第24話

「成し遂げたいこと? それは、善良な市民を利用してでも行わなくてはいけないことかね? であるならば、私に話すことの出来ることだな?」


 ミイラはメアリーに視線を合わせる。

 まるでミイラが生きているような、そんな感覚に陥らせる。

 そして、メアリーは諦めたかのような溜息を吐いて、発言した。


「かつての予言の勇者……フル・ヤタクミを蘇らせる。それが、私の野望よ」



 ◇◇◇



「フル・ヤタクミを蘇らせる……?」


 リニックの言葉に、メアリーはこくりと頷く。


「ええ。何も言わなくてごめんなさい。けれど、これだけははっきりしておきたかった。あなたを利用するために私たちはあなたを攫ったんじゃあない。……フルを救いたい。だから、そのために私はあなたを救った」

「それは救ったと言わずに、攫ったと言ってなんと成るんですか」

「ならないかもしれない。けれど!」

「――予言の勇者の復活か。しかし、それは間違っていない選択肢だと言えるだろう」


 ミイラ――シールダーは再び棺へと戻っていく。

 しかし剣のみは浮かんだままだった。


「……少年よ。未だそれを聞いてもなお、世界を救う覚悟があるならば、剣を抜き去っていくが良い」

「剣を抜く覚悟……」


 果たして、リニックにそこまでの覚悟があるのか。

 そして、そこまでの覚悟を作り出せる時間があったのか。

 それは誰にも分からない。彼にしか分からないことだ。

 でも、だからといって。

 覚悟がないと決めつけて良い理由にはなりはしない。


「……分かりました。僕は、覚悟を決めましたよ、メアリーさん」


 剣を手に取ろうとして、リニックはさらに話を続ける。


「フルさんの名前を聞いたことがある。それは歴史の上で『世界を滅ぼした悪』だと言われているからだ。世界をああまでした悪だと言われているからだ。けれども、僕はそうは思わない。メアリーさんを見ていると、フル・ヤタクミは本当に世界を救っていて、何故かは知らないけれど、世界から消えてしまっていたのだと言うことを思い知らされる。ならば、どうすればいい? どうすれば、僕はその役に就くことが出来る?」


 一息。


「簡単なことだった。全ては簡単なことだったんですよ。結局は予言の勇者に、僕たちはその力を預けなくてはならないのだけれど、その力を使うだけじゃあ、何も羽島ないし、意味が無い」

「……ほう。ならば、その力、どう使う」


 シールダーの問いに、リニックは目を瞑って、


「決まっている!」


 そして剣を構えた。


「その力は、誰のためでもない、世界のために使うんだ!!」


 そして、ミイラはその余波を浴びて――そのまま消え去った。

 剣もそのまま消えてしまったが、リニックは力を感じていた。

 激しい力が、自らの内から感じると言うことに。


「あーあ、あっという間に『剣』を取られてしまったではありませんか、ロマ。あなたが街であれも食べたいこれも食べたいと言っていたから」

「そうだったっけ? 言っていたのは、オール・アイ。あなたの方ではなくて?」


 声が、聞こえた。

 踵を返すと、祠の入り口には二人の女性が立っていた。

 そしてメアリーは目を丸くして、その場に立ち尽くしていた。


「……ロマ・イルファ。あなた……何処に行っていたの……」

「何処に行っていた? 随分なものぐさね。兄を見殺しにしたくせに」

「ち、違う! あれはオリジナルフォーズの攻撃に私たちが敵わなくて……。それはあなただって見ていたはずでしょう!?」

「ま、そんなことどうだっていいんだけれどさ」


 メアリーやライトニングを無視するように、祠の奥へと進んでいくロマとオール・アイ。

 そしてロマとオール・アイは、リニックと対面した。

 リニックの顔をじろじろと見つめて、一言呟く。


「ふうん、君が『剣の適格者』ね。何というか、あいつそっくりで憎たらしい」

「剣に選ばれる者には共通点があると言われていますから、相似するのも致し方ないことでしょう」

「……ふうん。ま、別に良いけれどさ」


 踵を返し、祠を出ようとするロマ。


「待って、ロマ・イルファ!」


 メアリーの言葉を聞いて、顔をそちらに向ける。


「何?」

「あなたはいったい、剣を求めてなにをするつもりなの……?」

「決まっているわ。あなただって知っているでしょう。お兄様の居ない世界なんて、もう要らない。けれど、お兄様を蘇らせる術を手に入れることが出来る、と分かれば動かないわけがない……」

「剣に齎される全能の力を、使おうというわけね……」

「あなただって、そうしたくて剣を集めているのではなくて? メアリー・ホープキン」

「違う、私は……」

「まあ、いいわ」


 再び顔を元に戻すと、祠を出て行くロマ。


「少年、せいぜい剣を集めなさいな。そして、いつかまた私たちと戦う時が来るでしょう。そのときを、どうか忘れないでおいてね。……ええと、名前は」

「リニック。リニック・フィナンス」

「そう。リニック。……覚えておくわ、また会いましょう、リニック」


 そして、ロマとオール・アイの姿は消え去った。


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