりに)どういう計算だよ。全日本カキフライ協会に怒られるよ。

素:全カ協が出てくるとなると、これはやっかいだね。

謎:(おずおずと)みんなさあ。これがなぞなぞだってこと、忘れてない?

素:そっか。なぞなぞだ。

謎:そうだよ、なぞなぞなんだよ。

素:謎が謎を呼ぶ、ってことだよね。

謎:え? お前の答えが、謎だよ……。

生:いやいや、これは素晴らしい指摘だよ。つまり我々は、こう問い直さなくてはならないということだ。「なぜ、お父さんはその食べ物を嫌っているのか」

統:そういえば、世のお父さん方が最も嫌いなイベントが健康診断、最も忌み嫌っている言葉がメタボリックシンドローム、貰って嬉しくないプレゼントランキング、堂々の一位がメジャーだ、という資料を見たことがあります。

生:そこから浮かび上がってくるキーワードは(少し、考え込む)炭水化物、だな。

素:炭水化物っていうか、それって要は、糖質ってことでしょ。じゃあフルーツ、とかかな?

出:(傍白)思わぬところから正解に近づいてきたな。

統:甘い!

素:甘いよねー、フルーツ。

統:そういう意味ではない! フルーツの糖質など、パンや白米をはじめとした主食どもの比ではないのですよ! 例えば、生のフルーツの中でも、比較的糖質が高めなのがバナナですが、これは、100グラムあたり約21グラムが糖質です。

素:じゃあ、主食は?

統:同じ100グラムあたりで言えば、白いご飯で約36グラム、食パンに至っては、約44グラムが糖質なのです。

生:これで決まりだね。

統:ええ。正解は、主食、ってことですね。

出:主食、ってなんだよ! お父さんの腹回りの心配しろなんて、誰が言ったよ!

素:じゃあ、正解は何なの。

出:パパイヤだよ!

素:なーんだ。やっぱりフルーツじゃん。

統:そんなはずはない。日本食品標準成分表を見てくれ!

謎:だから、そういう話じゃなくて、これはなぞなぞなんだって!

生:つまり?

謎:答えにも謎が隠されているってこと。

生:なるほど、パパイヤに隠された謎、か。

統:パパイヤの成分表に何か秘密が。

素:もしかして、青パパイヤのことじゃないの。

出:もう、勘弁してよ。みんな、帰って!

謎:パパ?

生・素・統:イヤ!

(幕)

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リアルなぞなぞ~お父さんが嫌いな食べ物の話 鵜川 龍史 @julie_hanekawa

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