第25話

 基地から脱出し、全員状態を確認する。


「……それにしても、ラグナロクにあの『眷属』が居るのは想定外なの」


 ライトニングの言葉に、メアリーは首を傾げる。


「どうして?」

「あの眷属は『全能の目オール・アイ』。全てのことを見ることが出来る、眷属。見通すことの出来る眷属。その眷属と出会うと、運命が決まってしまう。そう言われているレベルなの」

「……オール・アイ。そんな眷属とどうやって契約出来たというの……」

「眷属は気まぐれなの。だから、もしかしたら偶然契約出来た可能性だってあるの。裏を返せば……」

「……もしかしたら、ロマから興味を奪えば彼女を味方にすることも出来る……?」

「……可能性はあるの」

「可能性、ね」


 メアリーはゆっくりと歩き始める。


「しかし、眷属の中でコミュニケーションとか取らないわけ? あなたの住んでいた世界……ええと、確か名前は」

「天界のことは、聞かない方が身の為なの。ただ言っておくと、あなたの世界から一つ次元を上げた世界と言えば良いの。神や、それ以外の存在が住む平和な世界。起源も終焉も誰も分からない、そのある種の終わりに近い場所。その場所に向かうことが出来るのは、僅かな存在なの」

「フルはそこに……」

「あくまでも、可能性の一つなの」

「可能性、かあ」


 メアリーは悔しそうな表情を浮かべる。


「でも、それが分かればそれでいいや。……さ、行きましょう。次の星へ。次の剣を手に入れるために」


 そして、彼らは旅を続ける。

 平和のためか、一人の人間のためか、終わりはまだ見えてこない。



 ◇◇◇



 ロマ・イルファとオール・アイは宇宙船に戻って、会話をしていた。


「次は如何なさいますか、ロマ」

「あなたの見解を聞かせて貰いたいわね、オール・アイ」

「私としては……次に向かうべきはトロワでしょうか。アント、トゥーラ、サンクとありますが……一番剣の反応が強いのはそこですね。放置されてしまっているのでしょうか、帝国もあまり気にしていない様子です」

「トロワ……大地の大半が海に沈む星だと聞いたことがあるけれど?」

「ええ。ですから少数民族が住んでいるだけ。未開の惑星です。帝国も手出しが出来ないのは、伝説の木を祭っている民族がいるからだとか」


 歌うようにオール・アイは言う。

 そしてオール・アイの言葉に首を傾げるロマは言った。


「伝説の木?」

「黄金に輝く木の実……あなたも知っているでしょう? この次元に必要の無い、上位世界からの落とし物、『知恵の木』があのトロワにもあると言われているのですよ。そして、彼らはその知恵の木を守っている。どうです、気になりませんか」

「気になるわね、とても」


 そして、二人の会話は終了する。

 次の目的地は、トロワ。



 ◇◇◇



「次はどこへ向かうべきかしらね」


 空港に着いたメアリーたちは、想像以上にスルーされていた。

 意外にも彼女たちはもう少し影響があったのではないか、と思われていたが、


「そこはあの将軍に感謝するしか無いかもしれないわね……。あの将軍、もしかしたら剣の力を集めさせたいのかもしれない」

「剣の力を?」

「剣の力を集めた人間は、どんな願いだって叶えることが出来る。噂程度の話だけれど……信じるのもいいとは思わない?」

「ですが、それは本当に」

「真実よ。十中八九、真実だから」

「……誰が、それを言ったんですか?」

「かつて、私が歴史書を見たとき、リュージュの書いた日記を見たのよ。……その頃から、オール・アイという眷属は世界に居たということは知っている。そして、オール・アイが『祈祷師』として存在していた、ということもね」

「それって、つまり……」


 リニックの問いに、頷くメアリー。


「ええ。つまり、そういうことよ。リュージュは二人居た。一人は本物のリュージュ・ホープキン、そしてもう一人が『眷属』たる存在。リュージュは眷属のオール・アイに操られていただけに過ぎない。この世界を守るためにも……オール・アイが何を考えているかは知らないけれど、その野望を止めなくてはならないのよ。それは世界の為にもなる」

「眷属ってことは、ライトニングと一緒ですよね? ライトニングにどうにかしてもらえないんですか?」

「出来るなら苦労しないの」


 こくこくと頷いて、


「それに、世界に眷属を存在させるということ、それがどれほど世界に無茶をさせているか分からないの? まあ、人間には分からないことかもしれないけれど、この世界に無茶をさせすぎて崩壊してもらっても困るの。だから、その為に無理矢理に眷属が介入してその崩壊を食い止めている、ということなの」


 意外とお喋りなんだな、とリニックは思いながらも、徐々にその事実をかみ砕いていく。


「……でも、それだったらオール・アイを追いかけた方が良いんじゃあ?」

「オール・アイも剣を狙っているでしょうね。そして、帝国も剣を狙っているはず。ねえ、リスト。あなたはどうする?」


 リストに尋ねるメアリー。


「どうする……って」

「あなたはカトルにお父さんを探しに来たのでしょう? ここであなたはさよならするか、私たちと旅を続けるか。それはあなたに任せるわ。どうする? 一緒に来る?」

「僕は……ここでお父さんを探します。探させてください」


 それを聞いたメアリーは頷く。


「そ。なら、それが一番ね。人生は一度きりなんだから、後悔しないようにね」


 そうして、メアリーたちは空港のコンコースを歩き始める。

 一人、取り残されたリストはずっと彼女たちを眺めていたが、


「あのっ!!」


 コンコースの空気が冷えたような感覚だった。時間が止まってしまったような、そんな感覚にも陥っていた。

 リストがメアリーたちに向けて大声を上げていた。

 メアリーが代表して踵を返す。


「……何?」

「ほんとうに、ありがとうございました!!」

「……ええ、ありがとう。私たちがここまで来られたのも、あなたのおかげよ」


 そして、再び時間が動き始める。

 雑踏にメアリーたちは消えていくのを見送って、リストもまた去って行くのだった。

 これが彼らの最後の別れ――にはならず、またどこかで会うことになる。

 それがいつになるかは、未だ彼らが知るよしもない。


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